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267 罰当たり

2020. 8. 3

島の大きさはそれほど大きくはない。きっと外周を歩いて回ったとしても五、六時間くらいだろう。


真ん中に向かって高くなっていく小山のような地形。その中央に教会本部であり、語り部達の代表が住む城があるはずだった。


「ねぇ、九尾。ここ? ここで合ってるの? 天の神獣が降りられる所なんてあった?」

《……俺もな……上から見てアレ? ってなったわ……天のが降りるためにあった神木を切やがった……》

「うわあ……やっちゃったねえ」


九尾が引いている。コレないわと。


城を囲むようにしてある集落からもいくつか煙が上がっており、住んでいた人々がバタバタと走り回っていたため、手っ取り早く一番被害の大きい場所に降り立っていた。それが、もはや残骸と化した城の前だ。


何かを感じ取ろうとするようにそこを見上げると、城の隣に特に荒れた大きな窪みがあるのが見て取れる。恐らく、そこに木があったのだろう。罰当たりにもほどがある。


「あれだね。もうさ、封印解いてやったら? 怒り狂ってここの奴ら消し炭にしてくれるんじゃない? 待ちに待った神さまに殺されるなら本望なんじゃない?」


やっちゃったらいいんじゃないかとファナは軽く提案する。これをイドが聞いていて、一人カタカタと震えていた。


「っ……そんな……っ、た、たしかに、お、大きな大木があったと……っ、まさかそれが……っ」


やはりあったらしい。


《それだな。あの木の上に降り立つ時だけ、天のが小さくなれんだよ。そんで、その木の下でじじいが昼寝したり、メシ食ったりしてさ》

「隠居のじいさん? 穏やかな暮らし振りだね。羨まし〜」


その時間が天の神獣には何よりも変えがたいものだったようだ。


「ん? そういえば、その人? 神さま? の家があったんじゃないの?」

《おう。だから、ここ。ここにあったはずなんだよ。平家のそんな大きくないが、一人住むのに不自由ない大きさの木で出来た家》

「っ……」


ファナは九尾と一緒にイドに目を向けた。真っ青だ。多分、ここにあった。壊して更地にして、ここに城を建てたのだろう。


城と言っても教会のかなり大きなものという印象のもの。王城とはまた違うが、真っ白な城だ。


「どうせ、こんな悪趣味なの建てるくらいだもん。平家の木造なんて『なんだこの貧相な家は。さっさと取り壊せ』とか言って壊したんでしょ」

「っ、なぜお分かりに!?」


彼の祖父がその時のことを教えてくれていたらしい。さすが語り部達の総本山。しっかり伝わっている。


「うわ、マジで? 嫌なやつしか居なさそ〜。何人ここに居たかな? まだ数人は瀕死のが居るみたいだけど」

「えっ、い、生き残りが!? た、助けなければ!」


イドが慌て出す。


「まあ、まあ、落ち着いて。そんなら、まずは城の解体から〜」


ファナは一瞬で残っていた瓦礫の山を全て砂に変えた。


《後は我に任せろ》

「ん〜、シルヴァお願い」



ウォォォォン



空に向かって吠えたシルヴァ。砂を竜巻で巻き上げ、それらをまとめて離れた所に砂の山を作る。絶妙な力加減で、人だけはその場に残されていた。


「とりあえず、怪我してんのもいるし、砂で汚れてるから洗うかな」


ジャバジャバと、怪我人であろが、瀕死の重症人であろが構わず水で洗浄。その間、ラクトは何かを探しているようだった。一緒に探しものをしていたバルドが声を上げる。


「おい。ここに地下への階段があるぞ」


覗き込む。嫌な感じはとってもする。イドは怪我をしている者たちの治療を焦ってしている。ファナ達は手伝う気なしだ。降り立ってから周りを見廻して動かずにいる奏楽詩人の男を手招く。


「セルク〜。どんな感じがするか見てくれない? 相方さん居そう?」

「相方さんって……」


ついてきたシィルが呆れていた。


「だって、もう本体と影じゃないじゃん。セルクって名前も付けたし」

「まあ、そうだけど……」


奏楽詩人の男は影であり、名を持たなかった。だが、個として存在が安定したことで、影ではなくなったのだ。ならば名を付けてもっと確かに固定してしまえと提案した。


因みに名を付けたのはシィルだった。


「心配性だなぁ、名付け親さんは」

「くっ……」


これにシィルはとっても恥ずかしがる。だが、悪い気がしていないのは確かなのだろう。ファナがシィルをからかって遊んでいる内に、セルクは階段を覗き込んで頷いた。


「居ります」

「……意外と少ないな。下で生きているのは二十三人だな」

「それ、生きてねえのも居るってことか?」

「正確には影が何人かいる。この場所が問題かもしれんな」

「はあ?」


バルドが思わず声を上げる。影という存在は、そうそう生まれるものではないということは、しっかり言い聞かせていたのだ。


「そういう人たちを集めてたとか?」

「……あるかもしれないな……」


またも面倒なことをしていそうだ。


それはともかくとして、ファナ達はシルヴァとドランをイドと外の見張りに残し、階段を降りていった。



読んでくださりありがとうございます◎

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