249 王のお芝居
2019. 11. 25
王の前には八人の貴族が並んでいた。
「なぜ呼ばれたか分からぬか」
「分かりかねます」
はっきりと告げるのは、この中で最も位が高い侯爵だ。上位の者が絡まなければ、王を謀ることなど出来なかっただろう。それが分かるからこそ、関与の覚悟はしていた。
「お前たちは熱心な教徒だと聞いている」
「それが何か問題でも?」
警戒はしているのだろう。何を言われるか、呼ばれた者たちの関係から予想はできているように見える。
「数年前、この西の地に眠る神獣を倒すべきと声高に唱えたのはお前たちだ。どこからそうすべきとの考えを得た」
「……どこでしたでしょうか。噂で聞いたのかもしれません。なにぶん、年月が経っておりますので、当時を思い出すのは難しいかと……わたくしも年でしょう」
誤魔化す気満々ということだ。
「教会で聞いたのではないと? あれらは、この大陸に住まう三体の神獣を倒そうとしているという。関係がないと思うか?」
「なるほど。思い出しました。そうです。教会で聞きました」
都合の良い頭だと呆れるしかない。王は表情に出さないよう気を付ける。
「そうか……それで? その情報を前王へ告げたはずだが、他に教会から指示はなかったか?」
「……特に何も……」
「ほぉ……教会から指示を与えられる関係であったのだな」
「っ、そのようなことはございません。言葉の綾でございます」
「では、これは何だ?」
王が指示を出し、側に控えていた男の持っていた書類を示させる。因みに、この男は騎士の制服を着たバルドだ。
示された書類を見て、それが何かを理解するにつれ、男たちは次第に青ざめる。
「それぞれの家人に頼み、探してもらった。下に押されているのは教会の司教の印だな。取り引きの誓約書だ。大事に取っておくしかなかったのだろう? 私が見たところ、内容に謀叛を企てるものがあったが、言葉通りに受け取って良いものか。確認したいのだが?」
「っ……こ、これは……」
「なに、そう構える必要はない。お前たちが私に忠誠を誓っていることは理解している。兄は困ったお方だった……民たちのためにも排そうと思ったとしても不思議ではない」
「そ、そうです。わたくし共は、民の……陛下のため、司教殿と相談をしていたのです」
「なるほど……うむ。分からぬことではない。国のことで、心配をかけたようだ」
「滅相もありません! これも全て、この国のためを思えばこそ!」
上手くひっくり返ったらしい。ならばと王は悲しげに眉を寄せて見せた。
「とはいえ、前王への反逆を示したことは問題だ……そこで、罪を相殺する一つとして、仕事を頼みたい」
「はっ、何でございましょう」
従順を示す貴族たちを見て、バルドは一人笑いを堪えていた。内心では王もだが、それを表に出さないように必死だ。早くこんな三文芝居は終えてしまおうと畳み掛ける。
「教会の考えは、この国だけではなく、この大陸全ての者をも巻き込むものだ。それも悪い方にな……よって、まずはこの国から教会を締め出す。何より、お前たちに妄言を植え付けた罪がある。兵を上げ、教会を押さえよ。誰一人として逃すことは許さん。ただし、殺してはならんぞ」
「はっ!」
貴族達にすぐに行動に移るようにと退出させる。そして、王は息をついた。
「お見事でした」
バルドの労いの言葉に、王は嬉しそうに破顔する。
「なんとか上手く行って良うございました」
「この後の動きについてはファナも見張っております。こちらの心配は無用です。お休みください」
「ええ。ですが、休んでもいられません。あれらの罪も軽減はさせますが、罪は罪です。その対応もあります。それと、魔女様の期待は、他国への繋ぎでしたでしょう」
「それはそうですが……いえ、申し訳ない」
「いえいえ。頼っていただけて嬉しいのです。その上、あれらが反逆を企てたということも知れました。あのまま放置していれば、いずれ、今度は私が貶められていたかもしれません。それを思えば、あなた方はここでも私の命の恩人です。ご恩はお返しせねば気がすみませんので」
「……ありがとうございます」
バルドが頭を下げると、王は首を横に振り、微笑んでいた。彼は、ファナとバルドによって、今の穏やかな自分を手に入れられたのだ。他国へ呼びかけることくらい大したことではない。
「教会には、どの国も昔から振り回されております。王になる時、記録を見直してみました。反乱や謀叛など、その裏には教会があったと密かに伝えられております。王としては、味方にすれば頼もくもありますが、ずっと味方でいてくれるものではなかったといいます。力を持つのに不確定な存在……それは国にとって脅威です。排するきっかけを作ってくださり感謝いたします」
あの時はと後で教会の関与を知っても、その時に罪に問えなかった。そうして、警戒はしつつも敵に回らないようにしてきたのだ。だが、ずっとそうして様子を伺っていなくてはならない状態は国としてもよくない。
それが今回、尻尾を掴むことができたのだ。この機会を、王として逃してはならない。
「何より、魔女様が敵とされた存在です。そんなものを国内に置いておくのは危険でしょう」
「確かにっ」
二人で笑いながら、今は裏方に回っている魔女を思った。
そうして、数日後。この国から教会は消えた。ただし、その数日後、新たな教会が起ったという。
それは、大陸の神獣となぜか魔女を祀るものだった。
ここに『大陸新教』が生まれたのだ。
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