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048 地の龍

2016. 10. 25

ファナの影から伸びてきたのは、真っ白な杖だ。片手の掌で握れる太さの柄と、上部は螺旋を描きながら大きな輪が三つ複雑に入り組んだ装飾となっており、その輪には細かく模様が刻まれている。


「それは、なんだ……?」

「何って、杖だよ。ロッドとも言うかな?」

「杖?」


ラクトでさえ首を傾げるのも仕方がない。この世界で杖といえば、腹の高さほどの長さの歩行補助具でしかない。


素材も木と、軽く簡素なものが主流だ。ファナの持つ何で出来ているのかさえわからないものはない。


長さもファナの背の高さよりも上部が少々上に来ている。その上に装飾までついているのだ。ピンとこなくてもおかしくはない。


《主。この世界に魔女の杖はないと言っていなかったか?》

「そっか。そうだった。これは、魔術の補助具なんだ」

「魔術の……それはすごいな」


そんなものがあるのかと、ラクトは興味深々だ。しかし、ここが町中だというのを忘れていた。


「おい。門番が倒れそうになっているんだが……」

「あらら……」

《雨も小雨とはいえ、降っているしな。ここでゆっくり話す事でもあるまい。行くならば行くぞ、主》

「そうだね。それじゃぁ、ちょっと見てくる。あ、ドラン見てて」

《シャァァっ》


置いていかれる事に不満そうではあるが、ドランを無理やりバルドに押し付け、ファナは再び門をくぐる。町の外へとシルヴァと共に走り、充分に距離を取って、木陰に隠れてから杖を横にし、腰掛けるように持つ。


するとふわりと浮き上がり、急速に上空へと上っていった。シルヴァは抜かりなく子猫の姿のまま杖の端に飛び乗っており、器用に落ちる事なく座っている。


《久しぶりだな。こうして飛ぶのは》

「そうかも。師匠には若いうちは楽せず足腰を鍛えろって言われてたもんね」

《うむ。だがあれは、主が食事も忘れて夢中になり過ぎたのがいけなかったのだ》

「だって、空を飛ぶなんて経験、他に出来ないじゃん。楽しいんだよね」

《否定できんな。我もこうして主と飛ぶのは気に入っている》


これを覚えた頃は、暗くなっても魔力の限界が来るまで飛び回っていたものだ。


「今度飛ぶ時は、ドランも連れて来よう」

《そうだな》


ドランを連れて来なかった理由は、ボライアークに警戒されない為だ。


ドランは異世界の魔獣。それも、シルヴァ並みの魔力もある。そんなものが突如として頭上に感じられたら、今の状況では冷静な反応は期待出来ないかもしれない。


いよいよ、ボライアークが棲むと言う小高い丘の全体像が見えてきた。


「何がしたいんだろう、あの人達……」

《雨が止むのを待っているようだな》


丘を囲むようにある森の外。そこに、距離を置きながら配置された人々。点々と森の周りに固まって見える。


「もし雨が止むのを待ってるなら、先にボライアークに会いに行こう」

《それが良かろう。あれの巣穴の入り口は海側だ。飛んで行くなら都合がいい》


そうして、シルヴァに案内され、丘を通り越して海側へ出る。


絶壁の崖を横目に下へと向かうと、その中ほどに大きな横穴を見つけた。


「ここ?」

《うむ。この中だ。狭くなる事はないからな。そのまま進めば良い》

「了解」


ファナは後ろにある杖の輪の中央に、光の球を出現させる。そして、そのまま洞窟の中へと入っていった。


「きれいな断面だね……自然のものじゃない……」


光に照らされる暗い洞窟の中。その通路は広く、大人が横一列に十人近く並べそうだ。


壁は細かい線が入っているように見えるが、滑らかに削られていた。


《これは、西のが通った跡だ》

「通ったって……もしかして……」

《うむ。姿は蛇のような長い胴を持っておる。その鱗は青みがかった色をしていたな》

「へぇ……龍……龍か。あれかな。師匠が持ってた本にあったじゃん。龍神? だっけ。あんなん?」

《そうだな。魔女殿に言わせると、性格は気難しい爺さんとの事だ》


ボライアークは、自身がどうなっても土地と海に力を与える。そこに生きるものの為、命を削るのだ。


それをやめろと言った所で聞かないらしく、そこから気難しいと称したのだろう。


しばらく進んでいたファナ達だが、奥から小さな唸り声が聞こえてきた。


「ん? これ、声?」

《そのようだ。近いぞ》


そうして目を凝らすと、その先に淡い光が見えた。


「光?」

《魔石だ。あれの力に反応し、発光しているのだ》


突き抜けた先には、広い空間があった。まるで夜空を切り取り、小さくまとめたようなその空間は、おそらく丘のあった場所の真下だ。


石の壁の中に、魔石が無数にあるらしく、灯りが必要ないほど、それらが明るく発光していた。


そして、ドーム型の広い洞窟の中心に、それは小さくトグロを巻いていたのだ。


《……小さくなっている……》

「え? あ、そっか。さっきの通路の幅くらいあるはずなんだもんね」


そこにいたのは、ファナがひと抱えできる太さの胴を持った龍。しかし、本来は、先ほど通ってきた通路の幅に届くほどの太さがあったはずだ。それに比例して、長さもあったのではないかと思われる。


「なんで小さくなってるの?」

《魔力もかなり消耗しているな……どれ、聞いてみるか》


シルヴァは本来の姿に戻ると、ボライアークに近付いていったのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



龍神様です。

縮んでしまった理由とは?



では次回、一日空けて27日です。

よろしくお願いします◎


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