252 許可取りました
2020. 1. 6
ファナは、一応は尋問が終わったという神官達五人を前にふふふと機嫌良く笑っていた。
「そんじゃ、いっきま〜す!」
「「「「「っ!?」」」」」
神官達は、ファナが何者なのか知らなかったらしい。なんでこんな子どもがという顔をしていた。いつもならば、神官らしく表情を表に出さなかっただろう。だが、捕まったことで余裕がない。
そんな所に説明もなく連れてこられた小部屋。連れてきた兵達も外に出てしまった。取り残された彼らの目の前には、煌びやかな椅子に足を組んで腰掛ける少女一人。意味が分からないだろう。
そして、混乱する中、ファナは楽しげに立ち上がって術を行使した。
視界が黒く染まったかと思えば、次の瞬間には視線の高さが低くなっているのだ。神官達の思考は停止した。
そんな彼らの前で、ファナは満足気だ。
「あ、やっぱりこの術式の方が楽かもっ。いいねぇ。それじゃあ説明しようかな?」
ニコニコと子どもに話すように説明を始めるファナ。未だに神官達は自分たちの身に起こったことを把握できずにいた。しかし、それも数分のこと。聞かされたのは二つ。
「時間を固定したから今の姿から年は取らないんだ♪ 不老って夢なんでしょっ? どう? 嬉しいっ? 精神も体に合わせて若返るからね♪ 永遠の五歳児! クリスタが喜ぶよ〜♪」
「「「「「……っ!?」」」」」
まさかと思いながら、彼らはようやく自分たちが子どもの姿になっていることに気付いた。他の者達をそれぞれ見て、へたり込む。
「あらら。どうしたの? 大丈夫だよ? ほら、若返りたいって女性の夢でしょ? 男の子は子どもになれば女の人に甘えても問題ないし、幸せでしょ?」
「「「「「……」」」」」
茫然自失となって固まってしまったので、ファナは外の兵を呼んだ。
「この子達、どっか部屋に連れてって。尋問ってか、事情聴取? するならしてもいいと思うよ。今ならきっと素直な良い子になってるから♪」
「え……」
こちらも数秒固まったが、さすがはラクトをもやり込められる王のいる王城勤務の兵だ。なんで子どもがとか動揺しない。そういうことかと切り替えも早いのだ。戸惑いながらも子どもとなった五人を連れ出して行った。
「他のも数人ずつ連れてきてね〜」
「はっ!」
ちょっと怯えたようにも見えたが、良しとする。そうして一時間ほどで全ての捕縛されていた教会関係者は子どもになった。
やり切ったと満足気なファナ。落ち着くまで預かっておいてねと言って城から帰ろうとしたのだが、王様に捕まった。
「アレはどうなっているのだ?」
「どうって? 見たまんまだよ。もう寿命が尽きるまでずっとあのまま」
「……そうか……」
一気にどうでも良くなったようだ。とりあえず納得するという荒業に出た。そんな王の前でお茶を出されている手前、これだけの説明で帰るのはもったいない。何よりお茶が美味しかった。堪能しない手はない。勝手に話すことにする。
「子どもの姿にするのが成功したから、今度は固定してみたの。師匠は若い姿のままだったし、できたらいいなって。今度は二十才くらいで固定できないかとかやってみようとは思ってるんだけど、良い感じの被験体がいなくって」
「……そ、そういう実験は良くやるのかな?」
「最近は忙しくて出来なかったけどね〜。盗賊とか使ってはやってた。ダメ?」
「ダメと言いたい……」
「そうなの? じゃあどうすればいいの?」
「……ラクトに相談しなさい」
「は〜い」
王は答えを避けた。とはいえ、ファナの言葉はなんでも肯定、推奨してしまうのが兄馬鹿のラクトだ。この選択は許可したも同然。まだラクトの兄馬鹿加減を理解しきっていなかったようだ。それに気付くのは少し後になる。
「あ、あの子達、尋問とか終わって用済みになったらもらいに来るね。クリスタへのプレゼントなの」
「クリスタ……あ、東の神獣様だったか……まさか生贄か?」
不安そうな顔で問いかけてきた。なるほど。クリスタのことを知らなければ、そう考えるのも無理はないかもしれない。
「生贄って……シルヴァもクリスタもボライアークも人を食べたりしないよ? 寧ろ、生贄が欲しいのは師匠とか私」
「そうだった……さっきのそういう話だった……」
頭を抱えた王に構わず続ける。
「クリスタって、人が好きなんだよ。特に子どもが好きみたいで、母親みたくちゃんと可愛がってくれるよ?」
「……素晴らしい御仁のようだな……」
「うん。うちのドランが一発で懐くくらいだからね。でさ、とりあえず、泳がせてる奴いるじゃん? そいつらそろそろ追って行くことになるけど、王様どうする?」
「どうするとは?」
「後付けさせてるんでしょ? でも、あいつら多分、海に出るよ?」
ファナ達はもう、どこに向かうか分かっているのだ。とはいえ、場所の特定はしていない。確実性を取るために、泳がせて一応はそのアジトに案内させる気ではいるが、彼らをどうしたいのかを問うている。
「……国としては、許せるものではないが、どの国が押さえるかというのはまた難しくなるな……それも海となると……今はどの国も船など持っていないか……」
「そうでしょ? だから、私達で乗り込んでいくから、王様達はどう落とし前を付けるか話し合っておいてくれる? 全員縛り上げて連れてくるからさ」
「わかった。任せるとしよう」
許可を得たこともそうだが、何より、これで邪魔者はいなくなった。
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