039 気にしないタチです
2016. 10. 13
注文したケーキが来る前に、既に満足気なラクトを目の前にして、ファナは苦笑するしかない。
「そういえばあの人、バルドと親しいって聞いたけど、どんな人なの?」
会話に困って出した話だったが、ラクトは過剰に反応した。
「あの人……ファナ、まさかっ、ノークの奴に興味をっ……」
蒼白になり、次に赤くなる。
「ファナっ、あいつが好きなのか!?」
またおかしな脳内変換が行われたらしい。
「なんでそうなるの。バルドと友達っぽいし、薬師だってのは分かるんだけどね」
悪い人ではないのかもしれないと、今更ながらに思ったのだ。
「そ、そんなっ……まさか嫉妬か!? バルドが好きなのか!?」
「落ち着けよ、バカ兄貴」
さすがに話もまともに進まないのでは鬱陶しいと、ファナは足の先をラクトの脛に刺した。
「痛っうっ……痛い……」
「バカ変換を止めないと、もう一度いくよ」
「……はい……」
ここまでラクトを見てきて思ったのだが、どうやらシスコンを発動しなければ、かなりまともな人だ。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
こんな時でも、いちいち持ってきてくれた店員にお礼を言うし、貴族らしくない。
ファナの貴族のイメージは、ふんぞり返って、あっても頷くくらいだ。幼い頃の朧げな記憶の中でも、両親が使用人に礼を言う所なんて見た事がない。
「ファナ、お砂糖いるか?」
「いらない」
「っ……大人になったんだね。小さい時は甘くして、スプーンで一口ずつ……食べさせてっ」
「くれなくていい」
「っ……」
頬杖を付き、外を見つめながら、窓に映ったラクトを見る。
外からは、店に入って間もなく、ラクトの姿を見て頬を染める女性達の視線が感じられるようになった。
文句なくイイ男だ。お茶を飲む姿も、全て優雅に落ち着いた所作が美しい。
そんな事を考えていれば、不意に窓の中のラクトと目が合った。
「ファナっ、そんなに熱く見つめてくれるのかい? 恥ずかしいな……けど……もっと見てくれっ!」
「もう一生分見たっぽいから、視界に入ってこないで」
「……」
この浮き沈みの激しい様子を見るに、やはり病気だと思う。
問題なのは、落ち込んでいても、はしゃいでいても鬱陶しいという事だ。これは、中間辺りに調整するしかない。
「はぁ……そっちのケーキ、一口ちょうだい」
「あ、あぁ」
ラクトの頼んだのは、甘くないシフォンケーキだった。どうも、クリーム系があまり好きではないらしい。
「そこのホイップ付きで」
「いいぞ。ん?」
「食べさせてくれるんじゃないの?」
「っ、わ、わかった。はい、あ〜ん」
「んむ……ん、フワフワだ」
「だなっ」
感動も相まって、ご機嫌モードだ。
「それで、あの、なんだっけ、ノー……ノート?」
「ノート? あ、あぁ、ノークの事だな。どんな奴か……だったか」
今度は落ち着いた様子で、話し出す。
「ノークは、真面目な奴だ。ただ、頭は良いが、要領が悪い」
「損な人だね……」
「そうだな。あれは昔から、進んで貧乏クジばかり引く。優しく、情け深いのに、ワザと冷たくしたり……損な性分だ」
ラクトは、昔を懐かしむような、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。それが、どこか寂しそうにも見えたのだ。
「それ、前世からそうだった?」
「え?」
思わず尋ねたファナに、ラクトが驚く。そう感じてしまったのだ。知らないうちに口をついて出ていた。
「そ、それはっ……気持ち悪いだろう? 前世の記憶があるなんて話……」
ラクトは自嘲気味な表情で言う。しかし、ファナはなんて事のないもののように、また頬杖をついて窓の外へ視線を投げた。
「別に? だってそうなんでしょ?」
「それは、そうなんだが……おかしいと思ったりとか……」
ラクトは自信なさそうに縮こまる。
「だから、別に。そういう人もいるって、師匠も言ってたし、おかしくないでしょ」
「……そうか……そうなのか?」
ラクトにとっては結構な覚悟のいる状況だったのだろう。拍子抜けだと顔に書いてある。
ファナは、らしくないラクトの様子を元に戻すべく努めて明るく話を戻した。
「それにしても、ツンデレでMなんて、兄さんの類友っぽいね」
「な、なにっ? 私はMっ気なんか持っていないぞっ」
「大丈夫。自覚ない奴ほど、そう言うから」
「ば、ばかなっ、わ、私がMなどと……はっ、でも、ファナに吹っ飛ばされたのは……ちょっとゾクッとした……」
「……顔を赤らめてんじゃないよ……」
お腹をさすりながら、目をそらして頬を染めるラクトに、ファナの方がゾクッとしたのは、気のせいではないようだった。
読んでくださりありがとうございます◎
もう少し落ち着きが欲しいですね。
上手くコントロールできればいいのですが。
前世の話も、魔女に育てられたファナちゃんなら受け入れられます。
お兄ちゃんも一安心?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎