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058 冷たい憎悪

2016. 11. 8


神樹があった場所は、今や広い草原となっていた。


元々は、森の只中だったのだろう。しかし、光の粒子となった神樹が降り注いだ場所には木は生えていなかった。元通りとはいかないようだ。


そこへ、大きくなったドランが降り立つ。奇しくも、ドランが降り立つのに充分な広さがあったのだ。


ファナは杖で宙に浮きながら、先ほど神樹の中から出てきたと思われる黒い塊を封じた壺を見つめていた。


「う〜ん……やっぱ、これが原因っぽいなぁ」


神樹は言い伝え通り、大地に力を与えるものだったのだろう。青々と茂る草花が、それを示している。ただ、何らかの干渉があったことで、本来の力が発揮できず、弱ってしまったのかもしれない。


そして、その干渉したものというのが、ファナの封じた黒いもの。


「まぁ、これで封じは完璧なはずだし、とりあえず、兄さん達の所に合流しよう」

《グルルル》


喉を鳴らし、同意するドラン。その目線が不意に下へと向けられた。


「どうかした?」


ファナはそれに釣られて目を向ける。するとそこには、魔術師達がいた。


彼らはお互いに体を支えながら避難していた森から出てきたようだ。皆、一様に信じられないものを見るように草原を見渡している。


そして、ドランへと目を向け数人が気絶した。


「仕方ないなぁ。薬は全部あそこのギルドマスターに渡しちゃったし……ヨシ」


ゆっくりとファナは地上に降りていく。魔術師達の前までくると、杖から降りることなく足をぶらつかせながら言った。


「あなた達、その状態じゃぁ、森を出る事もできないでしょ? 体を元に戻す薬を、この先のギルドに預けてあるんだ。そこで治療してもらうといい」

「え?」


それだけ言うと、ファナは魔術師達へ向けて魔術を発動する。


すると、魔術師達が丸い球体の中に閉じ込められ、フワフワと宙に浮き上がった。


「うわぁっ」

「なっ」

「これは……」


気絶はしなかったが、そのまま驚いて動けずにいる魔術師達に構う事なく、ファナはポンとその球体を球遊びをするかのように両手で弾いた。


「ギルドまでおっ届け〜♪」

「「「えぇぇぇぇっ」」」


それは過たずギルドのある町の方へと飛んでいく。これに手を振ってファナは呑気に見送る。


《グルルル〜》


ドランも首を振っていた。


「さてと、これでこっちは片付いた。行こっか」

《グルル?》


ドランは首を傾げる。そうして、自分の体を示すような仕草をした。


「あぁ、うん。その姿のまま行こう。まだ戦士団の奴らがいたら、脅してやればいいからさ」

《グルガァァっ》


任せろというように鳴くドラン。その頭辺りまでファナが来ると、ドランが羽ばたく。


そうしてボライアークのいる丘へと向かいだした時だった。


「んん?」


何かどこかから視線を感じたのだ。


《グルル?》


ドランは気付かなかったのだろう。今はもう感じない。ほんの一瞬だったようだ。


「何だろう……」


不審に思いながら、慎重に周りの気配を探った。視線を感じたのは、地上からではなかったように感じたのだ。しかし、その視線の主を探せずにいると、ラクト達がいる辺りから、また何かを感じた。


「これ……」


その感じを先ほども感じた。それは、壺に封じた黒い塊と同じ気配。そして、感じた視線にも、それがあったように思った。


憎悪に満ちた負の感情。何に向けているのかは分からないが、いい気はしない。


「急ごう。ドラン。何か、嫌な予感がする」


ここから丘まではそう遠くはない。膨れ上がっていく何かを感じ、ファナとドランは急ぐ。


ようやく上空に辿り着くという時、突然丘の上で大きな力が解放された。


「兄さんっ!?」


何があったのか。そこには、冷たい空気を纏ったラクトが白く輝く剣を手に、一人の男を睨みつけていたのだ。



読んでくださりありがとうございます◎



ファナちゃんが合流。

視線と嫌な予感の正体とは。

そして、お兄ちゃんに何が起きたのか。



では次回、一日空けて10日です。

よろしくお願いします◎


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