032 保護者の役目
2016. 10. 3
ファナは、ギルドのホールへと出ると、すぐにバルドとシルヴァが戻ってきた事が分かった。
「なんで入ってこないんだろ?」
そうして、外の扉へ向かっていけば、次第にその前に人が集まっている事が知れた。
「……営業妨害もいいところだよね……」
まさか、追い出された冒険者と戦士団の者達が、ギルドの入り口を塞いでいるとは思っていなかったファナだ。
改めて換気口の場所を考えても、間違いなさそうだと理解すると、ドランを頭に乗せて扉に向かって大股で歩いていく。
「あ、あの、ファナさんっ。今外は……っ」
ギルド職員がファナに気付いて追いすがるが、言わんとする事はもう分かっているのだ。黙って手で制し、そのまま扉を大きく開け放った。
「ちょっと、こんな所で図体のデカいのが突っ立ってんじゃないよっ。いつまで経っても薬草が届かないじゃない!!」
《シャァァっ》
視線が一気に集まるが、気にするほどの事でもない。寧ろ、全員伸してやろうかとさえ考えていた。
しかし、同じく目に入ってきたシルヴァの冷静な声に、とりあえずそれを治める。
《む? すまぬ、主》
シルヴァは子猫の姿のまま冒険者や戦士団の者達の前にいた。
バルドはと見回せば、引きつった表情でこちらを見ている。シルヴァを止めようと手を伸ばした感もあった。
「なんだ、シルヴァ。やる気ならそこにいるの全部町の外に放ってきてくれる? バカみたいに怒鳴って、気が散るんだよ。ここ、換気口に近いみたいで、部屋に響くんだよね〜」
「……」
「……」
この言葉に、冒険者も戦士団の者達も咄嗟に反応出来ない。
《シャァァァ!》
「ドランも怯えるし、男なら拳で語りなよ。口汚く罵しり合うなんてみっともない」
「……」
「……」
わざとらしくため息をついてみせるファナ。しかし、なぜか彼らは反論出来ずにいる。それどころか、体を震わすだけで、一歩も動けない。
その理由は目の前のシルヴァだった。
《主の許しが出たのだ。我が相手をしてやるから、町の外へ出るが良い。安心しろ。誤って死した場合は、近くの獣達の糧となるのよう取り計らおう。無駄にはすまいぞ》
「ひっ……」
「っ……」
シルヴァは、彼らがファナの邪魔をしていたと聞いて、怒ったようだ。その苛立ちが殺気となって小さなシルヴァの体から迸っていた。
そんな、動けずにいる彼らを助けに入ったのは、バルドだった。
「ちょっと落ち着け、ファナ。ほら、薬草だ。薬作るんだろ? シルヴァも、腹が減ってないか?」
「え〜……だって、この人達の為に薬作るんでしょ? なんか面倒くさくなっちゃった」
《これらと遊んでからの方が、より腹も空いて良いだろう。何より、腹が減った今の方が手加減してやれるからな》
「お前らなぁ……」
やる気を失くした子どもと、正論を口にする魔獣。これ程攻略の難しい生き物は他にいないだろう。
バルドも、保護者として自信を失いそうだった。しかし、バルドは諦めなかった。
「ファナ。やると決めたならやるべきじゃないのか? それに、ここで断ったら、マスターに迷惑がかかるぞ」
「うっ、師匠も途中で投げ出すのは良くないって言ってたかも……」
魔女の最後の教えは為せば成るだ。投げ出すなど論外だろう。出来ない事もやってみろということなのだから。
「シルヴァ。王たるもの、弱い者イジメは良くない。力の差は分かるよな?」
《む……確かに、このような者達相手に、大人気ないか……良いだろう。もっと修練を積むが良い。しかし、主に不快な思いをさせた事は覚えておく。その気配、忘れぬからな》
「っ……」
「は……っ」
ふいっとシルヴァが視線を外せば、彼らは荒い息をしながら崩折れた。それを無視して、シルヴァはファナへ歩み寄っていく。
《主、ドランは預かろう》
「うん。じゃぁ、バルドと待ってて」
《シャ〜♪》
ドランは嬉しそうにファナの頭から飛び降りると、シルヴァの背中へ飛び移る。
シルヴァもそれを確認すると、バルドへ顔を向けた。
《バルド。食事だ》
「あぁ……何が食べたいんだ?」
《うむ、熱々のピザだな》
《シャ〜》
「熱々って、お前、猫舌だろ?」
《冷めすぎないように目の前で見極める事に意味があるのだ》
「そうかよ……」
呆れながらも、最悪な状況は回避できたと、バルドはほっとしながらギルドへ入っていく。
「頼んだのより、ちょっと多くない?」
「あ〜、この依頼を毛嫌いする奴もいると思ったからな。シルヴァと相談して少しずつ多めにしといた」
「やるねぇ、バルド。これならギリ足りそう。すぐ終わらせるねっ。私のも頼んどいて」
「お前も猫舌だったな……分かった」
そうして、ファナは製薬室に駆け込んでいく。
取り残された冒険者と戦士団の者達は、未だに動けずにいた。体に力が入らないのだ。いつもならば身を起こすのに何も考えなくても良いはずなのだが、ガクガクと震える体は、どこにどう力を入れれば起き上がれるのか分からなくなっていた。
頭が痺れるほどの威圧。それを受けた為の後遺症だ。
しかし、彼らを見守っていただけの野次馬達は、それがわからない。
「なんだよ。猫が喋ったのは俺も驚いたが、情けないな」
「冒険者も、あの図体で子猫に睨まれただけであれって……どうなんだよ……」
「なぁ、あの噂、本当なのか? 第一戦士団は、他の戦士団より弱いって」
「え〜、だって王子様の戦士団でしょ? 弱いの?」
そんな声が聞こえていても、動くことができなかった。
「あっ、ちょっとっ」
「王子だっ」
そこへ、王子が現れたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎
止められて良かった。
バルドは良い保護者です。
ただ、これからも大変なのは目に見えています。
さて、王子様の登場?
では次回、また明日です。
よろしくお願いします◎