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004 旅路を急ぐ

2016. 8. 25

早く着けると聞いて、男が歩みを思わず止めたにも関わらず、ファナが呼んだのは小さな子猫。


男はあからさまに顔を顰めて再び歩き出した。


「え? ちょっとおじさん?」


呼び止めた所で、止まるはずがない。


「遊びや冗談はよしてくれ。人一人の命に関わるんだ」


先ほどよりも速度を上げる男に、ファナは走って追いすがる。


「冗談じゃないよ。もう、せっかちだなぁ。シルヴァ。そういうことだから、このおじさんも乗せてこの先の町に急ぐよ」


振り向いてそう言ったファナに、男に聞かれるのも構わず普段と変わらない様子でシルヴァが答えた。


《どうゆうわけだかサッパリだが? こういう時、主は面倒臭がりだから仕方がない。とにかくその図体のデカい男をこの先まで連れていけば良いという事か?》

「そういうこと〜」

「っ⁉︎ しゃべっ⁉︎」


男が聞こえてきた声にまさかと思って振り返り、驚愕の表情で固まった。


「なっ、なんだよ、それは!」

「何って、彼女はシルヴァ。あ、彼女って言ったけど、特に性別はないんだよ?」

《うむ。我は個の存在だ。故にそうなる。認識は、主の気分次第だ》

「そ、そうか……」


はっきり言ってそこはどうでもいいと、男は思ったようだ。


「そんじゃ、シルヴァ。よろしく」

《それは良いが、これを外してくれ》

「んん? あ、そうだった。ドラン、ちょっと出ておいで」

《キシャ?》

「っ⁉︎」


子猫が背負う布の中から、ニョキっと三つの顔を出したドランに、男は反射的に仰け反る。


引きつった表情を隠せないまま、震える声でファナが手のひらに乗せたソレを指差した。


「一体、それは何だ……」

「この子はドラン。カワイイでしょ?」

「……ドラ……お、俺が思うに、本の挿し絵とかで見るドラゴンに……似てるように思うんだが……」


ドランは男の視線を受け、警戒するように翼を広げ、三つの首を伸ばす。


《キシャー!》

「うっ……」

「こらこら。敵じゃないから大丈夫。落ち着きな?」

《キシャ?》


そう言ってファナが撫でると、ドランはその手の温かさに安心したのか、スッと大人しくなる。


そんな様子を見ても、男は強張った体の力を抜くことが出来なかった。これに呆れながら、ファナが言う。


「ドラゴンがそんなに珍しい? このシールスの大陸に一匹いるじゃん。架空の生物じゃないよ?」

「なに?」

「え? なに? 知らないの?」

「……」


そんな話は知らないと、男は呆然と目を見開いたまま静かに頷いた。


《仕方あるまい。アレがいるのは人の立ち入れぬ魔の山だ。主だとて、あの毒の霧の中を行くのに、結界を三重にしていただろう》

「そういえば……うん。確かにちょっと面倒な所に居たね。ドランにいつか会わせてやりたいんだけどな。向こうからドランに会いに来てくれたりしない?」

《こやつの反応を見れば、アレが山を下りた場合、大パニックになるのは必定だな》

「そっか……うん。ドラン、今度ゆっくり山登りしようね」

《キシャっ、シャシャシャっ》


うれしそうに鳴くドランを撫でて、落ちないでねと言いながらファナは自身の頭に乗せた。


「さてと。それじゃぁ、シルヴァ」

《うむ》


ファナの意を受けて、シルヴァは少しだけ離れると、瞬時に白銀の獅子へと姿を変えた。その大きさは、背に大人二人を余裕で乗せられるくらいだ。


「は……」

「ほら、おじさん。惚けてないでね。シルヴァが綺麗で見惚れるのはわかるんだけど、人一人の命がかかってるんでしょ?」

「うっ、そ、そうだ。で、の、乗せてくれるのか?」


恐々とシルヴァから目を離せずに言う男に、ファナは呆れたように肩をすくませた。


「その為にこの姿になってるんじゃん。行くよ?」

「お、おう……」


ファナには、なぜこれほどまでに男が驚くのか分からなかった。だから当たり前のようにシルヴァに跨り、男を手招く。


「私の後ろに乗って、腕回して。馬じゃないから、鞍とかないんだ。飛ばすから、態勢は低くね」

「わかった……」


男はこの場での理解を諦めたようだ。優先すべき事は分かっているのだ。敵ではない以上、警戒する必要はないと判断したのだろう。そうして、ファナの後ろへと跨った。


「ドラン。ちゃんとしがみついてるんだよ」

《キシャっ》

「よしっ、シルヴァ」

《うむ。行くぞ》

「っ……」


一気に風となって駆け出したシルヴァの速さに、男は息を呑んだ。


「口は閉じておいてね。振動は少ないんだけど、慣れないと舌を噛むよ」

「っ⁉︎」


大きな図体をしているが、かなり驚いているのだろう。ファナの体に回した腕はキツく、強張っていた。


「辛くなったら言って。シルヴァは十日間走りっぱなしで大陸を縦断できるぐらいのスタミナがあるんだ。私も平気だから、休憩のタイミングはおじさんに任せる」

「っ、わかったっ。あと、俺の名前はバルドだ。バルドと呼んでくれっ」


舌を噛まないよう力を入れ、風に負けない大きな声でそう言ったバルドに、ファナは少し振り向きながら伝える。


「私はファナ。よろしくね、バルド」

「おうっ、よろしくな、ファナっ」

《キシャー♪》


この出会いが、何をもたらすのか。それはまだ魔女さえも分からない。



読んでくださりありがとうございます◎

次回、また明日です。

よろしくお願いします◎

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