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030 昔の話です

2016. 9. 30

バルドとシルヴァは、素早くファナに指示された材料を集めると、半刻もしないうちにイクシュバの町へ戻ってきた。


「本当にあの場所に一通りあったな。それも、近くで戦闘があったはずなのに、荒らされていなくて良かった」


戦士団が討伐に出ていた場所がまさにフレック湖の辺りだったので、そのせいで荒らされて、目的の薬草がダメになっているのではないかとバルドは心配していたらしい。


《戦った場所はもう少し西寄りだ。我と主のいた山の方向にある森だろう。それに、二つバナは、匂いがキツイ。あれから獣除けの香が作られるほどだからな》

「なるほど。それは知らなかった」


獣除けの香は、冒険者であるバルドもいくつか持っている。森の中で休む時などの必需品なのだ。だが、それが何から出来ているかなど知る機会などなかった。


《知っておくと便利だぞ。他にも、今日採ったものだとヒリヤ草か。あれは葉を水に浸してから揉むとしなるから、それを打ち身に貼れば治りが早くなる》

「よく知ってるなぁ。それは魔女様が?」

《いや、主だ。一つの事を覚えてすぐに、復習の為に独り言をな。それを聞いて我も覚えた》

「ファナは勉強熱心なんだな」


一つ一つの薬草の効能までしっかりと覚えようとしていたのだろうと分かる。


《というか、主はどうも、文字になったものを覚えるのは早いのだが、聞いた事をそのまま覚えるのは苦手なようなのだ》

「へぇ、意外だな。なんでもすぐに覚えそうに思ったが」


あの年で薬学についての知識を持っているのだ。記憶力はかなりのものだ。なんでもすぐに覚えてしまう天才なのではと思っても仕方がない。


《そうだな。主は書物なら、一度読めばどんなものでも全て覚える。だが、実際に見た物の名前と知識を一致させるのに時間がかかるのだ》


勿論、一度覚えてしまえば間違える事はない。だからファナは、薬草の調合を覚えても、一つ一つを自分の手で採って知識とすり合わせていかねばならなかったのだ。


シルヴァはそれに付き合っているうちに薬草についての知識を持っていったのだった。


「となると……人の名前と顔を一致させるのが苦手だったりするのか?」

《あり得るな。ぬしと会う前も、主は町の名前はおろか、オズライルの名前も覚えられていなかったからな》


オッズラールとか言っていたと口にすれば、バルドは微妙な顔をした。


「よく俺の名前は覚えたな……」

《それは山を下りてはじめて出会った人であったからだろう。比較するものもない唯一のものとして覚えたのだ。だいたい、主は魔女殿の所へ来てから、誰とも会っていないからな》

「そ、そうか……良かったよ……」


他に情報がなかった為にすぐに覚えられたのだろう。これがもし、バルドともう一人いたなら分からなかった。


そんな話をしながら、ギルドの前へやってきたバルドとシルヴァだったのだが、困った事態になっていた。


「どうなってんだ?」

《入り口前で、いがみ合っているとは迷惑な》


ギルドの前には、人だかりができていた。どうも、冒険者と戦士団の者達が罵り合いをしているらしい。


職員に追い出されたのかもしれない。


《あれらは、仲が悪いのか?》

「あぁ……戦士団の奴らはエリート意識が強くてな……俺も、それが嫌で……」

《む? なんだ。戦士団にいたのか?》

「昔な。殿下が入る前の戦士団にいたんだ。七年くらい前か」


バルドは二十で実力を認められ、戦士団に入った。それから十年と少し所属し、上からの命でなぜか格下の第二戦士団に移動となったのをきっかけに冒険者へ転身したのだ。


《顔見知りはいないのか?》

「いないな。第一戦士団は殿下が入ってからメンバーを一新したんだ。仲間は皆、他の四つの戦士団に振り分けられたのと、俺みたいに冒険者になった」


第一戦士団に所属していた者達が振り分けられた事で、実力順であった戦士団から弾かれた者も多かった。


これによって団員の結束が失われる事態も起こったという。王子を中心として集められたのは、ほとんどが貴族の子息と、その取り巻きだったのだ。


それまで実力主義を貫いていた戦士団のあり方も危うくなってしまった。しかし、もちろん、これを問題視する貴族も多かった為、強化はされている。


今となっては戦士団に見合う実力を持っていた。ただ、本来は鍛え、実力を上げて戦士団へ入るのだが、彼らは逆に戦士団に入ってから実力を伸ばしたのだ。


それでもシルヴァにいわせればまだまだ弱く頼りない。


《ほぉ、それを聞いて、こやつらが碌な実力もない半端者の理由が分かったぞ》


それを、わざと聞こえるように口にしたのだ。


「お、おいっ」

「誰だっ!! 今、我らを愚弄した者っ。出てくるがいい!!」


バルドは慌てたのだが、シルヴァは至って冷静だった。人々の足の隙間を通り抜け、戦士団のいる中心へと子猫の姿で進み出る。


《来てやったぞ。もう一度はっきりと言った方が良いか?》

「なっ、ね、ネコ!? そんなばかなっ


戦士団の者だけでなく、冒険者達も驚きに目を瞠る。


《愚かだな。獣は話さぬという固定観念など、実際に見て聞いたならば今すぐ捨てるくらいの度量は持つべきだぞ》

「っ、うっ……」

《ふむ、後はその間抜けにも顔に感情

が出過ぎるのも問題だ。イレギュラーな事に直面した時ほど、平常心を保てなくてはな》

「っ……」


子猫に指導を受ける強面の冒険者と戦士団の者達という光景は、なんだか異様だ。


野次馬として集まっていた町の人々は、あんぐりと口を開けたまま固まっている。


バルドは後ろからこの状況を見ていて、どうすべきかと必死で考えていた。しかし、ここでギルドの扉が勢いよく開いたのだ。


「ちょっと、こんな所で図体のデカいのが突っ立ってんじゃないよっ。いつまで経っても薬草が届かないじゃない!!」

《シャァァっ》


それがドランを肩に乗せたファナだと気付いた時、シルヴァは首を傾げ、バルドは目を見開いた。


《む? すまぬ、主》

「ファ、ファナ……」


仁王立ちで少々高い位置から見下ろすファナは、あからさまな苛立ちを目の前の冒険者と戦士団の者に向けていたのだった。


読んでくださりありがとうございます◎



ギルドの前でいがみ合うなんて、営業妨害です。



では次回、一日空けて2日です。

よろしくお願いします◎


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