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277 ファナの想い人

2020. 12. 21

ラクトが魔王であったことなどを聞いた王は、最初こそ戸惑っていたが、すぐに納得した。


「まあ、ラクトならそれもありだな」


王は市井に広まった魔王の話を知っている。だから余計に側に居るファナを見て納得した。王にとってラクトは年下の友人であり、息子のような存在だ。納得できることが一つでもあればすぐに全てを受け入れる。


「生け贄になった少女は、ファナちゃんかな?」

「なっ、なぜそれを!?」


これにはラクトが逆に動揺する。ファナはチラリと目を向けただけだ。


因みに今回ファナは、流石にいつもの魔女っ子スタイルではない。きちんとドレスを着ていた。紅茶を飲む様子も優雅に見える。


「それだと、物凄く納得できると思ったのだ。なるほど……そういえばお前、昔からフレットのことを勇者と言っていたな。もしや……」


王太子であるフレット・ラクトフィール。彼のことを、ラクトは勇者と呼ぶ時があった。ただの揶揄としてフレット自身も受けていたが、王はまさかと察した。


ラクトは苦々しい表情で目を逸らす。


「……そうだ……あいつは、勇者の生まれ変わりだ……だから、あいつにファナはやらん。教会にまんまと騙されたあのバカ勇者は嫌いだ……」

「……そういうことか……」


ラクトも大人気ないと思っている。いつまでも過去を引きずるようで女々しいとも思う。だが、今も昔も、彼にファナを守る力はない。それだけでもう失格判定だ。


別に憎いとか思っているわけではない。だから排除行動を取ることはないし、話もする。彼も騙されていたのいうのは分かっているのだ。そこまで子どもではない。


「いや、だがなあ。ファナもいつまでも独り身というのはなあ。お前は兄だし、妻になどとは思っていないだろう?」

「っ、当たり前だ! だが、その辺の男にはやれん。せめてシルヴァと戦えるくらい勇敢でないと……」

「おいおい。神獣と戦えるくらいとは……どんな勇者だ……」


娘を嫁に出したくない父親の心境であるというのは王も理解できた。だが、せめてと言っている基準がおかし過ぎる。


そこで、呑気に隣で他人事のようにお茶を飲んでいるファナへ、王は声をかけた。


「ファナ嬢。ラクトはこう言っているが、結婚とかどうするんだ?」

「ん〜、別にしなくてもいいけど、するならテリアかな」

「ッ、誰だそれは!」


ラクトが飛び上がるように立ち上がって確認してくる。


「東の、ほら、王女様が嫁いでた国の王の庶子」

「っ、あいつかっ。でも、なんでっ……」


ファナの突然の告白にラクトが動揺するのは仕方がない。王も驚いたのだ。ファナは色恋などに全くというほど無関心だろうと感じられていたのだから。


「なんか、懐かしかったんだよね〜。多分、知ってる人の生まれ変わり」

「だっ、誰だ?」


ラクトは必死で自分の中の記憶を探る。だが、ファナと親しくしていた者の中に、ファナが特別気に入っている者はいない。特に懐いていたのはバルトロークやノバ、あとはイーリアスくらいだ。他は一律だった。特に嫌っていた者もいない。


「兄さんは会ってないよ」

「それは……あちらへ向かう前の知り合いってことか? なら、あの魔術師の女?」

「ううん。情報屋のマスター。教会の裏の情報部隊を作った人」

「なんだそれ」

「っ!! そ、そんな奴が、なんでいいんだ!?」


王はそんなものがあったなんて初めて聞くぞと目を丸くし、ラクトは泣きそうだった。


「最初は多分、もう生け贄を出さないために教会を監視するつもりで集まったんだと思う。あの人ならそうする」


そういう人だと思った。あの白いリボンは、行動に移すための覚悟の表れでもあったはずだ。


「それで、前の私の生まれた村の人たちを国から守るために接触して、村の人達も数人、賛同したんだと思う。あの村には、父さんの生徒が沢山居たから」


予想はできた。父を殺されて、憤りを感じた村人は多かっただろう。そして、父の教え子達は勇者となれる人が居たように、潜在能力は高かった。


「今回も、国が主導したといっても、教会が潰れて、新しくなるのが異様に早かった。多分、裏で動いてたんだと思う」

「そんなものが居るとは……」

「大丈夫だよ。きちんと統制は取れてるし、このままでももう自然消滅すると思う。彼らの目的は、あの教会を潰すことだったはずだから」


あのマスターが、その目的を見失なうような半端な組織は作らないだろう。あの白いリボンを忘れないのだから。


「まあ、接触してきたら連絡するよ。気にしないで」

「う、うむ……」


そろそろ、ファナの正体にも確信を持つ頃。きっと待っていれば接触してくる。


「それが終わったら……会いに行こうかな〜」

「ファナ……っ、ま、まだお嫁に行かないよな? ねえ?」

「どうだろう?」

「ファナぁぁぁ」

「ラクト……これで魔王とは……」


ファナに縋り付くラクトを見て、王は今までの魔王という存在の印象を心から否定したのだった。



読んでくださりありがとうございます◎


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