062 戦士団のピンチ?
2016. 11. 14
戦士団の者達は、ドランを見て異変を察し、徐々にそれぞれの団長の元へ集まっていた。
丘を囲み、列を作って並んでいた戦士団達は団子状になり、そのまま中心へ向かって移動してくる。
恐らく、全ての統括をするのが、倒れた男かその傍でへたり込んだまま動かない男の弟だったのだろう。
戦士団の者達は揃って、指示を仰ぐ為に集まって来ているのだ。
彼らに課せられた命令は丘を爆破し、その下に眠るボライアークを誘き出し、倒す事だ。
だが、そこにドランが現れた。攻めるべき丘を乗っ取るように、その巨体がどっしりと占領してしまったのだ。これによって、彼らは命令を遂行できないと判断した。
まだ見ぬ邪龍よりも、今目の前に現れた見た事も聞いた事もない三つの首を持ったドラゴンの方が遥かに恐ろしかったようだ。
そうして、彼らが移動してくるのが目に見えて分かるようになったその時、突然、ラクトの白光の剣によって倒れた男がカッと目を見開いた。
これに気付いたファナが声を挙げようとした時、更に男の巨体が、上から糸で吊るされた操り人形のように怪しげな動きで立ち上がったのだ。
「ね、ねぇ……どうなってんのっ?」
ファナは、気持ちが悪いと顔を青ざめさせる。
男が既に死んでいる事は分かっていた。死霊となって操られていたのも知っている。だが、その時よりも生気が感じられない。異様に目は血走り、表情もない。
そうして、数歩ノシノシと歩いた男は、立ち止まってなぜか口を開いた。
するとその口から黒い息を吐き出す。それは体の中の空気を全て吐き出す勢いで広がり、あり得ないほど長く吐き続け、辺りを黒い霧で覆い尽くしていく。
「やだ、なにこれ……っシルヴァ」
《うむ》
そう言うと、ファナ達の周りだけ、シルヴァの風の力によって黒い霧を防ぐ。丘の頂上では、ドランが翼を少しばかり動かし、黒い霧を食い止めていた。お陰で、丘の上から海までの範囲には黒い霧が来なかった。
戦士団の者達は当然、防ぐ方法がなく、黒い霧に包まれてしまう。
ファナ達の所には、黒い霧によって、戦士団の者達も、男も黒い濃い影としか認識できなくなっている。
その状態でしばらくすると、戦士団の者達に、立っている者がいなくなったと気付いた。
「この霧……毒なんじゃ……」
「え、まさか……」
バルドの呟きに、ファナはある噂を思い出した。
『目覚めた龍は、毒の水で海を穢し、大地と人へ病をもたらす』
そうバルド達で集めた情報の中にあったはずだ。
「これがその毒と同じものだとしたら……」
皆死んでしまうのではないか。男がいた後ろ。その先には森があり、更にその先に町や村がある。
この毒霧がそちらに流れたら、大変な事になるだろう。
呆然と霧を眺めながら、どうすべきかと考えるファナ。焦りを見せたのはバルドだった。
「おい、ラクト。この霧を消す事はできないのか? このままこれが広がったら、えらい事になる」
ラクトならばなんとか出来るのではないかと思ったのだ。しかし、ラクトの表情は固かった。
「ただの霧ではないようだからな。毒霧だったとして、風で吹き飛ばしたとしても、消せるわけではない……無理だ」
風で散らし、この場を何とかしたとしても、毒は毒のまま。大気に散るだけ。毒の種類や力によっては、もしかしたら、大陸中に広がり、人々を苦しめる事になるかもしれないのだ。
「くそっ、どうすれば……っ」
バルドは焦りを募らせていく。目的によっては敵となった戦士団だが、同じ人であり、国の為に働く者達だ。無為に殺されようとしているのが耐えられないらしい。
そんなバルドの思いが通じたというわけではないが、ファナが動いた。
「シルヴァ。風で上空にまとめられる?」
《できるが、どうするのだ?》
「毒なら解毒薬を作る。倒れたあの人達もまだ死んでないかもだしね」
「解毒薬……出来るのか?」
軽く言うファナだが、それがどれだけ困難な事かバルドでも分かる。
友人のノークに、以前聞いたのだ。新しい未知の病に出会った時、特効薬を作り出すのはその薬師の一生を使い切ってもできないものだと。
「出来るんじゃないかな? 元になった毒もあるし、症状もすぐに見られる。問題なのは、薬の材料がすぐに集められるかどうかかな」
「そうなのか……」
ファナは規格外らしいと、バルドは改めて魔女の弟子の凄さを実感していた。
《では、始めるぞ》
「うん」
シルヴァが魔力を高め出す。その時だ。ラクトがファナへ声をかける。
「ファナ」
「ん? どうかした?」
神妙な顔でファナを見つめるラクト。その手には、ファナが渡していた封印の壺があった。
読んでくださりありがとうございます◎
突然死体が動き出したら、さすがのファナちゃんでも怖いみたいです。
毒霧ならば何とか出来る?
戦士団の人達も死んでないと良いのですが。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




