247 劇的な変化でした
2019. 10. 28
ファナとバルドは、ボライアークの棲む洞窟の真上にある丘へ向かっていた。
「土地の力は完全に戻ってる感じ?」
《うむ。最盛期と同等になりつつあるな。再生も完了している》
「えっ、再生って、生まれ変わりってことだよね? 大丈夫だったんだ?」
ボライアークと会った時、とても弱っていた。海に流された毒の浄化もしようとしていたのだ。
シルヴァ達は魂と記憶をそのままに、同じ存在として肉体だけを作り変える。出会った時にそろそろだとシルヴァも言っていたが、それが既に完了しているとは思わなかった。
《主の薬も使ったのだろう。あれで最速で完了したと聞いた》
ボライアークとシルヴァ、それとクリスタは、かつて同じ一つの魂として存在していた。それが分かれ、この大陸の守護者となったのだ。その名残り、時折彼らは夢の中で会うことができるらしい。そこで聞いたのだろう。
「安全に、問題なくできたなら良かったよ。絶対妨害があると思ったもん」
今は教会が活発的に活動している。ボライアークを弱らせたのも彼らの仕業だ。教会の者たちは、シルヴァ達を消滅させることによって彼らの望む神の降臨を願っているのだ。そんな時に無防備になる生まれ変わりはとても危険だった。
「護衛くらいする気だったんだよ?」
《主のお陰で十分に助かっていたと思うぞ? あちら側に人員が集中しているのも、主を警戒してのことだ。こちらは手薄になった》
「ん? じゃあ、こっち側も今よりも協力者は多かったってこと?」
《一国の王を扇動するくらいだ。二年前まではそれなりに居たはずだ》
「へえ……まあ、ボライアークの役に立ったなら良かったよ。囮になるとか楽しいよねっ」
《……主よ……魔女殿に似てきたな……引っ掻き回すのが好きということだろう?》
「正解!!」
いくらでも引っ掻き回してやる気満々だ。
「なあ、あそこにいるのが王か?」
「ん? 丘の上ってことだし、そうじゃない?」
バルドが指差す先。こんもりと盛り上がった丘の上。そこに、一人の武人らしき人影があった。
それに近付いていくと、祈りを捧げていた男が気付いて振り返る。そして、ファナ達を見て目を見開いた。
「そなたらは……っ」
警戒させてしまうかと思ったが、その目にあったのはどちらかというと笑みを見せそうになるほどの喜びだった。
「え〜っと、この国の王様で良いのかな?」
「ええ。お久し振りでございます。その節は大変お世話になりました」
「ん?」
誰だ。
その言葉が顔に出ていたのだろう。男はふわりと目元を和らげて笑みを見せた。
「無理もありません。かなり痩せました。あの時は森の中までコロコロと転がりましたからね」
「……」
「……まさか……」
ファナは絶句し、バルドは目を泳がせながら彼を隅から隅まで見回す。どこにも前の面影がないことに驚愕していた。
《人とは数年でこれほどまでに変わるものか……》
《シャ……》
シルヴァは妙な感心をしており、その上にいるドランも三つの口を開けて呆然としていた。
「王弟だったっけ? うん。痩せたね。筋肉付いてるじゃん。リバウンドも少なくて効率的なダイエット法だって師匠も言ってたよ。うんうん。どうやったの? ダイエット法は売れるよ? その人個人の体質に合わないと意味ないのに、絶対誰もが夢見て知りたがるからねっ。上手くまとめて売るよっ。売り上げの三割くれる? 国庫も潤うよっ?」
《落ち着け、主……まったく、こういう所まで似てしまうとは……》
シルヴァは座って、器用に前足で頭を押さえる。とっても人間くさい態度だ。明らかに呆れている。
けれどファナは止まらない。
「お金を貯める楽しさを知ったら、商売もしてみろって師匠に言われたからねっ。任せてよ。私は大陸一の大富豪になってみせるよ!」
《だから、落ち着けと言っているのだ。それよりも優先させることがあるだろう。そういう楽しみは、面倒な者を退場させてからしろと言われなかったか?》
「そうだった! 可及的速やかに排除するよ! さあ、お話し合いをしよう。教会は全部滅するべし!」
おかしなスイッチが入ったファナを止めることは誰にも出来なさそうだ。
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