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045 原因は西に

2016. 10. 21

カタカタと鳴る窓。しかし、鳴っているのは同じ壁に面する三つの窓の内の一つだけ。それを不思議に思っていると、オズライルが言う。


「これだよ」

「え?」


これと言われても意味が分からない。一つの窓だけというのは不可解ではあるが、ただ窓が鳴っただけだ。しかし、問題はそうではないらしい。


「ギルドの建物は魔術で保護されてるから、窓が軋むくらいしか分かんないんだけどね」


そう言ったオズライルの言葉の意味を理解したのはシルヴァだった。


《なるほど。地鳴りか》

「そっか。そこの窓、どこかで外に繋げてあるんだ」


ギルドは安全でなくてはならない。そのための対策は万全だ。しかし、今回のように地面が揺れたのに、その異変に気付けないのは問題だろう。


そこで、数個の窓にだけ振動が感じられるよう、特殊な仕掛けを施してあるのだ。


「そういえば、先々月から何度かありますね」


バルドが思い出す。


「そうなんだよねぇ。地鳴りなんて、もう何百年もなかったものだから、何が原因かとねぇ」


国も記録さえ曖昧になっている現象に危機を感じていた。そこで、各国がそれぞれ調査に乗り出した。しかし、国交が円満というわけではない事もあり、一向に情報がまとまらない。戦士団は国境を越えて活動できないのだ。


元となる場所の方向が特定できたとしても、それが国境を越えた所となれば、戦士団は動かせない。そこで、冒険者ギルドへ話が回ってきた。


「僕らギルドも気になってたから、国が動く前にちょこっと調査させてたんだけど……山向こうが黙っちゃったんだよ……」

「黙った? それって、連絡出来ないって事?」

「ううん。連絡は出来るんだけど、これに関する情報だけ、なんでか口を閉じちゃうんだよね〜」

「だよね〜って……」


冗談のように言うオズライルには呆れてしまうが、これは間違いなく異常だ。ギルド同士は常に連携が取れているはずなのだ。


属している国からの圧力も受けることはないのだから、協力体制が取れるのは当たり前。それが出来ないという事態。国よりも大きな力を持ったものからの圧力でも受けているのだろうか。


「最初はね。魔族の攻撃だって結論付ける国もあったんだよ」

「そんなバカな事があるか」


これにはラクトが思わず吐きすてるように言った。


「うん。僕もそれはないでしょって思ってね。それに、酷いのは山向こうの大陸の西側だったからさ。東の大陸にいる魔族なわけないよねってギルドでは結論が出たんだ」

「人とは本当に愚かな存在だ。不安の理由を魔族に押し付けるのは昔から変わらないな」


機嫌が悪くなったラクトは、腕を組み、壁にもたれて大陸地図を睨み付けた。


「仕方ないよ。それだけ人は弱い生き物なんだ。そんな僕らが、一体今、何に怯えているのか……それが知りたいんだよね」

「でも山の向こうかぁ……ん? どうかしたのシルヴァ」


先程から、シルヴァは窓の下にいた。この部屋で唯一震えたあの窓の所だ。


そこで何かを感じ取ろうとするように静止していたのだが、不意に尻尾が揺れたのだ。


ファナに呼ばれ、シルヴァはもう一度二本の尻尾を大きく振ると、遠慮がちに振り向いた。


《……主は西のに会った事はなかったな》

「西の? あぁ、ボライアークの事?」

《そうだ》

「ボライアーク? なんだそれは」


バルドがファナの口から出たその言葉に盛大に顔を顰めた。


「えっと、地の龍って言ったら分かる?」

「っ、地の龍って、封印されたっていう三大魔獣の一体……」

《封印か……あれは眠っているだけだ。棲処である森と西の海に力を与える為にな》

「それは……何百年と昔の勇者が封印する事で土地を潤したって伝説なんじゃ……」

「あったね。そんな本。読み終わってシルヴァが即効灰にしたやつだ」

《そうだったか? うむ……思い出した。大陸中にある本を今すぐ焼いてくると言ったら、魔女殿にど突かれたやつだな》

「ど突っ……いや、そうなのか」


英雄の良い話的にまとめられていたその本は、とてもポピュラーな伝記だったのだ。


しかし、実際とは違っていた。


《西のは、争いを厭う。美しく豊かな海と、多くの生き物達が棲む森や大地を愛している。自身が動き、生きる力をそれらに与える為に眠る事を選んだのだ》


眠る事で、極力自分の為ではなく、土地の為に力を放出する。そうして生き続けるのが地の龍と呼ばれるものだった。


「ねぇ、もしかして、ボライアークが原因なの?」


地が揺れる事。それは地の龍と呼ばれるボライアークになら引き起こす事が出来るかもしれない事象だ。だが、なぜ今、こんな事が起きているのか。


《恐らく、奴の怒りに触れるような珍しい者が現れたか……もしくは、そろそろ再生の時か……だな》

「それって、死が近いって事?」

《あり得ぬ事ではない。眠っているとはいえ、あれは我や東のとは違い、常に命を削っているのだからな》


もちろん、ボライアークに会ってみないとそれは分からない。


《行ってみるか》

「うん。会ってみたいしね」


こうして、ファナ達は大陸の西へ向かう事に決定したのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



東に行こうとしていたのに、西へ向かう事になったファナちゃん達。

ボライアークとはどんなものなのか。



では次回、一日空けて23日です。

よろしくお願いします◎


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― 新着の感想 ―
[一言] 「こうして、ファナ達は大陸の西へ向かう事に決定したのだった。」 こんな大層な依頼。報酬は前金で幾らとか半額くらい貰って当然と思う。
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