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043 暇潰しですので

2016. 10. 18

ノークが来てから、ゆっくり話をする事もなく、とりあえずもう一晩町で休もうという事になり、明けて次の日の朝。


集まりやすいという事もあって、ファナ達はギルドへ来ていた。


「それで、これから行きたい所とかあるのか?」


昨晩から、イクシュバを出てどこへ向かうかという話をバルドとしていたのだ。


「う〜ん……やっぱ、ドランに会わせたいんだよね〜」

《シャっ、キシャっ、シャシャっ》

「誰にだ?」


そこに、同じ宿屋が取れなかったノークがやって来た。揃って朝食をという事になり、話は一旦後回しになる。


「ラクトはどうしたんだ?」


ノークはこの場にラクトがいない事を不思議に思ったらしい。


「兄さんなら、屋敷に戻ったよ」

「正確には戻らせたんだけどな……」

《兄殿は、本当に主に弱い》

「……何となく分かった……」


昨晩、宿屋までファナについてきたラクトだったが、また屋敷に一緒に帰ろうと言い出したので、ファナがキレて追い出したのだ。


「あまりにもウザかったから、窓から叩き出してやったの」

「俺が別の部屋を取れば良かったのかもしれんがな……」


ファナとバルドが同じ部屋だったというのも気に入らなかったのだろう。一緒に帰らないのなら、ここに泊まるのだと駄々をこねていた。


「兄さんまで泊まったら、絶対一緒のベッドで寝るとか言ってたよ。ちっさい時、ずっと一緒に寝てたしね」

「そうなのか」

「うん。私、兄さんの部屋にはベッドがないんだと思ってたもん」

「あぁ……当然のように一緒に寝てたわけか……」


本当に、とんだシスコンだ。


《一時も離れておれんのだろうな。来られたぞ》


シルヴァが扉へと視線を向けたので、反射的に揃って顔を向ける。すると、現れたラクトと目が合った。


「飽きないのかなぁ」

「無理だろ」

「無理だと思う」

《これはもう、不治の病だな》

《シャ〜っ》


まっすぐに嬉しそうに向かってくるラクトに、全員が呆れたように肩を落としたのだった。


◆◆◆◆◆


ラクトも揃って朝食も食べ終えると、バルドが昨日確認できなかった事を思い出す。


「そういえば、ノーク。お前、今更何の為に追ってきた?」


バルドとしては、薬の事でファナが面倒な事に巻き込まれるのではないかと思い、逃げてきたのだが、実際はどうするつもりなのかと聞いてみたかったようだ。


ここはユズルではない。更に、伯爵家の領地でもないのだ。下手に干渉できない場所である事で、バルドも余裕が出来た。


「礼をしたかったというのもあるんだが……彼女がどういう人物なのか、伯爵も師匠も気になっておられる。そこで、屋敷に連れて来いというのが、俺に命じられた事だ」


純粋にお礼をしたいというのが、伯爵と筆頭薬師の思いだ。既にあの日、完治したとしても、後遺症は覚悟しなくてはならなかった。しかし、バルドが咄嗟に出したファナの薬によって、その心配が消えたのだ。


これを奇跡と呼ばずして何とするのか。そう薬師達も伯爵をはじめとする屋敷の使用人達も思った。


「プラチナでさえ存在しないと思ったんだ。それこそ、渡りの魔女様に会える確率と同じくらいあり得ない事だった……それなのに、あの薬はクラウンだった……どんな人かと気になっても仕方ないだろう?」

「まぁな……」


ノークとバルドは、食後のお茶を美味しそうに飲むファナを見た。


「二人して、私のファナに無粋な目を向けるな」

「私のって言うな、バカ兄貴」

「ファナ〜ぁ……」


情けない声を出すラクトに、ファナはそっぽを向く。そのまま落ち込むラクトなど気にせず、ファナはノークへ目を向けて尋ねた。


「そんなに気になるもの? 薬なんて、作った人が誰かなんて関係ないじゃん。必要なのはちゃんと効く薬かどうかでしょ?」


ファナには、わざわざ追ってきてまで礼をしようとする人の気持ちが分からない。


「だいたい、ギルドで買った薬を、誰が作ったかなんて気にしないじゃん」

「まぁな……対価として金を払ってるから、効けばそれでいい」

「だよね? 見てても、そんな人いないもん」


ファナは、シルヴァに言われた事もあって、ギルドの売店で売っている薬を見ていた。ゴールドまでしかないが、それでもゴールドランクの薬というのは珍しいらしい。


数がかなり少ない上に、値段も一気に跳ね上がっていた。それを買っていく冒険者達を見た時、誰が作ったかなんて事は聞かなかった。聞いたのは、本当にゴールドかという事。


ギルドの鑑定は確かだとバルドにも聞いていたし、魔女にも言われていたから、ファナも信用している。冒険者達ならば尚更だろう。しかし、それでも改めて確認するほど、ゴールドランクの薬は珍しいのだ。


「薬師の中でも、プラチナランクの薬を作れた場合、自慢したくなるが、名を広めようとは思わないな……同じように作れるとは限らないから、有事の時に当てにされても困る」

《ほぉ。その言い方だと、経験があるのか、教訓か?》

「教訓だな。プラチナランクの薬が一度出来たからといって驕るなというのが、薬師の教えの一つだ」


自分はプラチナランクの薬が作れるほどの才能がある薬師だと売り込めば、どの貴族だとて欲しくなる。しかし、実際に作れと命じられた時に、その一回が失敗すれば、一気に信用をなくす。


「それで、わたっ……ファナが優秀な薬師だと知って、迎えたくなったか。どこの伯爵だ?」

「こらこらラクト。なんでそう責めるような言い方をする」


ラクトは静かに話を聞いていたのだが、ファナを欲しがっていると解釈すると、不穏な空気を纏ってノークを睨み付けた。


「い、いや、その……伯爵は礼をしたいだけで……」

「言い切れるのか? ファナを取り込もうとしないと」

「そ、それは……っ」


ノークは言い切れない。魔女の弟子だという事実もあるのだ。教訓となった薬師とは違う。確実にプラチナランクの薬を作る事のできる薬師だと確信してしまったのだから。


「俺も反対だな。伯爵はいい人だが、もしこの話が他の貴族に知られれば、ファナの事が広まりかねない。そうなると……まず、国を出なきゃならなくなるだろうな」


ファナを見て、バルドはそう思った。ファナの性格ならば、面倒な事になったと国を出るのも厭わない。下手をすれば、大陸さえ捨てかねないのだ。


これに、黙っていられないのが一人。


「なんだとっ! ノーク、貴様っ、私のファナにとんだ面倒事を押し付けるとはっ! こうなれば、ファナの事を知る伯爵家ごと潰すか……」

「まっ、待ってくれっ! 分かったっ、彼女の名は伏せるっ。その代り、魔女様の弟子だとだけ言ってもいいだろうか」


真っ青になりながら、ノークは弁明する。ファナの為ならば、ラクトは伯爵家を本当に消すだろうと思ったからだ。そして、それは正しい。


「別にいいよ? 信じるかどうかは分かんないけど、師匠の弟子である事は事実だし。何の情報もないよりは、本当の事を少しでも伝えておけば、納得するでしょ」

「あ、あぁ……分かった。伯爵と師匠に

そう伝える」

「うん。お礼もいらない。暇潰しで作った薬だしね」

「……暇潰し……」

「お、おい、ノーク。大丈夫か?」


何よりも自分達が必死になって作った薬の最高ランクのものを、暇潰しで作ったという事実に、ノークは打ちのめされたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



ノークの事はこれで解決。

いよいよ旅へと本格始動。

さてどこへ行きましょうか。



では次回、一日空けて20日です。

よろしくお願いします◎


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[一言] 伯爵もノークもファナに薬代渡してないよね?(そんな隙も暇もなかったハズ)…恩知らずw
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