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056 原因の解明

2016. 11. 6

シルヴァの頭が男の腹へ当たる。弾力のありそうなその腹は、シルヴァの思い切りの良い当たりによって、弾かれる力さえも利用し、男を森の中へと転がした。


ちょうど、緩やかな丘の傾斜が効果を示し、真っ直ぐに、そして勢い良く転がっていく。


《良いスピードだな》

「……えぇぇぇ……」


確かに転がすという言葉を聞いたかもしれない。しかし、それにしても本当に人を転がすとは思っていなかったバルドだ。


戦士団の者達も、再び動きを止め、男が消えていった森を呆然と見つめる。


この時、雨が上がった。だが、指揮官らきしその男が消えた事で動揺が広がり、戦士団は誰一人動けなくなっていた。


《うむ。さすが兄殿だ。話を聞く者も確保でき、更にあやつらの動きまであっさり封じるとは……》

「……」


確かに一石二鳥と言えなくはない。しかし、あまりにも間抜けな顚末だった。


《我らも行くか?》

「……シルヴァは残ってくれるか? こいつらが動き出すと面倒だ」

《そうだな。では丘の上で昼寝でもして待つとしよう。主の方もカタが付きそうだからな》

「そうなのか? なら、合流する前にこっちも落ち着いておかないとな」


こうして、シルヴァを残し、バルドはラクトの元へと急いだ。


そこでは、ラクトと男が対峙していた。


「……震えているぞ……」

「なんだ、バルド。来たのか」


ラクトの前で小刻みに震え、脂汗を浮かべる男。それも、座り込んでいるのではなく、辛そうに立っていたのだ。


「ボロボロなのに、よく立ってるな」


意外と根性があるのかと感心する。普通、震えるほどの恐怖を感じていたら、シルヴァと対面した時と同様に座り込むはずだ。


しかし、どうやら男がというより、ラクトが何かしていたらしい。


「だらしなく座り込むから、立たせてやっているんだ。まったく、王家の血を引く者ならば、もっと威厳を持ってだな……」


そう宣うラクトの言葉に引っかかりを覚えたバルドは恐る恐る確認する。


「……今、王家の血とか言わなかったか?」

「言ったが?」


ラクトが睨んだ通り、間違いなく国の上層部の者だった事に驚く。


「……王家……?」


まさかそんな大物が現場に出てこようとは思わなかったバルドだ。だがここで、なぜラクトはそれが分かったのかと気になった。


「なんで分かったんだ?」

「そんなもの、かつてのこの国の王に体格まで瓜二つなのだから、血筋だと分かるだろう」

「……そうか……」


当たり前のように言われても、今生で初めて、山のこちら側へと来たバルドに、分かるはずがない。前世の記憶を持ち、更に記憶力の良いラクトだからこそ分かった事だ。


「そ、それで、何か分かったのか?」

「あぁ。旅の予言者だかなんだかに、予言されたらしい。不作も、病も全て、ボライアークのせいで起きると」


巷の噂ではなく、予言者が国の上層部へ進言したのだという事だ。


「なんで国は、その予言者の言う事を信じたんだ?」

「予言者が、シンジュとかいうこの国の王家の者しかしらない宝を言い当てたようだな」

「真珠? 宝玉か?」

「さぁな。ん? まてよ……まさかアレか?」


そう首を捻りながら目を向けたのは、ラクトが不穏な気配がすると言っていた方角だった。


「それだとすると……全部の原因はそのシンジュかもしれんな」

「どういう事だ?」


そう尋ねるバルドへ目を向ける事なく、ラクトはしばらく感覚を研ぎ澄ませる。そうして、ゆっくりと口を開いた。


「あれは、魔力喰らいの一種だな」

「魔力喰らい?」


うんうんと頷きながら、納得顔で言うラクトに、バルドはわけがわからないと顔を顰める。


そこでようやくラクトがバルドへと顔を向けた。


「そういう種族だ。植物だがな。木や花があってな。一帯にある魔力を吸い、葉や花を落とす時にそれを大地に返す。魔力喰らいと言ってはいるが、そう危ないものでもない。魔力を宿した実が出来て、それは天然の魔力回復薬になるから重宝するんだ」


魔力を吸うといっても、周りの草が育たなくなる程度。その代り、水が無くても育つ。


「大昔に、こちらの大陸では全て焼かれたらしいんだがな。種が残っていたか」


現存するのは、魔族の大陸にあるものだけだろう。ラクトの記憶ではそのはずだった。


「近くにある畑の作物が、少々小ぶりになるが、それも面白いといって、国では共存していたのだがな。人とは心が狭い生き物だ」

「……その納得の仕方はどうかと……」


大した事ではないだろうと、ラクトには思えたのだ。しかし、問題なのは異常に成長したらしい魔力喰らいだ。


「ただ、あちらに今感じる魔力喰らいは、少しばかり異常だな。喰らうだけ喰らってそのまま魔力を溜め込んでいたようだ。それも、今し方、ファナが消したようだが」

「なに?」


ラクトには感じられたのだ。大きく成長した魔力喰らいの傍にファナがいる事。そして、先ほどその魔力喰らいが消えた事に。


「吸っていた魔力も大地に返せたようだ。この地に起きていた異変も終息する」

「なら、さっさとあいつらを止めよう」


ボライアークのせいではないのだ。もう、戦士団の者達が出撃する理由もない。


「そうだな。おい。そういう事だ。お前達が地の龍というものは関係ない。全ての異変の原因はそのシンジュだ。分かったら、さっさと行って撤退指示を出すがいい」


ラクトは、今や呆然としている男へ言う。そうして、一つ指を鳴らすと、まるで吊り上げられてでもいたように無理やり立たされていた男の拘束が解けたのだろう。重たいものが地面に落ちるように、男は音をさせながら地に手をついた。


「ほ、本当なのか……その……神樹が原因だと……」


荒い息は、無理な体勢を続けさせられていたせいなのか、普段からなのかは分からない。丸い背中を上下させながら、男は呟いた。


「間違いない。本来の魔力喰らいとは違い、何らかの影響で変化を起こしていたようだが、もしかして、病というのは、魔術師達の魔力不足ではないか? 作物が充分に育たなかったのは、明らかに影響を受けたからだ。他に何かあるのか?」


ラクトが淡々と説明する。それに、男は体を起こして座り込むと、顔を上げて更に問う。


「では地鳴りは……」


幾度となく感じた地鳴り。その原因は龍だろうと言いたいのだ。しかし、これも神樹のせいだろう。


「ボライアークも影響を受けたんだ。苦しみに悶える呻きだったのだろう。魔術師達と同じだ。魔力が枯渇し、苦しんでいたのだ。必死で魔力を奪われた大地へ力を送ろうとしていたようだからな」


被害がそれほど広範囲に広がっていないのは、ボライアークのお陰だ。だが、それも追いつかなかったのだろう。


「怪しいのはその予言者だな……後は海に毒だったか……それも、ボライアークは清めようとしていたようだし、何者かが関わっているのは明白だ」


その何者かが誰なのか。それはラクトにも分からない。


「……」


しばらく俯いて、何事かを考えていた男は、納得した様子で、ゆっくりと立ち上がった。



読んでくださりありがとうございます◎



何か考えてはいるようですが、案外あっさりと納得したようです。

まぁ、敵わないとも思ったのでしょう。

ラクトお兄ちゃんは、王家の者よりも威厳があります。

さて、ファナちゃんは?



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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