063 毒霧の対処
2016. 11. 15
ラクトが差し出した封印の壺の中には、神樹に憑いていた憎悪の塊が入っている。
「これと、あの男に憑いているものから、同じ気配を感じる。同じ人物が仕掛けたもので間違いないだろう」
ラクトは慎重に封印されたものの力を読んでいたようだ。
「同じならば、これにあの男に憑いているものを引き寄せられるかもしれない」
「引き寄せる……」
同じ性質。特に憎悪ならば、引き寄せる事は可能かもしれない。
「出来るか?」
ラクトは、真っ直ぐにファナを見て提案する。ラクトとしては、この状況を見捨てても構わないのだ。ファナさえ無事ならばそれで良いと思っているのだから。
しかし、バルドはどうにか出来ないかと先ほどからソワソワと落ち着かない。それを見て、何とかしなくてはという気になったのだろう。
「出来なくはないと思う……封印を少し緩めて……でも、逃さないようにはしないと……」
これだけ近ければ、封印を緩めるだけでその存在を認識し合うはずだが、引き寄せ合う力を利用したとして、こちらが男の方へ引き寄せられてしまっては意味がない。
「ならば、これをここに留めるのは私
がやる。ファナは封印を弱めるだけでいい。あの毒霧の事もあるしな」
「わかった」
こうして行動は開始された。
シルヴァの風によって、黒い霧は渦を巻いて上空へとまとまっていく。
それを横目で見ながら、ファナは壺の封印を少しだけ緩める。緩めると簡単に言うが、そう容易いものではない。微妙な力加減が難しいのだ。
「これ……くらい?」
「あぁ、いいだろう。あとは任せろ」
「うん」
後はラクトに任せ、ファナは丘を駆け下りる。倒れた戦士団の者達に駆け寄り、診断していく。
魔女から伝授された特別な魔術だ。これによって、体のどこにダメージがあるのか、どんな状態なのかが分かる。
それを確認してから、ファナは杖で上空へ舞い上がると、まとめられた毒霧に瓶をくぐらせた。
中に入った毒霧を確認して、魔術で症状と照らし合わせながら成分を解読していく。
「これなら……」
鞄から幾つかの瓶を取り出し、それを少量ずつ混ぜていく。宙に浮いたまま、膝の上での作業。普通ではない。
「出来た。これでいけるはずっ」
そうして出来上がった一本分の薬。それを毒霧を巻いている風に流し込む。すると、一気に黒い霧が小さくなった。大半が解毒薬によって消えたらしい。
「よしっ、でも量が足りなかったか……材料も足りないし……まだまだ出てきてるじゃん……」
下から徐々にまた黒い霧が巻き上げられている。男の口から、まだ出ているようだ。
「あれを止めなきゃ無理か。兄さんの方がどうなるかかな。材料は……バルドに頼もう」
男の体を動かしているらしい憎悪。それをラクトが取り除ければこの黒い霧も止まるだろう。
毒の解毒薬も材料があれば出来る。手持ちの材料では数が足りないのだ。ここは何かしたいが何も出来ないと落ち込んでいるバルドに協力してもらおう。
そうして地上に向けて降りだしたファナ。しかし、その目の端に、数人の冒険者の姿が映ったのだ。
「あれは……良いタイミングじゃない」
笑みを浮かべたファナは、今まさに森から出てきた冒険者達の前に舞い降りたのだった。
◆◆◆◆◆
冒険者達は、ボライアークを倒す為にクエストを受けた者達だった。
「お、おい……大丈夫か?」
「あ、あぁ……さっきの黒い霧が良くなかったんだと思う……」
仲間の数人は、耐性が弱かったのだろう。毒霧を少し吸い込んだ彼らは、異常を感じていた。
「ありゃぁ、毒霧だよな……邪龍が吐いたんじゃないか?」
「もう戦いが激化してるって事だよな。急ごう」
それでも、責任感のある冒険者達だ。少々の異常状態でも足を止める事はない。
そうして、ようやく森を抜けた彼らが見たのは、丘の上に居座る見た事もない三つの首を持った大きな何か。
その下には、二人の男と白銀に光る毛並みを持つ獅子。丘を降りた周りには、倒れた戦士団達がいた。
状況が全く理解できない。
「ど、どうなってんだ?」
そこへ、一人の少女が長い杖に乗って優雅に舞い降りてきたのだ。
「あんたたち、手伝ってくれない?」
「へっ?」
混乱した冒険者達は、呆然と少女ーーファナを見上げたのだった。
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良いところに来てくれました。
大混乱中の現場にようこそ。
では次回、一日空けて17日です。
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