261 元父母はあの人で
2020. 5. 11
ここで話すのもなんだしととりあえずリナーティスの家に戻ることにした。
《んっじゃ、いくぞー》
「おおー!」
神獣である九尾が、転移してくれるというのでお願いすることにした。
《ってか、嬢ちゃんも使えるんじゃねえの?》
「ん? まあ、条件付きならねー。あの家になら行けなくもないかな。けどめんどい」
《めんどいって……どんな条件だ?》
「ん? 神獣の近くにしか飛べないの。神獣って、存在自体が特殊でしょ? だから目印にしやすいんだ」
転移の術は魔女に教えられていた。その場所を確実にイメージできないとダメで、ファナはとっても苦手だった。
綺麗だなとか思う場所ならまだしも、場所を記憶するのが苦手なのだ。ファナは魔術が使えなければ、普通に町で道に迷う。
《ふ〜ん。っと言っている間に到ちゃーく!》
家の目の前だった。
「ほ、本当に家だ……」
「へえ。ここが師匠の家ですかあ」
お邪魔しますと言って、師匠である男と一緒に入っていく。
残されたのは、少女になった元教会の関係者。彼女達は、ファナにはもう助けてもらえないと思っており、ターゲットをシルヴァに変えた。
《おい。お前達、そんな目で見るな。主よ。あやつらの捨てられた子犬のような目はどうにかならんか?》
「潰す?」
「ひっ」
《……主は本当に……こう、子どもを可愛く思う心とかないのか?》
《嬢ちゃん。さすがに俺もどうかと思うぞ?》
なぜか責められた。不満一杯な表情で少女達に目を向ける。
「だって、元はアレだよ? 今までの行いを振り返ってみろってえの。可愛がられる要素ある?」
「っ……ごめんなさい……っ」
「ゆるしてください!」
「申し訳ありませんでした!」
地面に座り込んで頭を下げる。これは土下座というやつだなと呑気に考えた。
「謝って済むかなあ? ってか、行いが間違ってたって認めるんだ? 何したの?」
「っ……そ、それは……」
頭を上げることなく、どもる少女を見下ろす。すると、そこにバルドとラクトが出てきた。
「ふむ。これはアレか? また子どもにしたのか」
ラクトは正確に状況を推察した。
「そう。あ、先に九尾と話するから、この子達任せていい? 今なら色々情報出るかも」
「九尾……お前か」
《なんだよ、久しぶりに会うのにその態度。主は冷たいなあ》
「いや……お前、熱烈なのとか嫌いだろ」
《まあな〜♪ 特に主が熱烈にとか引くわー》
お互い分かっているらしい。
「ちょっとあの辺で話してくるから、いい?」
「分かった。お前達。知っていることを吐いてもらうぞ」
「は、はいっ」
「あ、女の子になってるけど、元はむさいおっさんとか兄ちゃんだからね?」
「……マジか……騙された」
「……きりきり吐けよ?」
「っ……はい……」
態度が変わったのを見て、少女達は絶望した。元成人男性と少女では態度が変わるのは当然だ。
シルヴァも見ているというので、ファナは九尾と森の側まで来て話を始めた。
「で? 私が魔女の……師匠の娘っていうのは本当?」
《おう。間違いねえよ。親子関係よりも分かりやすいぜ》
「そっか……でも思い出してみると、前のお父さん……お母さんのこと、キサって言ってたんだよね……そっか….…」
あやふやだった子どもの頃の記憶も蘇ってくる。
「……そうだ……お母さんは異界の魔女だって……お父さん……」
《お、なんか思い出したか》
「うん。ありがと。あ〜……お父さんに会いたいな……」
《ん? 生まれ変わってんじゃねえの? そうだなあ……魔女が頼れって言われた人とか居らんかったか?》
「……オズじいちゃんなら」
《ほうほう》
九尾はじっとファナを見る。ファナの内側を見るようだ。その感覚は外れではなかったらしい。
《おっ、正解っぽいぞ? また珍しい種族の血を引いてるなあ。そいつが元父親で間違いねえよ》
「……マジか……ありがと」
なんでもお見通しらしい。記憶の中の人物を探ったのだという。神獣はすごい。
そんな話をしていれば、何か眩しいものが目の端に映った。
「ん? 金色?」
《お、出てきたか引きこもりめ》
《……誰?》
それは、長い角のある金色の馬。この森に棲む神獣だった。
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