282 かつての父母との関係
2021. 3. 1
ファナはテリアが屋敷に到着してすぐに気付いた。
「あ……本当にマスターなんだ……」
「なんだ。魔女の直感を信じていなかったのか?」
少し前から屋敷に半分滞在している状態の魔女。彼女はソファで寛ぎながら、面白そうに膝に乗せたドランを撫でてファナを見た。
「だって、そういうのって、最初に会った時に感じるものじゃないの?」
テリアに初めて会った時。そうだとは分からなかった。運命だとかは信じていないが、そういうのが出会いだと思ってもいい年頃だ。
「最初から気付いていたさ。違和感として感じなかっただけでな」
今、魔女は帰って来てから若い姿でいる。見た目、ファナの母親と言える年周り。その目は真実娘を愛しむ様だ。
「嫌な感じはしなかっただろう?」
「してないよ?」
「ならば、自覚しなかっただけさ。お前は、これも自覚ないかもしれんが、結構警戒心が強いぞ」
「え? そう?」
ファナは首を傾げる。自分ではとっても気軽に声を掛けている気があった。
同意を得ようと魔女が本来の姿で床に寝そべるシルヴァへ目を向ける。ちらりと目を開けて、シルヴァが答えた。
《確かに、声かけは普通だが、無意識に距離は取っているように感じる。まるで気まぐれな猫のようだとバルドも言っていたな》
「猫……」
それはちょっとどうなのかとファナはムッと頬を膨らませた。
「はははっ。なるほど猫か。まさしく、拾った頃は仔猫のようだったかもなあ」
「えー」
冗談でしょうと本気にせず、ファナは調合中の薬を仕上げた。
「出来た。はい。これで正解?」
「ふむ……」
できたものを魔女に見せる。これは試験であり、依頼だった。とはいえ、単なる風邪薬だ。今年流行りの。
「良さそうだ」
「はあ〜、流行系の風邪薬が一番面倒だよね」
「毎年変わるからなあ」
去年と同じ症状だと思って処方した薬が効かないことは多い。
しかし、一般的な薬師は新たな薬の研究などしない。効かないのは、今回は少し強いからだと判断。完全に効かない訳では無いので、何日か少し長めに治るまでに時間がかかるのだと思って終わりだ。
しかし、異世界の知識のある魔女に師事したファナは違う。きちんと病原の型が違うのだと理解しているため、毎年新たに薬を調合するのだ。
お陰でこのハークス領では、いち早く対策が為されるため、大流行することはない。寧ろ、王都や近郊の町から買い付けに来るほどだ。
「じゃあ、これはじいちゃん……父さんに」
「そうだな。アレも年老いたものだ。気を付けさせねばならんな」
魔女と再会した時。ファナはかつての父の生まれ変わりがオズライルであることも、改めて確認していた。だから、特に体には気をつけて欲しいと思っている。
「どれ、せっかくだ。今から持って行くか。何か他に土産は……」
「このお茶は?」
「ふむ。懐かしい茶葉だ。貰っていこう」
「うん」
前世で住んでいた村の辺りで扱っていた茶葉だ。魔女が来てから取り寄せたものだった。
立ち上がった魔女が、茶葉と薬を持ち、ドアに手を掛けながら思い出したように振り返る。
「お前も、会ってくると良い。おまじないは効いているはずだからな」
「……うん」
そうして、お呼びが掛かる前に、ファナはテリアの下へ向かった。
そこで、テリアが正しく前世の記憶を思い出していることを知ったのだ。それは、魔女が行ったおまじないの成果だった。
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