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042 魔女とは

2016. 10. 17

ノークが反省しているのは明らかだったので、ファナはペイントを消す薬をすぐに調合してやった。


このペイントの怖い所は、服を脱いだ所で事態が変わらない所だ。


「おい……なんであの色、服の下にまで浸透すんだよ……」


消すのを手伝ったバルドが、水浴びをして着替えをするノークより、一足先に部屋から出てくると、ファナを責めた。


「それは呪いの力だよ。ただの色じゃないって言ったじゃん」

「……呪いって……」

「私の師匠が誰か忘れたの?」

「……魔女様……」


そう言えばそうだったと、バルドは答えた。


「そう、だから呪いも仕事のうちでしょ」

「……仕事だったのか?」

「魔女に良いも悪いもないよ。暇潰しが出来るならなんだってやる。それが面白い方に手を出すの」


簡単に言えば、勝手な生き物なのだ。多くの知識や技術を持っているのは、ただの暇潰しの一環として身に付いてしまっただけのもの。


何でも出来てしまう能力を持ち、総じて長く生きるのが魔女と呼ばれる所以でもある。


「魔女って超優秀な人の事を言うんだよ。他の人とは一線どころか別次元とまで感じられる能力が、人を魔女と認識させるんだ」


それは畏怖。人が人に畏怖を感じた時、差別を呼ぶ。自分達には出来ない事。自分達とは違う事を理由に避けるようになる。


これは人の性だ。生きる為の本能。誰だって、理解しようとすれば疲れる。それが未知のものに対するれば特にだ。本当に疲れるという事は、精神をすり減らす。命さえ危うくなる。


だからこそ、無難な答えを作って納得させるか、答えが用意できなければ、近付かないようにしようとするのだ。一種の防衛本能とでもいえる。


「人って不思議でさぁ、魔女のイメージって色々じゃん? だから良い魔女でも悪い魔女でも、魔女なら魔女だからって理由で、何でも納得出来るようになるの。呪いって普通出来るもんじゃないじゃん? でも今、魔女ならありって思ったでしょ?」

「あ、あぁ……なるほど」


バルドは深く納得する。呪いなどというものは、もっと恐ろしく不可解なものだという認識がある。だが、魔女の呪いだと言われれば、どれだけ間抜けなものでもそんなものもあるかもしれないと思えてしまったのだ。


《魔女が呪いと言えば、呪いかと思って納得できるだろう。仮に主が腹を下す薬を食べ物に混ぜたとしても、呪いだといえば信じそうだな》

「信じるな……絶対」

《それはもう、主の術中にはまっているぞ》

「はっ、誤魔化される所だったって事かっ」

「シルヴァっ。せっかくうやむやにできたのに……だって、なんでかって説明すんの面倒いんだもん」


魔女ってものがどんなものなのかという話をする事によって、ファナは『呪い』の一言で済ませ、誤魔化そうとしたのだ。


これにまんまとバルドが引っかかっていたのだが、シルヴァが余計な事を言ってくれた。


《我も、あのペイント弾は不思議だったのでな》

「ちょっと浸透力が凄いってだけじゃん。肌の細かい筋にも入り込むんだ。普通、水とかは、手が濡れてても染み込んでるわけじゃない。けど、ペイント弾は色の粒子が細かいから、それこそ服を通り越して、肌の筋まで流れ込むんだ。って、分かった?」

「わからん」

《分かったのは、我の純毛でも、水を弾くようにはいかぬかもしれんという事だな》


ファナには魔女が今まで様々な世界で知り得た知識もあるので理解できるが、この世界に未だ存在しない原理などを説明するのは難しいのだ。


「ほらね。上手く説明できないし、呪いって事でいいじゃん」


そして、何よりファナはこういう事に対して、大雑把な性格だった。


「でも、呪いってわけじゃねぇんだろ? やっぱ呪いなんて魔女様でも……」


バルドは、ちゃんとした理由があると知ると、ホッとして言った。


「だから言ってるじゃん。理解できないから『呪い』って言うんだ。けど、なんだって原理があるの。魔術とおんなじでしょ?」

《なるほど、確かにな。不可解なものを昔から人は呪いと呼ぶのだろう?》

「……おう……」


そうなると、ファナにとっては大した事ではなくても、結果としてバルド達には呪いと言えるものになる事だってあるのではないか。


「でしょ? 腹を下させるくらいなら、手を触れなくてもできるよ?」

「そ、それは本当に呪いっ」

「だから、魔術でだって。やってみよっか?」

「へ?」


ファナはふと部屋の隅で縮こまるラクトへ目を向ける。


煩いと冷たい目でファナに注意された事がショックだったのだろう。その後、チラチラと鬱陶しいほど、許しを乞う目を向けてくれている。


「ほら、こうやって……」

「おい?」

「うっ、あ、ちょっ、ちょっと失礼っ……」

「お手洗いは右に出てすぐ」


言われて前屈みになりながら飛び出していくラクトの顔色は真っ青だった。


「……マジで……?」

「胃腸を急激に活性化させただけなんだけどね」

「わ、悪い……やっぱ分からん……」

《うむ。呪いだな》


そうして、しばらくして戻ってきたラクトを、バルドは気の毒そうに見つめたのだった。




読んでくださりありがとうございます◎



理解できないものを呪いとして納得するんです。

それで納得できるんですから、いいですよね。



では次回、また明日です。

よろしくお願いします◎


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― 新着の感想 ―
[一言] 鬼とか悪魔って呼ばれるのは…日頃の行いのせいだ、と。 モリアーティ(渾名/高校生)は不本意だった(「何か企んでるだろ、絶対」とよく言われたが) 「拝み屋横丁」大家さんの呪いで女性が近づくと腹…
[気になる点] >水を弾くようにはいぬかもしれんという事だな →水を弾くようにはいかぬかもしれんという事だな
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