036 これも運命
2016. 10. 9
フレットは第一王子だ。今まで、一度としてまた会いたいと自然に口に出した事はなかった。
「あ、会いたいと思ってはいけないのだろうか……」
どう言ったら良いのか。それさえも分からないのだろう。言われた事はあっても、それが分からないのだ。
フレットが不安気に見つめるのはファナとバルドだ。しかし、バルドにはその視線の意味が、助けを求めるものにしか感じられなかった。まさか、王子であるフレットが昔から憧れを抱いていたなどとは知る由もないのだ。
だから、バルドはフレットのフォローに入った。
「ファナだって、また薬を頼まれれば分からないだろう? ギルドでなら会う機会もあるかもしれん」
こうして、薬を作る為にギルドに居る事もあるのだから、そのついでにまた会っても問題ないだろうという意味だ。
しかし、ファナは正直に思った事や考えている事を口にする。
「そんな、薬の依頼なんて毎回受けないよ。私の気が向いた時だけだけど?」
「……おいおい……」
今回は後見人でもあるオズライルが困るだろうと思い、受けたに過ぎない。
《魔女殿もそうであったろう》
「……そういえば、国の依頼でも蹴る事があったとか聞いた事が……」
魔女がこの世界にいたのは十年。それでも多くの噂は残っている。
村がいくつもなくなるような病気が流行った時は誰に何を言われるまでもなく助けたが、内乱で傷付いた国の要請は断るなど、独自の見解とルールでもって手を出すかどうかを決めていた。
「師匠も気分屋だったから」
「その一言で済ませる気か?」
「それ以外、言いようがない。それに、この先この国に居るとも限らないじゃん。ヤダよ? あっちに行って、こっちに行ってって振り回されんの」
「た、確かに……」
運良く連絡がついたとして、どこどこへ今から直ぐに来てくれなんて言われて大陸を縦断する気はない。
シルヴァがいれば問題にはならないが、予定を変更してまで人助けをする気になるかといえば、なれない質だ。
「それも緊急でとかだと、楽しくない。急いで薬作れとか、ふざけんなって思うんだよね。じっくり集中しなきゃ、薬なんて作れないのにさぁ」
「……おう……」
間違ってはいない。だが、毎回プラチナ以上の出来になるファナの実力を知っているバルドや、聞いてたギルド職員には、ファナに重要なのは『集中』ではなく『楽しい』方ではないのかと思えてならなかった。それはあながち外れてはいない。
「そ、それでは定期的に頼むというのはどうだ? どこの国のどのギルドにでも良い。決まった量を依頼として提出してくれれば」
「そんなんで良いの? 国が違っても受け渡しが出来るの?」
バルドに尋ねるように目を向けると、代わりにギルド職員が反射的に答えてくれた。
「可能ですっ。ギルドから配達できますから」
「そうなんだ。なら良いんじゃない?」
「あ、あぁ」
冒険者ギルドは、キルド間で依頼を共有できる。製薬の依頼などは、国をまたいで取り引きされるのも普通だった。
《しかし、それでは会えぬな》
「そういえば、そうだね」
フレットは会いたいと言っていた。これでは物とお金だけの取り引きで、顔を合わせる必要はない。
「あ、いや……どこのギルドで受け渡しがあったのかはすぐに分かるようになっている。だから……」
「ファナの居場所は、依頼主であれば問い合わせられるという事だ」
「ん?」
その声は、ギルドの扉が開くと同時に聞こえてきた。
《ご帰還か?》
中にいる冒険者達も揃って目を向けた先。そこに、外の光をバックにして仁王立ちするラクトがいた。
「早かったね」
「待っててくれたかっ」
「ううん。まだご飯の途中」
「そうかっ、一緒に食べようと待っててくれたんだなっ」
「……ねぇ、バルド。あの人って、言葉ちゃんと通じてる?」
「独特な翻訳機能がついてるんじゃないか……?」
話を聞いていても、勝手に脳内変換されているようだ。
「ラクト……?」
「あれ? 兄さんを知ってるの?」
「え、兄さんっ!?」
フレットは、どうやらラクトを知っていたらしい。それも口にしたのが、ラクトバルでも、家名であるハークスでもないという事は、単なる顔見知りというだけではないかもしれない。
それを裏付けるように、ラクトがぶっきらぼうに言った。
「ふんっ、相変わらず弱そうだ。前から言っているだろう。私の仇敵なのだから、もっと強くなってみせろ。弱くては倒し甲斐がない」
「えっと……だから、どうして仇敵なんて……」
「これは運命だ。貴様は私に倒されるべく生まれたのだからなっ」
「……ラクト……」
腕を組み、そう言い放つラクトと、それに弱った表情を浮かべるフレット。どちらが王子か分からなかった。
読んでくださりありがとうございます◎
王子様のアプローチは不発?
ファナちゃんは難しいです。
ラクト兄さん帰還。
やっぱり変わった人みたいですね。
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎




