052 魔術師達も必死でした
2016. 10. 31
ファナはドランを頭に乗せ、ギルドマスターの部屋を出る直前、思い出したように鞄を漁りながらツィンを振り返った。
「良かったらこれ、魔術師達に飲ませてやってください」
「それは?」
「魔力回復薬です。効能が高いんで、薄めて飲んでもらわないといけないんですけど」
受け取るために近付き、手を出したツィンに、次々と瓶を取り出して乗せていく。
「ちょっ、何本あるんだ」
「とりあえず、八本渡しておきます。一本で十人分なんで」
「じゅっ、十人分!?」
魔力回復薬は、薬としては作るのがかなり難しい。シルバーランクでもそうそう出回らない代物なのだ。
しかし、ファナの作る薬は、当然というか、間違いなくプラチナの上のクラウン。飲む量を間違えると、中毒を起こしかねないものになっている。
「一応、鑑定してもらうと分かるんですけど、クラウンなんで、量を間違えないでくださいね。十人分ですよ。コップ一杯の水に二、三滴ほど混ぜればいいです。まぁ、この半分くらいを飲まなければ大丈夫だと思いますけど」
「そ、そうだね……クラウン……クラウン!? き、気を付けるよ……お代はどうしようか」
「予言者の情報と、ボライアークへの攻撃を止めさせるという事で手を打ちましょう」
「そ、そんなものでいいのかい?」
はっきり言って、お金に換算すれば国が一つ、二つ手に入るほどだ。交換条件など成立するはずがない。
「構いません。では、よろしくお願いしますね」
「あ、あぁ……」
ファナはあっさりと部屋を出る。薬なんていくらでも作れるのだ。惜しくはない。それも、半分以上、ファナにとっては暇潰しでしかないのだから。
「さてと、ドラン。行くよ」
《シャァァっ》
ドランも気合いが入っている。ファナも神樹と呼ばれているものへ近付くとなると、覚悟がいる。
未だ、あれがなんなのか分からないのだ。感じる強い悪意。そこに意思がなかったとしても、この場からその存在を感じるだけで震えがくるのだ。
また意識を持っていかれないように気をつけてなくてはならない。
ギルドを出ると、雨は止んでいた。
「どこまで影響があるか分からないけど……飛んで行ったほうが早いね。バルド達が止めてくれてても、急いだ方がいい」
ツィンに止めてくれるように頼んではみたが、通達が行き渡るまでには時間がかかる。その上、ギルドマスターの言葉を、戦士団が聞くとも思えない。
彼らを止めるには、国に掛け合わなくてはならないだろう。ツィンならば、あの魔力回復薬の事もあり、そこまで手を回してくれるはずだ。しかし、それも今すぐにとはいかない。
「急ごう。あの木はどうにかしないと」
《シャ〜っ》
町を出て、すぐにファナは杖で飛んだ。速度は馬の三倍。それほど距離は離れていなかった為、あっという間にその木の全体像が見えた。
「……大きい……」
周りの木々は枯れ果て、所々、大地がむき出しになっている。その為、大きく成長したとしても、邪魔になるものはない。
《シャッ、シャッ、シャッ》
「ん?」
その大きさに圧倒されていたファナは、気付かなかった。ドランが首を伸ばして指す方へと何気なく目を向ければ、そこに松明を持って集まる黒い集団が見えた。
「……魔術師……?」
揃って動くが、足取りが重いようだ。ファナは空高くから地上を見下ろしているのだが、その集団がノロノロと動くのが見えていた。
松明を持った彼らがやろうとしている事はすぐに分かった。
「魔術が使えないから、松明を持ってきたんだ……燃やす気?」
彼らも原因が分かったならば、それを排除しようと考えたのだろう。
切り倒すには太くなり過ぎた幹は歯が立たない。しかし、木ならば燃やせると思ったのだ。
「……そう簡単にいくようには思えないけどね……」
やがて根元近くまで辿り着いた魔術師達は、神樹を取り囲み、松明を木へ投げかけた。
ファナは、これでカタがつけば良し。彼らも怒っているようだし、ここは見届けさせてもらおうと、木の真上ではなく、全体が見える距離で宙に待機していた。
しかし、投げつけられた松明は、木に燃え移らなかった。ファナには一瞬、木が何かしらの力を放出したように感じられた。それによって、松明を跳ね返したのだ。
「あらら……」
そして、それは根元近くにあった枯れ草へ燃え移り、魔術師達を巻き込む勢いで周りを火の海へと変えていく。
慌てた魔術師達は、逃げようとするが、それほど体力が残っていなかったのか、足をもつれさせ倒れるものが続出していた。
「これはダメだね……」
さすがに気の毒過ぎて見ていられなかった。
ファナは次の瞬間、豪雨のようにこの場一帯に水を降らせたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
魔術師は、魔術を使うのが仕事。
それが出来なくなれば困ります。
原因が分かったなら、少々体が悪くても、どうにかしたいですよね。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




