表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/285

038 追って来ました

2016. 10. 11

名残惜しそうにするフレットが、目覚めた護衛二人を連れてギルドを後にするのを見送り、ファナ達はイクシュバの町を出て、次にどこへ行こうかという話をしていた。


「ファ、ファナっ、家へ帰ってきてくれるのではないのかっ?」


この場には、当然のようにラクトがいた。そして、女々しくも同じ言葉を繰り返している。


「行くとは言ったけど、真っ直ぐ向かう気はないよ。あくまでついでに立ち寄る系だから」

「うっ……なぜだ……なぜ帰ってきてくれない……そうか、奴らをこの世から消さなくては……っ」


不穏な空気を纏わせながら、ラクトは何やらブツブツと呟く。


「おい、ラクト。奴らってご両親の事じゃ……」


バルドがまさかと思いながらそう尋ねると、ラクトに睨まれた。どうやら間違いなさそうだと顔を青くする。


《主よ。兄殿を納得させねば、親殺しの罪を背負わせる事になるぞ》


そんなシルヴァの忠告に、ファナは何てことないように言う。


「バレなきゃ良いんでしょ?」

「……ファナ……今なんて……」


信じられない言葉を聞いたと、バルドはファナに目を向ける。


「だって、師匠が言ってたよ? 証拠を残さなければ何をしたって問題ないって」

「どんな極論だ!? 忘れなさいっ」

「えぇ〜。分かりやすくて良くない?」

「良くない! ラクトだけでも大変だなんだ。ファナまで無茶苦茶な事を言わないでくれっ」


妹であるファナが絡むと常識が崩壊するラクトと、常識そのものがまだ理解できていないファナ。


シルヴァは案外、人の世界での常識を知っているようだが、それでも全面的に頼りには出来ない。


これでは身が保たないと、早くも倒れそうになっているバルドだ。


「お、俺一人じゃ二人はキツイ……」


そんな弱音を吐いた時だった。ファナがふとギルドへ入ってきた人物に目を留めた。


「バルド……あいつ……」

「えぇ?」


投げやりに返事をし、反射的にファナの視線を追う。そして、目に映ったその人を見て、思わず立ち上がった。


「なっ、の、ノークっ」

「バルド、やっと見つけた……っ」


ノークは、青白い顔をしており、バルドを見た途端、糸が切れたように倒れこんだ。


「お、おいっ、ノーク!」


驚いて駆け寄ったバルドは、ノークを抱き起こす。そこへ、シルヴァが近寄る。


《心配ない。疲労による気絶だ。寝かせておけば良いだろう》

「そ、そうか……仮眠室を借りてくる」


バルドは急いでギルド職員へと仮眠室の利用許可を取りに行った。


そのまま寝かされたノークに、ファナがゆっくりと足音をさせずに近付き、顔を覗き込むように屈み込む。


「ふ〜ん……疲労回復薬を飲みながら、不眠不休で走ってきたみたいだね」

《うむ。馬も辛そうだな》

「シルヴァじゃないんだから、ここまで不眠不休なんて馬も保たないよ」

《当然だな》


ユズルの町からこのイクシュバまでを、恐らく、ファナ達が出てすぐに追いかけたのだろう。


それでも普通ならば丸一日と少しで到着できるものではない。


「ノークは、昔から早駆けが得意なんだ。馬をあまり疲れさせる事もない」

「兄さん」


ラクトは、仕方のないものを見るように眠るノークを見つめて、ファナの隣に屈み込んだ。


「何があったか知らないが、必死になって……ファナ、馬用の回復薬はあるか?」

「手持ちはないけど、すぐに作れるよ?」

「頼む。様子を見てこよう」

「は〜い」


ラクトはすくっと立ち上がると、ギルドの外につないだらしきノークの乗ってきた馬を見に出て行った。


《我はドランと待つ》

「わかった。すぐに戻るよ」


それから、バルドがノークを仮眠室へ運び、ファナは馬用の回復薬を調合した。


日が暮れる頃。ノークが目を覚ました。


「大丈夫か? ノーク」

「バルド……あぁ……少し無茶をした……」

「みたいだな。まったく、俺らはもう若くないんだ。昔のようにはいかんと自覚しろよ?」

「そうだな……」


そんな話をしている所を、ファナとラクトは遠巻きに見ていた。それに気付いたノークは、はっとして先ずラクトに目を留めた。


「っ、ラクト?」

「久しいな。ノーク」

「あ、あぁ……どうしてここに……ここはイクシュバだろう?」


ノークは、自分がどこにいるのか分からなくなったようだ。


「私がどこに居ようと、構わないだろう?」

「そ、そうだが……悪い、混乱しているようだ……」


頭を押さえ、俯くノーク。そこに、ファナが水を差し出した。


「薬の飲み過ぎ。仮にも薬師が、無茶な飲み方するんじゃないよ」

「あ、ありがとう……」


素直に受け取ったノークは、ゆっくりと喉を潤すように水を飲み干した。


「回復薬だって、万能薬じゃないんだから、飲んだからって全部が万全になるわけじゃない。わかってるよね?」

「それは……はい……」


反省はしているようだ。しかし、恐らくそうして無茶をした理由はファナにあるのも分かっている。


「なんで追って来たの? ちゃんとホート病の薬は効いたはずでしょ?」

「もちろんだっ。そうだ、君に礼をっ」

「へぇ……お礼参り? ヤるなら表出ようか?」

「いや、えぇっ!」


ポキポキと指を鳴らし始めたファナに、ノークはまたも混乱する。


「忘れてたよ。あんたを一発殴ってやろうって思ってたんだった……思いっきり、その顔が歪むぐらい強烈なのをね……」

「っ!?」


凶悪な顔付きになったファナに、パクパクとノークは意味のない口の開け閉めを繰り返す。その表情は、倒れた時と同じ蒼白だ。


「おいおいっ、待てファナ」

「止めないでよ。こいつに礼儀ってもんを教えないと……っ」


そう言って一歩ずつノークへ近付こうとするファナの肩を、バルドが後ろから掴んで止める。


そして、振り返ってラクトへ提案した。


「ラクトっ。ファナと二人っきりで出掛けたくないか?」

「是非っ!!」

「ちょっとバルドっ、離してよっ」


ファナには今、ノークへ一発お見舞いする事しか頭にない。バルドの言葉も聞こえてはいなかった。


「ギルドを出て右。二つ目の角を曲がった所にケーキ屋がある。そこのベリーショコラがイチオシだ。行って食べてくるといい」

「わかった! ほらファナっ。ニィにと美味しいオヤツを食べに行こう!」

「へ? オヤツ? ちょっ、ちょっと兄さんっ」


暴れようとするファナを軽々と横抱きにし、ラクトは部屋を出て行く。


「さぁ、行こうっ。楽しいデートだ!」

「離してよ〜ぉっ」


残ったバルドは、ホッと胸を撫で下ろす。今の弱ったノークに手を出されては死にかねないと思ったのだ。


この間に、ファナがどういうものなのかノークに説明しようと決めた。そして、真っ先にこれだけは明かしておく。


「あのな、ノーク。ファナはラクトの妹なんだ」

「……ラクトの……あの自慢の妹?」


これに、大きく頷いたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



礼と聞いてお礼参りになってしまうとは……危険な子です。

お兄さんもたまには役に立ちます。



では次回、一日空けて13日です。

よろしくお願いします◎


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ノークってピンクに染色されたんじゃ…他の人? 薬師だから、脱色薬を作って使った?ファナのランク同等かそれ以上の…ノーク凄い!
[気になる点] 「あのな、ノーク。ファナはラクトの妹なんだ」 「……ラクトの……あの自慢の妹?」 ラクトの居ないときにファナを森に捨ててきたのだろけど、ラクトの今までの言動から、よく家がそのまま残り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ