060 伝説の?
2016. 11. 11
ファナは、ドランに遥か上空で待機するように指示していた。
お陰で、こちらに気付いたバルドにもドランは見えなかったらしい。
「もしかして……バルド、怪我してるんじゃ……」
地を這いながら、戦士団へ近付いているようにも見えたのだ。しかし、そうする意味が分からない。
そうしてじっと観察した結果、背中に斜めに走る線を見つけたのだ。
これはいけないと、ファナは急降下し、バルドの下へ降り立った。
「バルドっ。傷見せて」
「あ、あぁ……」
ファナは素早くバルドの傷を癒した。これで大丈夫だとラクトへ目を向けたファナは、その異変に気付く。
「兄さん……?」
いつものラクトならば、とっくにファナの方へ来ているはず。しかし、ラクトは真っ直ぐに一人の男を凝視したまま動かない。
じっと、何かを見極めようとでもするかのように、その瞳には強い光が宿っていた。
不思議に思いながらも、ラクトが手にしている剣へファナの視線が釘付けになる。
「あの剣……まさか、白光?」
「白光って、賢者の剣だろう? なんでラクトが持ってるんだ? あいつは魔王なんだろう?」
時に勇者の剣とも言い伝えられていたもので、悪しき者を消し去る力があるらしい。
《魔王のイメージはアレか? 悪の権化とかいうものだろう。あんなものは当てにならん。善と悪など、立場によって変わるからな》
「シルヴァっ!?」
突然傍らに現れたシルヴァにバルドが飛び上がって驚いた。
《驚かせたか? 兄殿の邪魔になりそうだったのでな》
シルヴァは、ラクトが何かしようとしているのを見て、自分が後ろにいては集中できないかもしれないと、気をきかせたらしい。
ちょうどファナが来たので、合流したというわけだ。
「兄さんはこれでも気付かないか……」
《それだ。兄殿は我が動いた事にも気づいていない》
「なんで? ってか、なんか怒ってない?」
ラクトからは怒りの感情を感じている。しかし、ファナにはなぜ怒っているのかが分からなかった。
《バルドが怪我を負った時からだからな。おそらく、あれで敵と認識したのだろう》
「お、俺?」
「へぇ、兄さんって友情とか大事にする人なんだ」
少しばかり見直したと笑う。
「いや、だが、あれは危なくないか?」
バルドが改めてラクトを見る。感じるのはチリチリするほどの鋭い殺気。それは王に向けられているから平気だが、まともに受けたらひとたまりもなさそうだ。
《いつの間にか馬はおらぬしな》
「……本当だ……気付かなかったな……」
《早々に森に逃げたようだ》
「あんな殺気を食らってたら、馬なんて一発で泡吹いて死んじゃうって」
王が乗っていた馬は、王を振り落としたようだが、それは、ラクトが突風を吹かせた時だったのだろう。
微かにバルドとシルヴァは馬の嘶きを聞いたような気がしていた。
「で? これって、なんなの? あの人、何?」
ファナはここへ来て状況を尋ねる。ファナが見たのは、ラクトが男を睨んでいる所だけ。なぜこのような状況になっているのかも、男が何者なのかも知らなかった。
「それに、あの人……正気が感じられないんだけど……」
見た事もない大きな体をしているし、それが通常なのかどうかが分からない。
「ラクトがそういえば、もう死んでるっぽい事を言ってたな……」
「やっぱり死んでる?」
《動かしているのは、あの纏っている黒い何かなようだな》
男の周りは、空間が歪んでいるように見えた。黒くドス黒い何かが渦巻いているのだ。
それを見てファナはハッとする。そして、アイテムボックスから封印の壺を取り出した。
「あれ、これと一緒じゃない?」
《どれどれ……》
シルヴァはファナの手にある壺を見回し、匂いを嗅ぐ。
「なんだ? それは」
バルドが不思議そうに覗き込む。しかし、蓋が開いているわけではないので、中身は当然分からない。そのまま静かにシルヴァの意見を待つ姿勢を取った。
《同じだな。強い憎悪だ。これは……人だな。ここまでの負の感情を育てるとは、何があったのか》
シルヴァはなぜか心底感心していた。それだけ一見人にはあり得ないほどの強い想いだったのだ。
「ねぇ、あの剣なら、あれごと切れると思う?」
「賢者の剣だろう? 悪……あれはどうみてもよくないものだからな……斬れるんじゃないか?」
《兄殿もそのつもりのようだ》
「え?」
「あっ」
その時、ラクトが真っ直ぐに剣を振り下ろす。それは、一瞬で遠く離れている男の場所まで伸び、光の棒となって一直線に大地に線を描いたのだった。
読んでくださりありがとうございます◎
ファナちゃんも、らしくないラクト兄さんに戸惑い中?
やっぱり怒っています。
剣の威力とは?
では次回、一日空けて13日です。
よろしくお願いします◎