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254 お姉さんがお母さん?

2020. 2. 3

大陸の遥か上空を飛び、ラクトの案内で、こんもりとした森のある場所を見つけた。


「あそこがクスラ。職人の多い町だ。あの森の横にある家が森番のノバの生家になる」


今世でノークと名乗り、ファナの弟子となった人の前世の生家。少しばかり複雑だ。


「やっぱり、ノークを連れてくるべきだった?」

「まあ、きちんと様子を見てからにしよう」


さすがにドランが降りるのは騒ぎになりそうなので、少々上の方から飛び降りることにした。


「ほら、バルド降りるよ」

「お、おう」


ファナが魔術によって助けてくれるので、落ちるわけではない。だが、勇気がいるのには変わらない。


「そろそろ慣れてきたんじゃないの?」

「一回や二回で慣れるわけねえだろ!」

「はいはい。そう言ってる内に到着♪」


無事、地面に降り立ったが、恐いものは怖い。


ラクトも隣に着地し、シルヴァもトンと軽やかに降り立つ。そして、その上に小さくなったドランがボテッと落ちてきていた。


《しゃ〜》

《さすがに疲れたか。寝るなら落ちぬようにな》

《しゃしゃ〜……》


寝たようだ。シルヴァは本来の姿になり、幅を確保してやる。そんなシルヴァの背中の毛を咥え、ドランは落ちないように自身を固定していた。交代で咥えるらしい。ほとんど毛に埋もれているので、そうそう落ちはしないはずだ。


ファナはふとそこで呼ばれたような気がして森の方へ目を向ける。中から感じるのはシルヴァによく似た気配。


「もしかして、あの森に神獣がいる?」

《金のだろう。ひと角とも言うか。魔女殿が言っていたのは一角獣、ユニコーンだったはずだ》

「へぇ! ユニコーンかあっ。綺麗なんだろうなあ」

《派手だな》

「まあ、派手だ」


ラクトまで同意していたので、期待できる。


そうして、ラクトは森番の家に向かった。ドアをノックすると、中から出てきたのは眠そうな表情の綺麗な顔の三十代頃に見える青年だった。


「……王様?」

「ああ……そういえば、この前来た時はお前は寝ていたな……キィラだったか」

「ん。会いたかった」


素直に告げるキィラという青年は、可愛く見えた。


「そうか。リナーティスは地下か?」

「ううん。シィル兄さんのとこ……」

「まだ具合が悪いのか?」

「ん……ちょっと前から寝たまま……」


こいこいと手招かれ入っていくラクト。それに続いてファナとバルド、シルヴァも入っていく。そこでキィラが振り向いた。


「……バル兄さん?」

「ん? あ〜……そうらしいな」


バルドが気まずげに、顔を顰めていた。


「そう……お帰りなさい」

「え、あ、ああ……」


ちょっと調子が狂う。


「それで……そっちの子……王女様?」

「よくわかるな。そうだ。娘だったファルナだ。今は妹のファナだがな」

「よろしくね」

「よろしく……うん。なんか……魔女さんに……」


魔女と聞こえたように思ったが、はっきりとは聞き取れなかったため、追及することはできなかった。


後について行けば、その部屋には少女とベッドで眠る少年がいた。


「リナーティス」

「あらぁ? まあ、来てたのね? 預かった子なら、地下にいるわよ?」

「そうか……キィラはどうした?」


眠っている少年はキィラ。その少年の頭をリナーティスと呼ばれた少女が撫でる。


「起きないのよ……三日前くらいから」

「お姉さん。私が診ても良い?」


ファナがラクトの後ろから顔を出す。眠っている少年の状態がとても気になったいたのだ。


「あなた……?」

「私はファナ。渡りの魔女の弟子だよ」

「魔女様の? そう……なら、診てくれる?」


許可は出たので、ファナは遠慮なく彼に近付いた。そして、じっと見つめること数秒。うんうんと頷いた。


「この子の影が弱ってるね。長く離れすぎだよ。距離的にも無茶してたんだろうね」

「影……?」

「うん。稀に居るんだってね。精神が乖離しやすい子。神獣とか、強い力を持つのが側に居たりするとね。影響を受けやすい子っているから」


当たり前のように話すファナ。それを驚いたように一同は見つめる。だが、ファナはシィルに注目していた。


「まだ糸は切れてないね。なら……」


ファナは魔術を行使する。シィルの腹の辺りに魔法陣が現れ、淡く光って固定される。


「これで応急処置は出来たから、当分は大丈夫。早く影を捕まえてこよう。とりあえず連れてこれば、あとは何とかなるよ」

「……えっと……? シィルは大丈夫なの?」

「うん。このまま寝かせておいて。三日くらいならまだ衰弱とか心配ないし。今からこの子の影を連れてくる。夜までには戻るね。兄さんはここでの用事済ませといて」

「一人で行くのか?」

「シルヴァと行くよ。ドランは見てて。バルドお願い」

「あ、ああ」


ドランをヒョイっと持ち上げる。安定していたからか、いつの間にか毛を咥えることもやめていたらしい。そのまま自然に差し出していたバルドの手に乗せた。


「……かわいい……なに、この子」


キィラが珍しげにドランを見つめる。


「ドランって言うの。異世界のドラゴンなんだ。かわいいよね」

「うん。かわいい」


ほのぼのとドランを見つめるキィラも居るので、預けておいても問題はなさそうだ。だが、キィラは顔を上げて告げた。


「僕も行ってもいい? シィル兄さんを助けたいんだ」

「別にいいけど。ん? 兄さん?」

「うん。兄さんだよ」


驚くファナに構わず、キィラはリナーティスへも声をかけた。


「母さん。僕、行ってくる」

「そう……分かったわ。気を付けてね?」

「うん」


行く気満々だ。準備して来ると言って部屋を出て行くキィラ。そこで気付いた。


「え? は? 母さん? 母さんって、母さん?」


混乱するファナに、ラクトが苦笑する。


「若く見えるが、間違いなくキィラやシィルだけでなく、リナーティスはノバの母親だ」

「はい?」


最後まで納得できなかった。




読んでくださりありがとうございます◎

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