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065 優しい龍

2016. 11. 18

棲処である穴から出てきたボライアークは海の上へ出ると、徐々に高度を上げながら大陸の方へ頭を向けた。


ファナに気付くと、真っ直ぐに向かって来て目の前に顔を近付け、宙に留まった。


「ボライアーク……具合はどう?」


ファナの身長とほぼ同じ大きさの顔。突き出した口を開ければ、軽く一飲みにされてしまうだろう。


ボライアークは、ファナが巣穴の中で会った時の数倍の大きさになっていた。それでも、まだ本来の大きさではない気がする。


《……っ……》

「大分良い? よかった。でも、まだ完全じゃないなら、出て来るべきじゃ……」

《っ……っっ……》

「助ける? あの人達を? あなたに危害を加えようとしてたんだよ?」


ボライアークの瞳を見れば、ファナには何を伝えてきているのかが不思議と分かった。


《…………っ》

「……人が好きなの……?」


邪龍だと言われていてもボライアークには関係ない。大地を育み、そこに住む者達を愛しているのだ。


「そっか……ありがとう……なら、お願い」

《……っっ、っ……っ》

「今の状態を維持する? そんな事が出来るの?」

《っっ……》


ボライアークも万能ではない。毒を無効化させる事は出来ないし、死んでしまった者を蘇らせる事もできない。


しかし、ボライアークは、今の状態を維持し、時を止めさせる事が出来るらしい。


これならば、これ以上悪くならない。良くなるわけではないが、解決方法はあるから問題はない。


「うん。充分だよ。解毒薬は出来るもの。死ななければいい」

《っ……っ……》


任せてくれと、ボライアークは長い胴体をくねらせながら空を泳ぐ。そうして、戦士団達の上空へ来ると、体から鱗粉のような光の粉を降らせた。


それは戦士団の者達を包むように煌めき、光の膜を作る。包まれた者達は、荒く上下していた呼吸がわからなくなる。


「時間が……止まった?」


まるで光の繭に包まれたような戦士団の者達。目の端では、こちらも毒霧によって倒れていた王弟が同じように繭に包まれていた。


《っ、っ……っ……》

「え? 彼らを乗せて? 確かに移動するには速いけど……」

《っ……っ……》

「……神樹があった場所を確認したいってのも分かるよ? けど……」


ボライアークは、薬草を採りに行くのなら、自分がその場所まで運んでやると言う。


自分を退治しようとやって来た冒険者達をその背に乗せても良いというのだ。


「本当にいいの……?」

《っ、っ……》


ファナが考えている事がボライアークには分かるのだ。この後どうやっても彼らの足でギルドまで報告に行って、薬草を集めて帰ってくるのには時間がかかる。


馬もなく、歩きなのだ。彼らがギルドからこの場所に来るまでに五時間ほどは経過している。薬草の量を鑑み、人海戦術を駆使したと単純に考えても、半日は難い。


それでも最初に毒にやられた者を診立てた時には一日は保つと思っていたのだ。これは、毒の回りが予想よりも早い事はもちろんだが、これまでこの場で野営し、雨の中も待機していた彼らの疲労を考慮していなかった為だ。


ファナは、バルドにドランで移動してもらう事も考えたのだが、それでも限度がある。


シルヴァはといえば、毒霧をまとめるのに集中してもらわなくてはならない。


最も確実なのはファナ自身だろう。ギルドマスターであるツィンを頼り、一気に飛んでいけば良い。


だが、その決断が出来ずにいた。理由は、ラクトが今向かい合っている事にある。


ここを動いてはいけないような気がしていたのだ。


それがボライアークにも伝わっていたのだろう。真摯に任せてもいいのだと伝えてくるボライアークの瞳。それを見て、ファナは決断を下した。


「……お願いします」

《っ……っ、っ》


心配はいらないとボライアークの瞳が優しく笑う。


これを受けてファナはバルドへ叫ぶように伝えた。


「バルド、ボライアークが乗せてくれるから、ギルドへの連絡と、薬草採取をその人達とお願い」

「わ、分かった……えっ!?」


乗せてくれるという言葉が認識出来なかったようだ。しきりにボライアークとファナを見比べている。


「ボライアークがあの人達の時間を止めてくれたから、時間はあるよ。私はここで薬を作る準備と、兄さんを見てる。そっちは頼むね」

「お、おうっ」


バルドも覚悟が決まったらしい。


ファナは一度バルドの元へ降りると、足手まといになりそうな毒にやられて調子の悪い冒険者達へ近付く。


「腕出して」

「あ、あぁ……」


ファナは即席で幾つかの薬草を練り、湿布薬を作る。そうして、彼らの腕に貼り付けた。


「飲み薬とそんなに吸収力は違わないから。消化されて効能が落ちるより、こっちの方がこの毒の場合は良さそうなんだ。乾いて自然に剥がれるまで付けてなね」

「はい……」

「それじゃぁバルド。よろしく」


こうしてファナは、ボライアークに乗って一路ギルドへ向かう冒険者達を見送ったのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



お人好し過ぎる龍です。

これでは、邪龍と呼ばれても怒らないでしょう。



では次回、一日空けて20日です。

よろしくお願いします◎


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