064 諦めるしかないですか?
2016. 11. 17
冒険者達は、突然現れたファナを見て驚いたのだろう。少々高い位置に浮いているファナを見上げたまま、ポカンと口を空けて佇んでいた。
稀に魔女が飛んでいるのを見た者もいるはずなのだが、彼らは空を飛ぶ人を見るのは初めてなのだろう。この反応も頷ける。
だが、今こんなことで驚いていてもらっては困るのだ。ファナは彼らに呼びかける。
「ちょっと、今の状況見てよ。固まってる場合じゃないでしょ」
これによって、数人が正気づいた。
「ど、どういう状況なんだよ……」
それを正体不明のファナに尋ねてしまうほど混乱はしているようだ。
「あの男が、毒霧を出してるんだ。今はあぁして風でまとめてるけど、あれを吸っちゃった戦士団の人達が瀕死でね。解毒薬は作れるんだけど、材料調達と応援を呼ぶのに手がいるんだよ」
戦士団の人数は、ファナ一人で対応できるようなものではない。薬が出来たとしても、一人一人飲ませて歩くとなると、丸一日では終わらなさそうだ。
「な、なぁ、あれ……国王じゃねぇか?」
「本当だ……間違いねぇ……その隣のは王弟だな」
冒険者の中に、毒霧を出している男の正体に気付いた者がいた。
「へぇ。あの人王様なんだ。他に兄弟は?」
「え、あ……確か、後二人弟が……」
「なら、あの弟が助からなくても、何とかなるね」
「……え?」
ファナとしては、国などどうでも良いのだが、国王がいなくなると分かっているのだ。後釜に据えられる者がいるかいないかで少しばかり気分は変わる。
「どのみち、あの王様はもう死んでるからさ。それより、今生きてる人達をどうにかするのが重要だと思うけど?」
冒険者達は、もう頭が付いていかないのだろう。しばらくまた呆然とした後、ピクリと体を震わせて尋ねた。
「……な、何をすればいい……」
「とりあえず、薬草集めてきて。エングリスの葉にクーリエ草、二つバナに……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。メモるから」
ファナがツラツラと必要となる薬草や花を挙げていくのを慌ててメモを取る。
きっちり間違いなく書き終えたのを確認すると、冒険者達の中に青い顔をした者がいるのに気付く。
「もしかして、黒いの吸っちゃった?」
「あ……あぁ……」
「ふぅ〜ん……やっぱり、時間が経つとマズイっぽいか……となると、あの人達もこのままだと薬を作ってるうちに死んじゃうかな……」
毒を吸ってしまったらしい冒険者は、足が震え出している。先ほどまでは気にならなかったのだ。顔色も少しずつ悪くなっているようだ。
毒が徐々に体に回っているのだろう。そうなれば、倒れている戦士団の者達は助からないかもしれない。
「お、おい……あいつら、死んじまうのか? ここにいるのは、国の戦士団の八割だって聞いてんだ。そうなると……」
残したのはほんの少数。たった二割では戦士団を維持できない。
「助けてあげようと思ったんだけどなぁ……これも運命と思って諦めるしかないかも」
「なっ!?」
ファナは諦めモードだ。薬は作れても、命を再び与える事は出来ない。
そんな言葉を、駆け付けたバルドが聞いていた。
「ファナ、まだ薬が間に合えば大丈夫なんだろう? 出来る事をやらなくてどうするっ」
バルドは、ファナが冒険者達を見つけて降りてくるのを見ていた。冒険者と話すのに、ファナだけでは不安だと思い、急いで丘を駆け下りてきたのだ。
そこへファナの諦めるという言葉を聞いて、バルドは血の気が引くのを感じていた。
「とりあえず、材料だな。それと薬師か。ギルドに行って可能な限り冒険者も呼んでくるべきだな」
バルドは焦っていた。ここまで来るまでに、戦士団達の様子を見てきたのだ。青い色ではなく、黒くなっていくのではないかと思える顔色。浅い息を繰り返す様子。それを見て居てもたってもいられないのだ。
「ファナ、彼らはどれだけ保つか分かるか?」
「う〜ん……日没よりもう少し……でも後五、六時間が限界だろうね」
ファナは戦士団の方を振り返り、ある程度の予想を立てる。既に夕刻が間近に迫っていた
「……何人助けられるんだ……」
バルドも、その絶望的なまでのリミットに、希望を持てなくなったようだ。
その時だった。
微かに振動した大地に、バルドが眉を寄せる。更に、ファナの耳にはその音にならない声が聞こえていた。
「今……」
バルドと冒険者達は今の振動を感じたかと顔を見合わせる。
「……ボライアーク?」
ファナはその可能性を感じて空高く舞い上がった。
「ファナ?」
バルドが声をかけるが、ファナは感じた気配と声に集中し、丘を通り過ぎる。そうして、海の上まで出ると、今まさに岸壁の横穴から飛び出した金に光るボライアークの姿があったのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
かなり厳しい時間制限。
どれだけ助けられるのか。
そして、ボライアークが?
もしかしてちょっと助けてくれたりする?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎