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051 その可能性

2016. 10. 30

結局の所、原因ではないかとされるその神樹とはなんなのか。


「神樹が原因だとする理由があるのですよね?」

「ある」


落ち込んだ様子のまま、ツィンは答える。


「最初は、周りの草木に影響が出た」


その周りにある草木が枯れだしたのだ。神樹とまで言われるものなのだから、周りの力を吸収して成長する事もあるのだろうと、傍観していたらしい。


「成長する木の周りの草木は成長が遅れたりするだろう? それが顕著だったってだけの事だと思っていたんだが……」

「養分が取られるってのは分かる。他に何か?」


そう不思議な事ではないだろう。しかし、異変は少しずつ起きていたようだ。


「あぁ……異変が現れたのは、近くに住んでいた魔術師達だ。全員が揃って、倒れた」

「倒れた?」

「倒れたというのは大袈裟かもしれないが、寝込んでしまったんだ。起き上がれなくなる者も出てね……」


魔術師だけが限定されていた。その共通点に気付いたギルドは、次にそれぞれの状態の確認をさせた。そして、魔力が大きい者ほど酷い状態になるという事が分かった。


そこから導き出された答えは、神樹が、近くにある魔力を、手当たり次第に吸収しているのではないかという事だった。


「近づいた魔術師達も倒れる事になって、それが病だと広まってしまったんだ」

「それは……確かに、原因不明の病と思う者も出てくるでしょうね」


その頃、ちょうどボライアークが原因の地鳴りが起こるようになっていたために、より一層、予言の真実味を増してしまったのだ。


「だからボライアークがあんな風に弱ってたんだ……それに、ボライアークを相手にしようっていうのに、魔術師が一人もいなかったのはそのせいか」

「今じゃ、魔力の高い旅人が、三日もすれば倒れるって具合なんだ……」

《シャっ、シャっ、シャっ》

「もしかして、ドランも何か感じるの?」

《シャシャっ!》


大きく頷き、ドランは窓の外へと揃って方向を示すように頭を向けた。


「あっち?」

《シャァァァァっ!!》


その窓の外。町から少しずばかり離れた場所だろうか。そこに、頭を大きく突き出している大きな木が見えた。


「あれか……っえ?」


そうして意識した為なのだろうか。くらりと視界が揺れた。


「っ、なに……これ……っ」


得体の知れない恐怖が、ファナを襲う。


「大丈夫かっ!?」


ファナの体が震えるのを見て、ツィンが慌てる。


「そんな急激に変化があるようなものではないはずなんだが」

「っ……あれは、なに? ……なにかが……っ」


ヒヤリとするような感覚があるのだ。そこにあるのは、暗く冷たい悪意の塊。


《キシャァァァァっ!!》


気合の入った声を挙げたドランは、唐突にファナの頭の上へと飛び乗った。


「ちょっ、具合が悪いのに……」


ツィンは、今や蒼白な顔色になったファナを気遣い、ドランを退かそうと咄嗟に手を出すが、それをドランの尻尾が払う。


《キシャっ!》


ドランの存在を感じた事で、持って行かれるそうになっていた意識が戻ってくる。


「ドラン?」

《シャ〜っ》


頭の上で首を伸ばし、翼を広げるドラン。役に立ったでしょと言わんばかりだ。


「大丈夫なのかい?」

「……ええ……」


危なかったように感じる。完全に意識が呑まれる所だった。もう少しで、その悪意に押しつぶされてしまっていたかもしれない。それほど、強い意志を感じたのだ。


まだ少々はっきりしない頭で、ファナはあれがなんなのかを考える。そこで、ふとドランを感じて思い至った。


「あの、本当にあれは、この国にあったものなんですか?」

「どういうことだい?」


ツィンには、何を聞かれているのか分からなかったのだろう。しかし、ファナには予感があるのだ。


「あんなものがあったなら、師匠っ……渡りの魔女が一言忠告なり、なんなりしているのではないかと」


魔女ならば、それが封印されていた物であったとしても気付く。そして、どうするかは持ち主に任せるとしても、一言、危険性を示唆するはずなのだ。


「そういえば……何代か前のギルドマスターが残した手記に、魔女に忠告を受けたとあったな……ちょっと待っててくれ」


そう言って、ツィンは書棚へ向かう。持ってきたのは、古い皮の表紙の分厚い本。


それを中ほどで開き、数ページ後ろへとめくっていく。そして、手を止めた所を読み上げる。


「あったよ。『魔女に忠告を受ける。この国が保有する神樹の種。それは、大地を潤し、再生させる。しかし、数日もすればその恩恵も消え、木は枯れてしまうだろう。永遠の約束などあり得ないのだからと』……枯れる?」


芽吹いて半年近く。それなのに、枯れるのは周りの木々ばかり。潤すどころでもない。


「……もしかして、あれは神樹ではないのではありませんか?」

「な、何を言って……まさか……」


もはや、似て非なるものだ。魔女が読み違えるはずがないとファナには確信がある。だからこそ、あれは本来の神樹ではないのではないかと思ったのだ。


「感じるのは悪意……それに……異質な感じがある……これは、異世界の物……」

「え?」

《シャ?》


ドランの存在を感じて、思ったのだ。感じる違和感。それは、この世界に未だ馴染まないような、そんな異質なものに感じたのだ。


思えば、ドランも最初はそうだった。ファナの感じる悪意。それは、異世界のこの世界の力に反発しようとする思いから出でるものなのではないかと。


「あの木は、私がどうにかします。代わりといってはなんですけど、予言者についての情報を、改めて集めてください。多分そいつは、全部知ってる」


全ての要因となったのは予言者だ。この悪意の根本を成している。それを明らかにすべきだと、ファナの中で警鐘が鳴っていたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



神樹と呼ばれるものが、本当に神樹なのか。

そして、黒幕は一体……。

異世界のものからの侵略?



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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