253 色々と仕掛けがあります
2020. 1. 20
ファナはドランに乗り、小さくなったシルヴァとラクト、バルドをお供に小さな船を追っていた。
「これ、めちゃくちゃ時間かかるね」
既に飽きてきたファナだ。
「小さい船だしな。ドランのようにひとっ飛びというわけにはいかんだろ」
そう言うバルドもかなりダレてきている。
「今日中に着くかな?」
「難しいかもしれん」
ラクトも顔を顰めて小さく首を横に振った。
「う〜ん……なら、使い魔で後を追わせるよ。その間に、魔族の国ってのを見てみたい」
「……構わないが……」
渋い顔をしたラクトに、ファナはニヤリと笑った。
「兄さんは、お嫁さん達のこと、気にしてんでしょ」
「っ、なぜわかる!? はっ、これが兄妹愛の為せる技だな!?」
「違うと思う」
「……」
バッサリ切れば、ラクトは落ち込んだ。
「そういえば、神官さん一人預けてたよね? どこにいるの?」
「あちらの大陸の、少々変わった薬師のところだ……」
「なら、そこに行こうよ。ちなみに、その薬師さんって、兄さんのお嫁さんの一人だったりする?」
「いや、ノバの母親だ」
「それってノークの……?」
ノバとは、ファナの弟子となった薬師ノークの前世での名前だと聞いている。複雑な何かを噛みしめるように表情を暗くしたラクトを気にせず、ファナは呑気だった。
「へえっ。なら、ノークは薬師に成るべくしてなったんだねっ」
「あ、うん? そ、そうかもしれん……あの頃は薬師などやっていなかったが、才能はあったのかもしれんな」
そう思うと、確かに成るべくしてなったのだと感じられた。
「じゃあ、そのお母さんに会ってこよう!」
そのままドランに方向を指示し、東の大陸へと向かった。
「あの辺、渦巻いてる」
のんびりと、時折下にある海を見ながら進む。
「船で越えるの難しくない?」
「そうだな。だが、何日かに一度、あの渦が弱まる時があるらしい。そこを狙って越えていたと記録を見たことがある」
かつてのラクト、ランドクィールが魔王になる前、人族の国に報復のために、この海を越えたことがあった。その航海記録を読んだことがあったのだ。
「それを待ってなきゃならないのは面倒だよ〜。ん? あれ?」
《どうされた?》
「う〜ん。うん。なんでもない」
ファナは少し既視感を覚えたのだ。まるで、そこを舟に乗って漂っているような気がした。
一瞬目が合ったのは、ラクトとだ。きっと気付いた。ファナも、それが過去のラクトの言う前世の記憶のような気がしている。だが、それを口にすることはしなかった。過去は過去なのだから。
「それで、あっちに見えてるのがそうだよね? ん?」
地平線の辺りに、大陸が見えたのだ。だが、その大陸を見て目を細める。
「なんか光ってない?」
大陸を囲むような光の壁がファナの目には微かに見えていたのだ。
「どこがだ?」
しかし、バルドには見えていないらしい。
「あれは、私の術だ。あの大陸に、二度と人族が来ないようにな」
ランドクィールが死の間際に発動させた国を守るための術だった。その手前で、波が逆に向かっている場所があるように見える。それも作られたものに感じられた。
同じ場所を、ラクトも見つめて頷いた。
「あの波は、大陸にいる神獣のものだ。流れ着く舟を追い返す用らしい……」
「ふぅ〜ん」
ラクトとしては感知していなかったのだろう。これは恐らく、ラクトのためのものだ。彼が気に病まなくてもいいように。
「このまま行っても大丈夫?」
「ああ。上からは通れるから、問題ない」
こうして、ファナ達は魔族の住む大陸へと辿り着いたのだ。
読んでくださりありがとうございます◎