003 お尋ねします
2016. 8. 23
少し短いです。
その人は、がっしりとしたガタイの良い四十に差し掛かろうかという年頃の男だった。
「すみませ〜ん」
「ん? こんな場所に女の子が一人で……危ないじゃないか」
男は長い外套を着けている。しかし、近付けばその音で、中に防具や鎧を着けている事が分かった。
なるほど、これが冒険者かとファナは納得する。
「そうですか? ちょっと人里離れた場所で師匠と二人で暮らしていたものですから、外の世情に疎くって」
「ほぉ……人嫌いの魔導師にでも育てられたか」
「そんなところです。師匠がいなくなって、後見人に手紙を届ける所なのですが、土地勘がなくて困っているんです。え〜っと、イク……」
何だっけと首を捻るファナに、男が苦笑しながら言った。
「イクシュバか?」
「それです! どう行けば良いですか?」
答えが出たことで、満面の笑みを向けるファナ。その勢いに押されて、男は少々顔を赤らめながら言った。
「っ、この街道を真っ直ぐ、五日ほど歩いた所だ。俺はその手前の町に用があるんでな。良ければ一緒に行くか?」
男の提案は正直嬉しいものだった。しかし、ふと思い出す。
「あ〜……いえ。連れもいるので、大丈夫です」
「そうか? まぁ、俺も少し急いでいるからな。嬢ちゃんにはキツイ速さかもしれんか……」
確かに、今こうして話している間も、男は歩みを止めない。大股なその速度は、ファナが半ば駆け足をする速さだ。
理由が気になったファナは、そのまま何気ない様子で問いかける。
「そんなに急いでどうしたんです?」
「仕事でな。薬の材料を届ける途中なんだ。高い熱が何日も続く病があって、それを治す薬の調合が難しいんだ。薬の完成が先か、患者が死ぬのが先かってな。それで、少しでも多くの材料が必要になるってわけだ」
ようは失敗するから、その予備の材料を届けようとしているらしい。
「へぇ……どんな材料なの?」
気になったファナは、ダメ元で尋ねてみる。ファナは、この世界の薬学の知識も魔女に言われて持っていた。この世界で生きるのに必要となるかもしれないからと、他にも様々な専門的な知識を有している。
そんな知識の中に、その病の情報もあるかもしれないと思ったのだ。
「これだ。インリン花って植物で、高い山にしか生息していない。高価で手に入れるのが難しい材料なんだ」
「それなのに失敗するの? ん? インリン花……強い抗生剤……高熱が何日も続く……ねぇ、それと一緒に用意するのって何?」
ファナは記憶を引っ張り出しながら、鞄から一冊の分厚い本を出してページをめくる。
そんな様子を不思議そうに見て、男は思い出すように目を空へ投げてから答えた。
「確か、ウツロ草とオウサン花……後は……」
それだけ分かれば特定できると、ファナはそのページを開く。
「あとはキーマの根っこと、エリチカの実だね。ホート病かぁ。それなら急がなくっちゃ。おじさん、その患者が熱を出して何日経ったか分かる?」
「え? いや、だが、少なくとも俺が依頼を受けたのは三日前だ」
「三日……病気の特定に最低三日。薬の材料を集めるのに更に三日、四日費やしたとするとマズイね。患者の生存確率は十パーセントを切ってる。おじさんっ、何を見ても驚かない?」
「なんだって?」
突然なんだと思われるのも仕方のない話の運びだ。しかし、それしか言いようがなかった。
「おじさんはちょっと重いけど、大丈夫でしょ」
「だから、一体なんなんだ?」
首を傾げる男に、更に言う。
「乗せて行ってあげる。シルヴァなら五日の距離でも一日で着けるよ」
「シルバー? なんだか知らないが、早く着ける手段があるなら頼みたい」
「オッケー。シルヴァ〜っ」
大声で森に向かって叫ぶと、小さな白い点にしか見えない子猫が駆けて来たのだった。
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