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054 ノープラン?

2016. 11. 3

ファナと別れたラクト、バルド、シルヴァは、ボライアークのいる丘を囲む戦士団達の様子を森の中から窺っていた。


戦士団は、ファナとシルヴァが見た位置よりも、森の内側へと隊を進めていたようだ。


「もうじき、この辺りも雨が上がるな」


バルドが視界に入った空を見つめて静かに呟いた。ギルドを出る頃には、町の辺りの空は薄雲が切れて雨は止んでいた。だが、この丘の辺りに今少し雲が残っていたのだ。


「雨が上がれば、あいつらはすぐに動き出すだろう。今のうちに追い立てておくのも手だな」


ラクトは冷めた目で彼らを見つめる。冷静に提案してはみても、本当は今すぐに蹴散らしてやりたいという苛立ちが、固く握られた拳に出ていた。


それを横目で捉えていたバルドは、ラクトの肩を軽く叩く。


「落ち着け。いきなり突っ込んで行くなよ? 人数がかなりいるからな。それに、どうもこの国の戦士団だけじゃない」


戦士団の肩にある意匠が違う事に気付いたのだ。


《上から主と見たのは、ざっと二百人ほどだったぞ》

「両側へ点にしか見えん位置までいるしな。確かに、そのくらいいるだろう。そうなると、やはり他の国の戦士団もいるな」


囲んでいるといっても、海側は断崖絶壁。そちらには回っていない。誰も、その絶壁の中程に地下へ通じる洞窟があるとは知らないのだ。


「でも、あいつらここからどうするつもりなんだ? そのボライアークは地下にいるんだろう? それも入り口は海側の崖……」

「バカなんだな」

「いや、ラクト……それはあんまりな……」


目立った装備もないのだ。全くのノープランなのではないのかと思っても仕方がない。


《うむ……火薬の臭いが微かにする。雨で湿っているだろうがな》

「あ〜……爆破する気か」

「やはりバカだな。湿気っていては意味がない上に、あの丘とこの辺りの土の感触、木の根の張り具合を見るに……火薬ならば相当な量が必要だ。魔術師でもいれば少しは望みがあったかもしれんが……見たところ、魔術師と呼べるような魔力の持ち主はいないようだしな」


城を吹き飛ばすよりも難しい。それ程の威力がなければ、ボライアークのいる場所まで到達しないだろうとラクトは予想を立てた。


ラクト達は、神樹が魔力を吸い、この辺りの魔術師達が寝込んでいる事を知らないのだ。


しかし、ラクトはその気配に気付いていた。


「こちらより、向こうから感じる嫌な気配をどうにかすべきだと思うんだが……ん? ファナ?」


ラクトは異質は気配の方へ感覚を広げていたのだが、そこへファナが向かっていくのを感じて思わず立ち上がり、そちらへ顔を向ける。


「どうした? ラクト」


突然立ち上がり、あらぬ方を見つめるラクトへ、バルドが顔を上げる。


《見つかるぞ》

「そうだった。ラクト。座ってくれ」

「……」


しかし、ラクトはそんな声は聞こえていないようで、真剣な表情のまま立ち尽くしていた。


そんなラクトを、予想度通り気付いた者がいた。


「おい。そこで何をしている」

「ちっ、見つかったか」

《致し方あるまい》


仕方なく、バルドとシルヴァも姿を現すと、戦士団の者は最初のうち驚いていたが、なぜか納得顔で近付いてきた。


「お前達、冒険者か。我らが邪龍を退治する所を見物するつもりか? それで手柄にするんだろう。まったく、これだから冒険者は……」

「……はぁ……」


どうやら、ボライアーク退治のクエストを受けた冒険者だと思われたようだ。確かに、冒険者達がここへ向かっていた。


ラクトとバルドはギルドを出て行く冒険者達を追うように出てきたのだ。


しかし、クエストとして受けている以上、冒険者達の意思を変えさせるのは困難だ。そう思ったからこそ、バルドとラクトはあえて彼らを放置し、シルヴァに乗って彼らを追い越してきたのだ。


もしもここまで来てボライアークへ攻撃を始めたなら、そこで止めれば良いと思った。


「協力したという体で報告するのは構わないから、我らの邪魔だけはするなよ」

「……」


それだけ言って、戦士団の者は隊へ戻っていった。


《なんだかバカにされたように感じたのだが?》

「……その通りだな……」


戦士団と冒険者の関係は、国によってかなり違っている。多くの国の戦士団の者はエリート意識が高く、冒険者を見下す傾向もあるのだ。


この辺りは、どうもそれだったらしい。苛立ちはするが、冒険者達のほとんどは、仕方がないと相手にしない。


バルドは戦士団にいた経験から、こういう者もいるのだと理解している。戦士団の立場からも、冒険者の立場からも考えられる為、腹を立てる気も起きないようだ。


何より、今気になるのはラクトだった。


「どうしたんだよ、ラクト。ファナがどうかしたのか?」


会いたいとかいうのは無しだぞと釘をさす。そこで、何も説明しないラクトに代わり、シルヴァが口を開いた。


《あちらの方に、どうも良くないものがあるようだな》

「良くないもの?」

《うむ。何かはよく分からんが、気持ちが悪い。そこに主が向かったようだ》

「そんな得体の知れんものの所へファナが一人で? あ……」


バルドでも不安なのだ。ファナ一人でそのような所へ行かせる事を、捨て置けるようなラクトではない。


「バルド、私はファナが心配だ。行ってくる」

「おいおい。はっきり丁寧に理由を言っても許さんぞ。だいたい、ファナにこっちは任せろと言ったのは誰だ?」

「うっ……」


ファナの願いは叶えるとか、調子の良い事を言ってこちらを請け負ったのはラクトだ。変更など許されない。


《心配ない。主の事だ。勝算はあるのだろう。いざとなれば、ドランもいる》

「くっ……分かった……」


苦虫を噛み潰したような顔を見せ、ラクトは踏みとどまる。


しかし、心配なものは心配なのだろう。この場のカタを早い所付けるには、何が一番有効か。それを素早く弾き出した。


「これだけの兵を集める意気込み……やつらの言い分を聞いてやろう。その方が説得しやすい。うむ……混乱させて足並みを崩すのも有効だな……となると、一石二鳥な案がある」


腕を組み、片腕を立てて顎に手をやる。そうしてニヤリと笑ったのだ。


読んでくださりありがとうございます◎



駆け付けたい衝動を抑え、こちらでの仕事を遂行するようです。

ボライアークの護衛は任せろとファナちゃんに言った手前、放って駆け付けては失望されますからね。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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