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061 正気に戻りましたか?

2016. 11. 13

ラクトが振り下ろした剣が伸びた様に見えたのは、剣撃の残像だった。目に焼き付いた眩しい白の光。


それでもラクトの三歩ほど前の地面から真っ直ぐに男に向けて一本の線が走っている。


既にラクトの手にしていた白光はその光を元の長剣の長さに戻していたのだ。


「……なに……今の……」


魔女のお陰で、大抵の事には驚かなくなっているはずのファナだが、今は目を見開いて光が走った場所を凝視していた。


しばらく呆然としていたファナだったが、不意に気付いた。


「なんであの人達は無事なの?」


ラクトが狙ったのは、間違いなく森を背にして立っていた大きな男だ。しかし、そこへ到達するには、戦士団の数人が壁となっていた。それを避ける事なく光は走っていったのだ。


その先にいた男は光を受けて倒れていた。だが、同じく光を受けたはずの戦士団の者達は、へたり込む者数名、呆然と立ち尽くす数名と、衝撃を受けて倒れた者はいなかった。


《なるほど。悪しき者をだったか。関係ない者は傷付けない。そんな剣だと聞いたかもしれん》

「マジかよ……さすがは勇者の剣……」


これでは、賢者の剣ではなく、勇者の剣と言った方が相応しいだろう。


《ところで主。そろそろ兄殿を正気に戻されてはどうだ?》

「そうだったっ」


とはいっても、ファナさえ認識しない状態のラクトをどうすればいいのか。


一歩ずつラクトに向かって歩き出しながらも考える。そして、不意に見上げた空に浮かぶ金色の点を見て叫んだ。


「あっ、ドランんんっ! おいで〜っ」


そう叫べば、ほんの少しばかり間を置いて、ファナの意思を読み取ったのか、ドランはファナが指をさした先の丘の中心、ラクトの背後に急降下してきた。


《グルル〜っ》


巨大なドランが舞い降りた事で風が起こり、再び戦士団を突風が襲う。


そこでラクトが目を数回瞬かせた。ゆっくりと目を見開いて振り向き、ドランを見上げる。


「……ドラン……?」

《グルルゥっ》


信じられないものをみるように、ラクトは呆然とその正体を確認し、握っていた白光を思わず取り落とす。すると、剣は光の粒子に変わり、消えてしまったのだ。


「消えた?」


そういえば、突然光として現れたんだったと思い出すファナ。バルドとシルヴァも揃ってラクトの傍まで駆けて来た。


「兄さん、気は済んだでしょ?」

「ファナ……っ、ファナ!?」

「う、うん。やっと起きた?」


完全に意識が飛んでいたんじゃないかと笑いならが、ファナはラクトの顔を覗き込む。


「お、起き!? 私は何をっ!?」

「何をしてどうなったのか、聞きたいのはこっちだよ。とりあえず、あの男の人に怒ってたってのは分かったけどね」

「男?……あっ、そ、そうだっ、バルっ

……バルドは無事かっ?」


ラクトは慌てた様子でバルドへ目を向ける。これに苦笑を浮かべながらバルドが答えた。


「ファナが治してくれた」

「そ……そうか……よかった」

「お、おう……っ」


本気で心配した様子のラクトに、バルドは照れる。


「それでさぁ、兄さん、あの人どうするの? 元々死んでたみたいだけど」

「あぁ……あれは死霊だ……」

「どうかしたの?」


ラクトは今や倒れ、横臥している男を目を細めて見る。なぜか、どこか釈然としないような表情をする様子に、ファナは改めてその顔を覗き込む。


「あ、あぁ……なんというか……あの男に纏わりついている黒い靄が……どこかで感じたような気が……」

「あれを?」


あんなものそうそうないだろう。しかし、ラクトが感じた違和感に間違いはなさそうだ。


どこで感じたのかを思い出そうとしているのだ。既に感じた事があるというのは確定している。


「そういえば、ここにもあるんだけど」


そう言って、ファナは封印の壺を取り出して見せる。


「なんなんだろう? これ……」


その時だ。突然、完全に動きを停止したと思っていた男が目を開き、まるで上から吊り下げられて操られているかのような奇妙な動きで体を起こしたのだ。



読んでくださりありがとうございます◎



ようやく兄さんは目を覚ましたようです。

怒りに我を忘れるほど、バルドが心配だったようです。

過去の出来事も関係しているのでしょう。

次の男の行動は?



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎

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