067 投薬開始
2016. 11. 21
ボライアークに乗って遠ざかって行くバルド達を見送ると、ファナは丘の上にいるラクトへ一度目を向ける。
あの場から動かず集中している様子のラクト。隣にいるシルヴァは退屈そうに風を操り続けている。操るといっても、じっと見ていなくてはならないというものでもないので、大きな欠伸をしながら、時折風の具合を確認するくらいだ。
それらに変化がない事を確認すると、ファナはこれから必要となる解毒薬のレシピをまとめだした。
それぞれの薬草の割合から分量を計算し、だいたい、一人当たりに必要となる分量を記す。これで、バルドが呼んでくる薬師達も問題なく薬を作る事が出来るだろう。
一仕事を終える頃、ボライアークが薬師を数人乗せ、戻ってきた。
「ボライアーク?」
《っ……っ……》
「先に薬草と? ありがとう」
ボライアークは、これまでに集めた薬草と、薬師を先に連れてきたようだ。この後、また戻って同じように運んできてくれるらしい。
「往復させてごめんね」
《っっ……っ〜》
「あ、見てきたの? 木が生えてないけど、緑ではあったでしょ?」
《っ、っ、っ……っ》
「うん。いつかは戻るよ」
ボライアークは、ここへ来る間に、神樹のあった場所を見てきたらしい。
今や森の中にぽっかりと広い草原が出来ている状態だ。風景は変わってしまったが、いつかははまた鳥や動物が種を拾ってきて、森へと戻っていくだろう。
ボライアークもあれならば安心だとホッとしたように見えた。
薬師と荷物を降ろしたボライアークは、再びバルド達の所へ戻っていった。見送ったファナは、さっそく道具を広げ、薬草を並べていく薬師達を振り返ると、レシピを渡した。
「これが解毒薬のレシピね。作ってみて」
「はいっ」
薬師達はすぐに解毒薬作りをはじめた。
黒い霧を吐き続ける男や、それをまとめる風を操っているシルヴァ、その隣で何かをしようとしているラクトや、倒れて光の膜に守られている大勢の戦士団の者達など、薬師達の目には入っていない。
ただ、薬を急いで大量に作らなければならないのだと思って作業に集中しているのだろう。全ての疑問は薬を作り終えてからだと息巻いていた。
数時間、ただ黙って薬を作り続ける薬師達とファナ。そこに、今度は馬に乗って駆けてきた冒険者と追加の薬師達が現れた。
「これは……ど、どうなってるんだ……」
そう口々に呟く冒険者達。一方の薬師達は、すぐに薬作りに加わった。
「あの……あれが必要になるとマスターに言われて持って来たのですが」
「あれって……大鍋! ナイスだよ! ほら、そこの人達、その鍋が使えるように窯を作るよ! 急いで」
「お、おぉ……」
小さな馬車に括り付けられていたのは、大きな鍋。本当は口の広く、丸みのある壺のような形の物が、魔女の家にもあった事もあり、気分が上がるのだが、この際、寸胴の鍋でも許そう。
まるで炊き出しでもはじめるような様相。大鍋をかける場所を囲んで、何人もの薬師が薬を作っている。
出来たものは、大量に持ち込んだ薬瓶に詰められていく。
付いて来た冒険者達は、光る膜に包まれた戦士団の者達を近くへ集めようと、慎重に運んでいた。
それからボライアークがまた集めた薬草と薬師一人を運んで来た。
「もう後これと同じくらいで量は足りるかと」
「そうだね。ごめんね、ボライアーク。何回も」
《っ〜……》
目を細め、構わないと伝えてくるボライアークに手を振って見送り、ようやく用意が出来た大鍋を火にかける。
愛用のフードを身につけると、薬草をポンポンと躊躇なく入れていくファナに、薬師達が唖然としていた。
「見てないでどんどん作って」
「は、はい!」
作っても作ってもキリがない程、量がいるのだ。休んでいる暇はない。
ファナは、一気に約百人分を作り上げる。それを今度は瓶に小分けしていくのだ。
「これ……もう面倒臭いから、そのまま流し込んでやったら良いんじゃ……」
杓子で汲むのは変わらないのだから、その方が手間が減るのではないかと思ったのだ。
薬は、一人分ずつ作るのが常識なのだ。そもそも、ファナのように大量に一気に作る事など想定していない。
どれだけ大量にいる薬でも、何日もかけて薬師達は用意するのだ。それを、ものの数分で百人分を作り上げるなんて事は、非常識にも程がある。
瓶に移すのが手間だと考える事もあり得なかったのだ。薬師達も、どう答えれば良いのか分からない。
「やっぱ面倒だし、瓶が無駄だね。ねぇ、その人達を、ここに並べてくれる? ボライアークの術は……」
鍋の近くに戦士団の者達を運んでもらい、並べていく。そうして、側に来た者の光の膜に触れる。どうしたら解けるのかを調べる為だ。
「う〜ん……どうやったら……」
ファナも見た事がない術なのだ。解読に時間がかかる。この場にボライアークがいればいいのだが、そうもいかない。そう悩んでいれば、冒険者が二人で光の膜に覆われていない者を抱えて走ってきた。
「すまん。なんか、鎧が当たったら、膜が破れちまって……こいつ、大丈夫か?」
「破れたの? へぇ……あ、この人はすぐに薬を飲ませて……じゃぁ、そこの人の膜も割って見て。剣かなんかで破れそうだよね」
「あ、あぁ……いいのか?」
「やっちゃって、ここに集めて来てからね。先着百人まで」
「っ、分かった」
光の膜は、案外簡単に割れるらしい。シャボン玉が割れるように、ナイフや剣でぷすっと割れた。
「回復したら一緒に働かせて」
「了解です!」
こうして、目を覚ました者から手伝わせるという、少々酷な人の使い方をし、数時間でなんとか半分以上の者を回復させるのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
薬は無事、出来上がってきているようです。
回復もしていきます。
今度、気にすべきなのはラクト兄さんですね。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




