068 封印
2016. 11. 22
解毒薬をもう一鍋作り終えると、戦士団に薬を飲ませるのも薬師と冒険者に任せる。そうすると、ふとラクトが気になった。
ラクトはずっと壺を前に掲げ持ったまま、目を瞑り集中している。それをじっくりと見ていると、ようやく何をやっているのかが分かった。
ファナがかけた壺への封印は緩めてある。ほんの少しの力で蓋を開ける事が出来るのだ。
開けたからといって封印が完全に解けるというものではない。ファナの封印は、魔女からの直伝だ。
万が一蓋が開けられてしまったとしても、留める力を残してある。いわば、二重の封印といってもいい。ただ、中のものに外へ出ようとする力が強ければ、それはいずれ解けてしまう。
今回、壺にかけた封印術は弱めてある。それはつまり、中の留める力も弱めてあるという事だ。だから、引き寄せる力が強ければ、蓋を開けてすぐに完全に封印が解けてしまう恐れがあった。
そんな壺にラクトは、封囲術を施そうとしている。それは薄く、完全に気配や力を遮断しないように、壺を覆うものだ。
しかし、それがただ囲うだけのものであるとは思えなかった。
「膜……?」
一定の大きさに囲うだけの通常の封囲術ではなく、薄く、柔らかい膜のように壺を包むように感じられたのだ。
ファナは見惚れるように、ラクトが作り上げていく封囲術を観察していた。
見た事もない魔術が見られる事で、ファナは時間も忘れ、ただ見入っていたのだ。
どれだけ時間が経っただろうか。しばらくして、ラクトが不意に目を開け、動きだした。
そして、壺の蓋をおもむろに開けると、中から黒い玉が出ようとする。しかし、壺から飛び出した黒い玉は、封囲術の膜によって、壺から出て頭を出した所で留められていた。
それを遠目で確認したファナは、何かを感じて毒霧を吐き続ける男へ目を向ける。これと同時にシルヴァも上空で毒霧を囲んでいる風へと集中したようだ。
男の口から出される毒霧の量が減っていくように見えた。それは気のせいではなく、確実に量が減っている。シルヴァはそれを最後まで逃さないように風で引きつけ、上空にある風の檻に留めていく。
吐き終わるのではないかと思われるほど細くなった毒霧の線。その時、男の様子が変わった。
「……痙攣してる……?」
ヒクリヒクリと体を震わせる。そして、大きく一つ何かを吐き出した。
それは、男の大きく膨れた腹の中のものを全て出すように見えた。それでも出てきたのは黒い大人の握り拳よりも一回り大きい塊だ。
それを吐き出すと、男の体は急激に干からび、地に倒れる。皮膚の色は黒く変色しているようだ。
男の最期を見届ける間もなく、吐き出された黒い塊の行方を追う。それは、真っ直ぐにラクトの方へと向かっていく。そうして、壺の中へと納まったのだ。
これで終わったと、ファナはホッとしながらラクトの所へ合流しようと駆け出す。
丘を登り、壺へ押し留めるように蓋をしたラクトを見る。その時だった。
ふと上空から嫌な気配を感じたのだ。
「何?」
そうして顔を上げた時、何かがラクトに向けて飛んでいくのが見えた。
「っ、兄さんっ!」
叫ぶと、ラクトも気付いたのだろう。真っ直ぐに飛んでくる光の矢。それに向けて、咄嗟に魔力を込めた手を翳したのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
兄さんのピンチ?
何かが現れたようです。
黒幕でしょうか。
では次回、一日空けて24日です。
よろしくお願いします◎




