262 新たな神獣として
2020. 5. 25
魔女の知識から言えば金色のユニコーンだ。淡い光を纏っている。
「……派手だね」
《確かに……派手だな……目がチカチカすんぜ》
「これ、生き物としてどうなの? 隠れるとか出来ないじゃん。そんな強いとか?」
《いや、この引き篭りは俺らよか弱いぞ》
「ダメじゃん」
《ダメだな》
そんな話を、本人の目の前で繰り広げる。ひと角は、いじけ出す。
《そ、そんなこと言われても……っ》
「え? 抑えることとかも出来ないの? 上から鳥とかに襲われない?」
《……あ、外に出ると突かれる時あるのって……》
「目立ってるからでしょ。鳥って、キラキラしたやつ好きなのとかいるから」
《そ、そうだったんだ……》
話を聞いてみると、時折は外に出ることもしないとダメだと考え、森から出ていたらしい。そうすると、やたらと獣に襲われたり、鳥に突かれたりしたという。完全に獲物認定されている。そうして、泣きながら帰ってきてまたしばらく引きこもるという生活を続けていた。
「シルヴァは子猫姿でも反撃できるからな〜。あれは目立っても絶対の自信っていうか」
《あ〜、アイツはそれっぽいな。昔っから戦闘狂の気があっから》
「やっぱり?」
神獣達の中でも有名らしい。確かに、出会った頃はモロにそんな感じだった。まるで懐かないネコだったのだ。最近はファナの突拍子のない行動のせいで、すっかり世話好きなおじさんでしかない。
「でも、逃げ帰ってこれるだけの力は出せてるんだね」
唐突にひと角へ話を振る。
《ほんとだ……お前さん、意外とやるのか?》
《え? えっと、特別な空間があって、そこに逃げ込んでるの》
「ん? 特別な空間?」
ファナはひと角の様子から、これは自分の能力を理解できてないなと思い、九尾に顔を向ける。
《そういや、アレだ。こいつは、空間転移が得意でな。特別な自分だけの空間を持ってんだよ》
「っ、それどうやんの!? 師匠も持ってたんだよ! そういう部屋! 教えて、教えて!」
《え? えっ?》
《これは……教えんと治らんぞ》
《えぇぇぇぇっ!!》
それからファナは、とにかくひと角に付き纏った。半日もすると、一応は転移を使えるファナだコツを掴み、空間に逃げ込もうとするひと角を追うことまで出来るようになった。
そして、二日目の昼前。ついに出来た。
「よっしゃぁぁぁ! 引き篭り部屋ゲットぉぉぉ!!」
《……すごいすごい……ううっ……怖かった……》
《よく頑張ったな……白銀の。心から尊敬するぞ……》
《……主よ……他人へ迷惑をかけてはいかんとあれほど……》
「え〜。いいじゃん」
《主!》
「ふわ〜い」
シルヴァからしばらくお説教をもらっても、ファナはちっとも反省していなかった。
ただ、このファナのお陰で、ひと角は外があまり怖くなくなっていた。本当に怖いのは、逃げても追ってくる。引き篭もっても追ってくるのだから。
そうすると、そんなひと角の中で変化が起きた。その変化は、自ら近付いてきた。気付いたのは九尾だった。
《お? 影か》
そこに、ひと角の影が現れた。黒よりも深い青だろうか。とても綺麗なユニコーンだった。
「あ、影だ! 影さん、影さんっ。名前はあるの?」
《はっ! 藍との名を主よりいただいております》
「おおっ。カッコいい! ってか、本当にあの子の影?」
《はい……申し訳ございません》
影であることを認め、その存在が間違っていると思っているのだろう。藍は寂しそうに目を伏せた。
「なんで謝るの? いいじゃん。神獣なら特に影とか関係ないよ。見たところ、これはもう新たな神獣って位置になってる」
《……え?》
《マジだわ……すげえな》
《なるほど……そういうこともあるか……我らは分かれたものだ。影の存在と在り方は同じか》
ひと角も、九尾も、シルヴァも驚きながら影を見た。
「よかったね。これであなたは確かな一つの存在。おめでとう……」
そこで、ファナに変化が起きた。口調が、雰囲気が変わったのだ。
「『新しい神獣の誕生を歓迎します。我が子らに祝福を』……ん? アレ? 私、何か言った?」
《《《《……うん……》》》》
「ん?」
ファナは首を傾げるしかなかった。
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