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059 募る苛立ち

2016. 11. 10

ファナが辿り着く少し前。


ラクトは王だという男からおかしな気配を感じていた。異質なその気配に、少々苛立ちのようなものが湧き上がってくる。


「お前は一体、誰に操られている?」


そんな言葉が思わず出ていた。


「何を……っ、何を言っている……っ」


そう言う男をよくよく見てみると、目に光が感じられなかった。


それを見て、そうかと思う。


「死体と同じだな。死霊を操る術があるが、その死霊と同じ気配がする。お前、自分の名が言えるか?」


死霊として操られている場合、名を名乗る事ができないのだ。個としての存在が消えてしまう為か、操られていたとしても、その名だけは口にする事ができないらしい。


だから、ラクトは問いかけた。これに、王は口を開いたまま動かなくなった。


衝撃を受けたのは、その王の弟である男。信じられないものを見るように、兄王を見つめる。


「あ、兄上……っ、兄上っ、どういう事ですっ!」


しかし、そう責められても、兄王は動かなかった。


「これは確定だな……」


そうして呆れたようにラクトが肩を落とした時だった。突然、兄王が剣を抜き、弟を目を向ける事なく切り払ったのだ。


だが、そこにバルドが滑り込んだ。


「ひっ!」

「痛っぅっ……っ」


王弟を庇い、咄嗟に体を押し倒す。その時、倒す相手の体重のせいか、少々予想と異なる倒れ方をした為に、バルドの背中を浅く剣が薙いだのだ。


「バルっ」


思わず出たのは、過去の呼び名だ。バルトロークーーー彼の事を、ラクトはバルと呼んでいた。


「な、なぜです、兄上っ」


そう言わずにはいられなかったのだろう。王弟は尻餅をついて兄王を見上げて震えていた。


すると、再び虚ろな目をした兄王が剣を振り上げた。


「バカ、逃げろ!」


バルドが痛みに顔を顰めながらも、王弟を引っ張り上げようとするが、勿論、そんな力では巨体を動かす事はできない。


そうこうしている間に、剣が振り下ろされた。それをバルドは体を捻りながら剣で受け止める。しかし、そのままあろう事か、薙ぎ払われたのだ。


どれだけ筋力があったとしても、大の大人の男。それも、戦士団に身を置いていた事のあるしっかりとした体つきのバルドを片手で振り下ろした剣によって跳ね飛ばすなど出来るはずがない。


ゴロゴロと転がったバルドは、男の姿が親指の先ほどの大きさになる距離まで飛ばされていた。


受け身によってダメージは軽減したが、しばらく頭が衝撃に揺れた事で、体を起こせない。


その間に、王弟は何とか短い足と手を動かし、距離を取ろうと頑張っていた。それを目の端に捉えたバルドは、同じく、目の端に映った戦士団の者達を見て苛立っていた。


「お前らっ……」


動けよと叫びたくなる。ただ茫然と突っ立っているだけの戦士団の者達は、完全に役立たずだと証明しているようなものだった。


それは、ラクトも同じだった。ただし、バルドが思った事とは違う。バルドは助けに動けと思ったのだが、ラクトは最初から彼らを障害物にしか見ていない。


そして、ラクトは低い声で告げた。


「……邪魔だ、どけ」


その言葉が響いた途端、ラクトから突風が吹き荒れた。これによって、戦士団の者達は立っていられなくなる。


バルドは地面に伏していたから被害はなかったが、一瞬、頭を抱えてその風をやり過ごす。


バルドが頭を上げた時には、ラクトとシルヴァ、そして、兄王だけしか立っているものはいなかった。


その兄王を見た時、バルドは血の気が引くような感覚を味わった。ねっとり絡みつくような嫌な気配。そして、その気配のせいなのか、一瞬、兄王の周辺の空間が歪んだように見えた。


「……なんだ?」


背中の切りつけられた痛みが熱を持つはずなのに、なぜか冷えていく。まるで、得体の知れないものと対峙している時のようだ。


その時、ラクトから信じられないほど大きな力を感じた。バルドの体が震えるほどの脅威。それが顕現したのだ。


ラクトの手に、白い稲妻のような光が握られていた。


それは徐々に輪郭をはっきりとさせていき、白く輝く剣になる。


「……ラ、ラクト……?」


伝説に語られる魔剣や神剣といった剣をバルドは見た事はないが、その剣はそんな力を持った剣なのではないかと感じたのだ。


「……これだから傲慢な人の王は気に入らない……愚かで、残虐な生き物だ……」


そんな呟きがラクトの口から漏れるが、バルド達には届かなかった。


後ろに控えていたシルヴァは、止める気がないようで、ただラクト達を見つめている。しかし、そこへファナが近付いてくるのを感じたのだ。


不意に顔を上げるシルヴァに釣られて、バルドも空中へ目を向ける。


バルドは不思議なものを見ていた。ファナは杖を魔術の補助具だと言った。その時は意味が分からなかったし、どう使うのかも想像できなかった。


その杖で、ファナは宙に浮いていたのだ。それは、不思議な光景としか言いようがなかった。


「そういえば、魔女殿が飛んできたという伝説もあったか……」


バルドは魔女殿の弟子ならば、何でもありかと納得する。


そこで気付いた。ラクトがファナに反応しないのだ。いつもならば、とっくに目を向け、手を広げて抱き留めようとするだろう。それをしないラクトに、バルドは不安を感じた。


「ラクト……」


それは、ファナも同じだったのだろう。ピタリと空中に留まると、ラクトをじっと見下ろしていたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



ラクト兄さんの必殺の武器なのでしょうか。

バルドが怪我をして、怒ったのかもしれません。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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