250 お掃除完了です
2019. 12. 9
王とバルドが貴族達を上手く操ろうとしている間、ファナはシルヴァとドランを連れて、城の屋根の上にいた。
のんびりと日向ぼっこをしていたファナは、集められた貴族達が駆け出してくるのを確認すると、くくくっと笑う。
「上手くやったみたいだねえ。さてと……おじちゃん達のお手並み拝見といこうか」
貴族と呼ぶのも嫌で、おじちゃん呼びだ。八人の貴族の中で、二人はお兄さんと呼べる年齢なのだが、そんなことは気にしていない。
《ここで見張られるのか?》
「うん。ここからならすぐに移動できるし、下からは見えないからね」
《だが、いくらなんでも遠過ぎるだろう。あれらは王都も出て行くのだぞ?》
「大丈夫だよ! 使い魔をつけたからね」
そう言って見せたのは蜘蛛のような姿のもの。大きさは両手で輪を作ったくらい。ようなというのは、足が四本しかないからだ。その上、それぞれの足の関節には、蜻蛉のような羽根が一対ずつ生えており、四対の羽根があるという奇妙すぎる姿をしている。
《な、なんだこの気持ちの悪い魔物は……》
《キシャ! キシャシャシャっ》
シルヴァやドランでさえも気持ち悪いと言う。確かに奇怪なものに見えるだろう。
「これは師匠が……なんて言ったっけ……ドロボ? えっと、ドロン? 家にあるメモにはちゃんと書いてあったと思うけど、まあ、そんな名前の偵察用の使い魔だよ」
きっと、ユウヤなら分かるだろう。メモになかったら聞いてみようと、一人頷く。
「それでね。これはこうやって使うんだ」
それが飛んで行くのを見送り、手元に用意した水晶を覗き込む。すると、そこには真上から見た王都の様子が見える。馬や馬車で駆けていく貴族達の様子も見ることができた。
《なんとっ。なるほど……目を持たせておるのか》
《シャ〜♪》
「すごいでしょ? ちゃんと隠蔽もできるし、羽ばたく音もすごく小さいから、気付かれることもないよ。大きさも小さめだしね。建物の中もいけるんだ〜♪」
ファナは同じ物を幾つも鞄から取り出した。先ほどの一匹と合わせて合計十六匹の使い魔を用意しており、それらが一斉に羽ばたくとそのままヒュンという勢いで貴族達を追っていった。一人につき二匹がついていく。
《そこまでできる使い魔などおらんぞ……あ、いや……あのトカゲならできるか……》
「あの子ができたから完成したんだよ」
《なるほど》
それなりに意識を持たせることにも成功した。これにより、監視対象に気付かれることは先ずなくなり、更に、考えて行動するため、臨機応変に状況に対応することもできるようになった。
《だが、あれだけの数の目を確認するのにその水晶だけでは無理があるのではないか?》
「ふっふっふぅ。こうすればいいのだよ」
ファナが水の玉を十六個、空中に用意する。そして、水晶に魔力を注ぐと、その水の玉に向かって十六の光の筋が放たれる。これにより、水の玉が鏡のようにそこに映像を映し出した。
《ほぉ》
「どうよ」
《これはすごい》
「でしょ? あとは、場所がしっかり把握できれば文句ないんだけどね〜。まあ、そこは追い追いってことで、そろそろ、一番近いのが教会に入るね」
《うむ。行くか》
ファナは影の中から久し振りに愛用の杖を出す。そして、それに乗り飛び立った。シルヴァとドランも器用に杖の上に乗っている。
「行くよ、落ちないでね」
《問題ない》
《シャ!》
そうして、教会の屋根に降り立った。この教会に向かった使い魔の映像を見る。すると、貴族は連れてきた護衛達に司教を捕らえるようにと命令していた。
「うわあ、本当に、貴族って手のひら返すの早いよね。そりゃあ、司教さんも怒るわ」
中では乱闘騒ぎになっていた。
《我が行こう》
「えっ、でも……」
《西のに手を出したということは、我に手を出したも同然。灸を据えるのに問題なかろう》
「まあ、そうだね。本来の姿で行ってね」
《無論だ》
シルヴァが窓からするりと入りこみ、そこで本来の姿に変わる。これにより、司教達は腰を抜かして茫然自失となった。彼らは正しくシルヴァが何者かわかったのだ。貴族達はその隙を突いて彼らを捕えることに成功したのだ。
貴族達は、自身の身を守ろうとする判断が早い。シルヴァが司教達の方を威嚇していると知るとすぐに動いたのだ。
「あいつら、こういう判断だけは正確だよね〜」
《シャ〜》
ファナは屋根の上でそれらの様子を頬杖をついて見ていた。
同じようにこの国の他の教会でも司教達を捕え、数日で全ての教会の中を改めたのだ。
そして、そこから大陸の西側にある教会の全てを押さえるのにそう時間はかからなかった。
王達が一丸となって教会を排除していったのだ。それを側から見ていたバルドは引いている。
「一週間ちょっとで全滅させるとか、マジかよ……」
《案外、呆気なかったな》
「ふふんっ。これでこっち側は綺麗になったね。ついでに大元のアジトも判明したよ」
《まさか、この大陸内にいないとはな》
そう。教会の大元となる語り部達の根城は、海の上だったのだ。
《かつての天翼族の落ちた大陸があるとは……》
「兄さんに報告してから行かないと、あとで煩そう」
「だな。それに、船はどうす…….あ、いや、飛べたな……」
「ドランがいるからねえ」
《キシャシャシャ!》
船など必要ないだろう。
それから、全てが終わったと協力してくれた王に報告に行くと、お礼と同時にとある噂を教えてくれた。
「兄をあのような体にした者も分かりました。ありがとうございます。それと、これは噂なのですが……神獣様と魔女様を崇める新しい教会ができるようです」
「……はい?」
《む?》
どうやら、全く関係のなかった教会の関係者達が、捕り物の時にシルヴァの姿や空を飛ぶファナを見ていたらしい。
「教会内でも、上の考え方に納得ができなかった者達がいたようですね。何も害のない神獣様を倒して得る未来に何があるのかと思っていたようです。それよりも、伝説になる魔女様や、大地を蘇らせてくれた神獣様への感謝をと考えたのです。何より、怪しげな事をしていた上の方たちを捕らえられたというのが、彼らには嬉しかったようですね」
人々の幸せを祈るために教会に入った者達は、狂信的に何かを信じている上の者達が異様に映っていたのだろう。
お陰で、純粋に人々の安寧を祈る者達だけが残されたらしい。
「新しい教会として、残された者達が運営していくと報告がありました。それもこれも、魔女様方のお陰です。この度はご尽力いただきありがとうございます」
「えっと……うん。まあ、良かった……かな?」
《胡散臭い者達が消えたのならばよかったであろう》
「はい」
この言葉が、新しい教会を認めることになったのだと知るのは、完全に『大陸新教』が根付いた後だった。
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一週空きます。
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