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050 秘匿されていたこと

2016. 10. 28

ギルドを出て行く冒険者達を、シルヴァを連れたバルドとラクトが追って行った。


残ったファナは、ドランを頭の上に乗せたままギルドのカウンターへ向かう。


「すみません。山向こうから来た者です。オズライル様に言われて、応援に来たのですが」

「え、あ、オズライル様から!? 少々お待ちくださいっ」


下手に聞き込みをして時間を使うより、ギルドを通した方が確実だと思った。


オズライルに出会ってからまだ数日しか経っていないが、魔女が頼りにしたという事や、あのどこか飄々とした態度から考えると、まず間違いなくこちらに連絡が来ている。


例え、この件に関しての返事が期待できないとしても、ファナを派遣したという一言だけは伝わっているのではないかと思ったのだ。


しばらくして戻ってきた職員は、顔を青ざめさせながら、奥へ案内してくれた。


「こ、こちらで、マスターがお待ちです……」

「ありがとう」


職員が扉を開く。その奥にいたのは女性だった。


「お連れしました」

「あぁ。お前は下がりなさい」

「はい。失礼いたします……」


職員を帰し、女性はゆっくりと執務机から離れる。


女性らしいメリハリのある体つき。長い髪は灰色で、年齢は四十代半ばといったところだろうか。


「はじめまして。私はこのギルドのマスターでツィンという。それで、君がオズ爺の寄越した応援ねぇ……それはなんだい?」


ツィンは、まじまじとファナの頭の上に乗るドランを見つめた。


《シャァァァァっ》

「っ、蛇!? いや……まさか、ドラゴンなんて事は……」


三つの首に、ドラゴンと同じ皮翼。鱗のような皮膚に、ずんぐりとした胴体。ドランは、奇妙なと思わずにはおれない姿をしているのだ。じっくりと注意深く離れてでも、観察せずにはおれまい。


「この子はドラン。異世界の魔獣で、種族的にはドラゴンで間違いないです」

《キシャっ、シャシャっ》


首を伸ばした後、揃って下げる。どうやらドランは挨拶をしているようだ。珍しくファナを独り占めできているというのが、機嫌の良い理由かもしれない。


「それより、お聞きしたいのですが、なぜ山向こうと連絡を絶ったのですか?」

「……やっぱ、聞くよね……」


苦笑するツィン。その顔には気まずいと書いてある。それでも、これだけは確認すべきだろう。


「まぁ、座って」

「はい」


勧められ、ソファに腰掛ける。長い足を高く組んだツィンの前。小さなテーブルを挟み、向き合った。


すると、ドランがファナの頭から飛び降りる。テーブルの上に着地して、まるでファナを守るとでもいうようにツィンの方を向いて座った。


「えっと……噛み付いたりして来ないだろうね?」

「大丈夫だと思います。ドラン。そこにいてね」

《キシャァァっ》


いつでも戦うぞと、三つの首を交互に前へ突き出すが、それ以上動く気はないようだ。


とりあえず話をと、ツィンは咳払いを一つ。


「ん゛っ、それで……何の話だったかな」

「……誤魔化そうとしてますか? 今回のボライアークの件について、ギルドの報告を怠った事です」

「ボ、ボライアーク……」


この名では思い当たらないらしいと知り、ファナは改めて言った。


「地の龍です。悪しき龍などと広まっているようですけど」

「あ、あぁ……先に言っておくが、私達も彼の龍が悪いものだと決め付ける気はなかったんだ。だが……予言通りになってしまった事で、噂が真実味を帯びてしまったんだよ」


ボライアークは、かつて勇者に封じられたとされているが、この地に住まうもの達は、悪しきものではなく、土地の守り神として触れる事なく暮らしてきた。


しかし、今回の問題で、ボライアークは勇者に封じられるような悪いものだとの認識が広まってしまったらしい。


「その予言ってなんです?」

「それは、一年前くらいかな。よく当たる予言者がこの辺りの国を巡っていたんだ。本当に良く当たるからって、国王達もこぞって王宮に呼んでね。その予言者が、必ず最後にこう言って去っていったんだよ……『目覚めた龍は、毒の水で海を穢し、大地と人へ病をもたらす』とね」


その予言者の言葉はよく当たったからこそ、何のことか分からなくても、皆の心に残ったのだ。


「ただ予言の通りの状況になったってだけですよね? それがボライアークの……地の龍のせいだとは分からないのではないですか?」


海がおかしくなったのも、病が流行ったのも、ボライアークのせいではないはずだ。直接会ってきたファナには分かる。なぜ決め付けられるのか。


「それはもちろん……そうなんだろうけれど、それを証明する事もできないからね。だが……私たちもただ噂に翻弄されていただけではない。一つ、地の龍ではなく他に原因となり得るものを見つけたんだ」


ギルドはこれを調査すべきと判断した。国はもう、予言通り地の龍のせいだと決め付けている。しかし、山向こうからの問い合わせもあり、ギルドはこれの確証を得ようと考えたのだ。


「それが分かったなら、早く正しい事を広めるべきなのでは?」

「わかってはいるんだけどね……それが、こちら側で秘匿されていたものが原因だったとなると、大っぴらに出来なくて……あちらにも伝えられなかった。対策に追われているうちに、どこまで伝えて良いものかギルドとしても難しくなってしまったんだ……」


地鳴りは地の龍のせいで間違いはない。しかし、その原因を作ったのは、山向こうには存在を秘匿していたもの。報告をするならば、それを話さなくてはならなくなる。


どう伝えるべきかと考えあぐねている間に時間が過ぎ、今に至るという事らしい。


「その原因というのは?」

「っ……それは……」


ここへ来て、ファナに話して良いものかと悩んでいるようだ。その決断を迫ったのはドランだった。


《キシャァァ!》

「うわっとっ!?」

「ちょっと、ラド?」


突然真ん中のラドが、ツィンに向かって炎を吐いたのだ。


《シャっ、シャシャっ、シャっ》


三つの首で伸びたり縮んだりを繰り返し、さっさと言えと訴えているようだ。


「わ、わかったよっ。昔からの言い伝えで、大地に恵を与える神の樹、神樹の種が、この国にはあったんだ」

「神樹?」

「そう……予言者が言ったんだそうだ。知るはずもないその人が、それを植える事で、地の龍を弱らせる事が出来るとね……他の国々も、それを聞いてこの国にせっついてきた。ただし、これを植える時、ギルドの許可を取らなくてはならないと約定があってね」

「許可しちゃったんだ」

「したよ……それが今回の原因になってるって知ったら、他のギルドの連中も口を閉じてしまってね……」

「それで尚更、報告出来なくなったと……」

「……面目ない……」


ギルドマスターとして情けないと、ツィンは肩を落としたのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



さすがに、自分達が偉そうに許可も出したものが原因と分かったら、気まずいでしょうね。



では次回、一日空けて30日です。

よろしくお願いします◎


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