275 罰
2020. 11. 23
ラクトに殴られたことで気絶し、顔が腫れ上がっていたローア。
そのローアは自身の実験部屋にあった台に寝かされていた。
「っ!? な、なにが……っ!?」
「あ、気付いた?」
「なっ、なにっ、なんっ」
ローアは動かない腕や足、腰に気付く。
「そんな引っ張っても外れないのは、あなたが一番分かってるよね? コレ、あなたのでしょ?」
「こ、こんなっ、なんで!」
先ほどから全く言いたいことがまとまらないらしい。当然だろう。生まれて初めての危機なのだから。
現在、ローアは手足と腰を台についているベルトで拘束されているのだ。
そんなローアをファナが問題なく覗き込めるのは、この台の高さが低いからだ。使用者だったローアも少年と呼んでも良いくらいの背なのだから丁度良いのは当たり前だ。
きちんと拘束できていることを確認できたファナは、進めていた術の準備を続ける。
「殴られたのは覚えてる? その後、あの場にいた人たちを外に出して、治療をしたのね。まあ、助かったのは半分くらい。それで、教会のトップであるあなたがいかにふざけたことをしていたかってのを、外にいた神官? とか語り部達が知って茫然自失状態になってたよ」
この島に居た者たちは、ファナ達が地下に居る間に集まっており、そこでベラル大司教によってこの事態の説明を受けていた。
シルヴァ達が話が出来たことも大きい。そうして、九尾により天の神獣のことや、この場のことを聞き、大混乱していた所に、ラクト達によって連れてこられた人々を見た。ローアが何をしたのか。それを聞いて、間違っているのが誰なのかという判断が決した。
しかし、今まで信じていたことを覆すのだ。整理するのに少し時間がかかりそうだった。
「それで、今は全大陸に向けて発表をしている所。あなたがこんな場所を作るほどの異常者で良かったよ。間違いなく悪者っていうのがはっきりしたからね〜」
「っ……」
ただ一人の間違いようのない悪者が存在するというのは、とっても有り難かかった。
「さてと。それじゃあ、始めようかな」
「なっ、何をするつもりだ!」
力も使えないことを確認したらしいローアは、怯える様を見せぬように、必死で見栄を張っていた。
「別に大したことじゃないよ? あなたの大好きな影を作るだけ。ただし、ちょっとあなたがやってたのとは違うけどね?」
「な、何を言って……っ」
「それじゃあいくよ?」
そうして、ファナは術を発動させた。それにより、酷い痛みを感じるらしい。
「っ、あぁぁぁぁっ!!」
長い長い悲鳴が地下に響く。そうして、ローアが力声を涸らした頃。完了した。
「よしよし。できたね」
「……っ……っ……!」
満足げなファナの視線を何気なく追ったローアが見たのは、両隣にある同じ台に括り付けられた状態の二人のローアだった。
「つ、ぁっ、ぁっ!?」
「ふふふ。この二人はねえ、あなたの魂をきっちり三分の一っこして出来た影だよ♪ でも本体設定はしたんだ。感覚が繋がってるから、こっちの子達が痛い思いをすると、あなたも痛いの♪ ってのが仮説なんだけど……よし」
ファナは本体と同じように混乱して怯えている影の手を棒で叩いた。
「「イッ」」
「あ、痛い? そっちの子は反応しなかったね。なら今度はこっち」
同じようにもう一人の影の方でも確認すると、本体のローアも痛がった。これで間違いない。
「これでバッチリね。さてと、あなた達で何をするかというと、処刑ね」
「ショ……ケイ……」
「あ、しまった。精神保護しとかないとね」
精神崩壊が始まりだしていた。魂を分離させたことで起きるものだ。これでは罰を受ける前に廃人になってしまう。
「これでよし。喉も大丈夫にしたからね」
「っ……」
「ふふ。簡単にはもう壊れないよ。仮に、自身が死ぬほどの痛みと恐怖を感じても大丈夫なようにしたからね。きちんと反省しなよ?」
「ひっ」
ローアが感じたのは、スッと胸が冷えていく絶望感。そして、恐怖だ。改めてローアはファナを見た。
可愛らしいといえる容姿。キラキラと光る瞳。白い肌に紅い唇。それらはとても魅力的で、美しいものだ。だが、その瞳にはただ好奇心だけが煌めいている。この状況では有り得ない。
それが異常だとローアでもわかる。
「あ、あ、あっ……っ」
「ふふふ。魔女に喧嘩を売った感想はどう? そろそろ言えそう?」
「っ、ま、魔女っ……」
「そう。魔女だよ。正真正銘、魔女によって生み出された魔女。だから、諦めた方が良い。諦めて絶望を受け入れなよ。あなたにはもう、生まれ変わるという未来もない」
「っ……!」
カタカタと震える体。実験と称してここに縛り付けた者たちもそうだった。震える様子を笑い、それが止められないことに笑った。
そのことに気付いたのは、ファナが精神に保護を掛けたからだ。頭は冷静に動く。そして、正しく後悔を与える。
「この影二人が処刑されれば、あなたも間を置かずに死ぬよ。影は今、剥き出しの魂を抱えてる状態。死体をある程度の時間残さなきゃならないから、ちょっと特殊な状態なの。で、処刑と同時に魂は縮れ飛ぶことになる」
ゆっくりと、少し時間をかけてバラバラと崩れるように消えていく。恐怖を感じながら。
「痛さも怖さも感じながら、最後にあなたの魂が消えるよ。それで『この地を穢したことへの贖罪とする』ってさ」
「っ……」
「どう? 神にも見放された気分は」
「っ!!」
そんな言葉を残して、ファナは二人の影を転移させ、部屋から出て行く。
残されたローアは、せめて狂えるようにと声を上げて叫び、体を捻る。しかし、ファナのかけた術は強力で、最期まで狂うことはできなかった。
恐怖と絶望を胸に消えていったのだ。
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