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028 変態でシスコンなんです

2016. 9. 27

ファナ達は食事を済ませ、取っていた宿へ戻ろうと歩いていた。


「なぁ、ファナ。戻って来てくれる気はないのか……?」

「戻るって発想がまず持てないんだよね。あそこは私にとって家じゃないっていうのかな……それに、こうやって町が近いんなら、閉じこもってるとか、ひと所に留まるってのがね……ないな」


フレアラント山脈の山頂。そこに変化はなかった。必要な物をたまに外へ取りに行く以外は、やれる事が限られていたのだ。


小さな小屋の中で、薬学の勉強をし、庭先で剣技や魔術の練習をする。史実を学び、生きる術を覚える。そんな固定された空間での生活を送ってきた。


だが、町に下りたなら、真新しい物もすぐに探せる。刻一刻と変わる情勢をその目で確かめることもできるだろう。


一歩出れば手が届く世界。山の中では見下ろすしか出来なかったその世界が目の前に広がっているのだ。


ひとつの所に留まるなんて勿体無い。


《我も、主がこのような場所で引きこもるなど出来ぬと思うがな。百歩譲って兄殿の家を主の家と定めたとしても、数年に一度帰る場所程度にしかならぬだろう》

「そ、そんな……っまさか、この世界こそが私の敵だとでもっ……そうかっ、やはり私が世界を掌握せねばならんのかっ」


頭を抱え、真剣に世界征服を考え出すラクト。思い詰め方が尋常ではなかった。


「お、おいラクト……ちょっと落ち着け……」

《主よ。兄殿は面白い事を考えるな》

「……なんか、なんでもやりそうで怖いよね……」


その力もあるはずなのだ。このままでは、本当に世界を掌握しかねない。そして、言うだろう。


「ファナっ、私が世界を手に入れてあげよう。だから、この世界そのものがファナの家だっ。そして、私の所に帰ってくるんだよっ」

「……」


予想通りの言葉を今聞くとは思わなかった。この人は本気で危ない。そう気付いたファナは、対応を考え直す事にした。


「……とりあえず、家に行けばいいんだよね……に、兄さん……」

「ファっ、ファナっ……兄さんっ、兄さんって……ファナが兄さんと呼んでっ……あぁっ、兄さんだよっ!」

「う、うん……兄さん……」


目を背けずにはいられない程、キラキラと煌めきまくった恍惚とした表情は、危ない人にしか見えなかった。


《主をたじたじとさせる……やるな、兄殿……》

《シャ?》


シルヴァは訳のわからない感心をラクトへ向けていた。


そんなこんなで、一路、ハークス侯爵家のあるクルトーバへ向かう事に決まったようだ。


「こんな奴じゃなかったんだがな……」


妹であるファナに関わると崩壊する表情と態度は、バルドが慣れ親しんだラクトとは別人だと思えてならないようだ。


「なんだ、バルド。もうお前に用はないぞ。ファナは私が連れて行くからな」

「そんなわけに行くか。俺はファナの保護者だからな」

「違うだろう。兄である私がいるんだ。保護者は私だ」

「ファナについてはお前は信用出来ん。寧ろ、お前の保護者役もすべきだと俺は思うんだが?」

「な、なんだとっ。私はもう二十五だ。保護者など必要ないわ!」


へぇ、二十五なのかと、ファナは冷静に情報を収集していた。そして、バルド相手だと本気で言い合えるのかと感心もしていたのだ。


《良いコンビだな》

「だよね〜。年の離れた兄弟みたい」

《うむ。生き生きとしている》

《シャシャ?》

《いいや、喧嘩ではない。あれは、仲が良いのだろう》

《シャ?》

《喧嘩するほど仲が良いというらしいからな》

「へぇ、師匠に聞いたの?」

《そうだ。本気で、本音でぶつかるからな。気心が知れるのだろう。そうして、相手の本質も理解できる仲になる》

「そっか」


ファナとしても、ラクトと二人きりになるより、バルドと三人の方が安心だ。喧嘩をしながらでもいい。そうする事で、ラクトの事も知れそうだと思えた。


「そういえば兄さん。家督を継いだって、仕事は良いの?」

「むっ、そんなもの、まとめてでも出来る。私は優秀だからな」

「そう? まぁ良いけど、領民に迷惑だけは掛けないでね」


領主となるのだから、ちゃんと仕事はしてもらわなくてはならない。政治的なものは分からないが、そういうものだと物語などで知っている。


「っ、そ、そうだなっ、分かった。先に少し調整してこよう」

「え? うん。頑張って」

「が、がんばっ……ファ、ファナっ、その……出来れば、行ってらっしゃいと言ってくれないか?」


なぜか打ち震えてリクエストするラクト。訳が分からないが、言えばいいのかとファナは口を開いた。


「うん? うん。行ってらっしゃい、兄さん」

「っ〜……っ行ってくるっ!」


気合いが入ったようだ。一瞬でその姿を消していた。


《単純なのか、馬鹿なのか、変態なのか? 良く分からんな》

「いや、その、本当に出来る奴ではあるんだが……どうにも変態のシスコンでな……」

「全然フォローになってないけど、それ以外表す言葉もなさそうだね」

「……すまん……」


なんで自分が謝ってるんだろうなと項垂れるバルド。その時、キルドの職員が呼ぶ声が聞こえてきたのだった。



読んでくださりありがとうございます◎



変態でシスコンなんて最悪な組み合わせで、最強ですね。

ですが、本当に家督を継げるだけの力量はあるようです。

さて、呼びに来たギルド職員はやはり……?



では次回、一日空けて29日です。

よろしくお願いします◎

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