246 戦士も魔獣も同じ?
2019. 10. 14
ファナは大陸の西の端にある国に来ていた。
「なんかすっごい久しぶりに来た気がする」
「そりゃあ久し振りだろうよ……」
隣を歩くバルドは疲れた様子で相槌を打った。ここへ来たのはバルド達と出会ってすぐの頃だ。かなりの月日が経っていた。
《うむ。ちょうど二年程前か?》
「それくらいかもね〜。懐かし〜」
「……なあ、腹減った。どっか店入ろうぜ」
「そういえばお昼も食べずだったね」
既に昼の時間帯を過ぎていた。朝食は食べているが、さすがにお腹が空く頃だ。
そうして、一休みも兼ねて店に入った。
「ふぅ……やっと落ち着けたぜ……」
食事を終え、バルドは疲れを払う。
「そんなキツかった?」
「当たり前だろっ。フレアラント山脈ってぇのは、規定の道を外れれば死ぬって言われてんだぞっ」
「大げさだなあ。死ななかったでしょ?」
「俺だけなら死んでんだよ!」
「そう?」
フレアラント山脈はファナが幼少期を過ごしたところであり、シルヴァの縄張りだ。
ラクトフィール王国は山脈の東にあるので、ここへ来るには山脈を越えなくてはならない。山脈を越える為の道は全部で三つある。
もちろん、トンネルとかではなく、山道を行くことになるのだが、そこはきちんとした道が整備されていた。
とはいえ、この道も実はかつて魔女が作ったものだった。『不便だろう』の一言で作ったらしい。大きな馬車も通れる道も作られており、ファナから見れば『遊んだな』と思えるものだ。
因みに、この道の整備をたまにファナがやっていた。冒険者ギルドと商業ギルドが整備することになっているのだが、嵐の後などは森との境が分かりにくくなるので、少しだけ手伝っていたのだ。だが、ここ二年は全く見ていなかった。気になってここへ来るついでにそれらを見て回ったのだ。
「その辺の森より、ちょっとスリルあるだけだよ?」
「ちょっと!? ファナが『スリルがある』って言うくらいだぞ!? ちょっとなわけあるか!」
《確かに》
《シャ〜》
シルヴァとドランまでもが同意していた。
「え〜、だって、シルヴァが居なくなってちょっと緩んでる感じだったよ?」
《それも確かだな。鍛える者がいなくなれば、怠けるのは人も獣も同じらしい》
「だよね? でも、出てきたのって若い子達ばっかりだったね」
《我を知る者はそうそう表には出てこんよ》
「無謀なのは若い子の特権だね」
《その通り》
「……なんだろう……ちょい懐かしい雰囲気っていうか……あ、そうか……この会話、戦士団に居る頃の……」
バルドは戦士団に居た頃に、同じような会話を聞いたなと思い出す。戦士団もあの山の魔獣達も同じということだ。
「さてと、どうしようかな。王城に忍び込むのは簡単だけど」
「……本気か? いや、できないとは思わないが……」
いくら簡単でもやるべきではないというのは常識だ。そんなリスクを犯してまでファナがやらなくてはならないことではない。
「こっち側は奴らの関与が薄いからね。きちんと芋づる式にいけるかが心配なんだよ」
「そっちの心配かよ……」
ファナとしては、王城に忍び込んで対象者を見つけたとして、その後に全部釣り上げられるかを心配しているのだ。
忍び込むことのリスクなど考えていない。
「けどよ。こういう場合、逃げられんように外に追い立てんのが妥当じゃねえか? ここからだと、山脈の向こうに逃げ込まれるかもしれん。そうしたら、あいつらが匿うだろ」
あいつらとは教会のこと。
ここは西の端だ。ファナはここから東へ向かって教会の協力者を捕まえていくつもりなのだ。
「逃げ込んで欲しいんだよ」
「は?」
楽しそうにジュースを飲むファナをバルドは見つめる。答えを返したのはシルヴァだった。
《逃げ込んだ先を破壊したところで、追っていた者を匿ったからだという言い分が通るだろう》
「……お、追う理由はどうするよ……」
《目星を付けた者の諸行は全て、主の手元にある》
「ウチの執事は優秀だからね」
「あいつか……」
魔女と同郷のユウヤ。彼の諜報能力は高い。転移能力を持つため、移動にも時間を取らないのだ。そして、違う世界では魔王として君臨してもいた。その能力は未知数だ。
「ユウヤがここの王は使えるからって言ったんだよ。顔を合わせておくと役に立つって」
「忍び込んで王に合うのか?」
「うん。それが一番。その後はこの子が教えてくれる」
「……」
スルスルとファナの左腕の袖から出てきたのは紫色のトカゲだ。
その円らな瞳がバルドを見つめる。
「……」
《(キラキラ)》
見つめ続ける。
「なあ……そいつ、なんか言いたそうだぞ……」
《(パァー)》
「すごいね、バルド。さすがはママ!」
「ま、まま……」
《(コクコク)》
「っ、ママ!?」
バルドは身をそらした。
「何を驚いてんの? だって、この子を体の中で育てたのはバルドだよ? ママでしょ?」
「っ……」
衝撃的な事実だと目を見開いたまま固まった。
「ちゃんと瞬きして。落ち着いて。ってことで、この子の名前付けて欲しいの」
「どういうことか分からん!」
「名付けは親の義務だよ。いい? 期限はこの国を出るまで。ちゃんと考えるんだよ」
《(ウルウル)》
「っ、わ、わかった……」
それではとファナは席を立つ。
「じゃあ、一緒に王様に会いに行きますか」
「……え?」
「大丈夫だよ。王様は今、あの丘の上に居るみたいだからね」
「な、なんでそんなことがわかる?」
「なんでって、この子が見てきたんだよ」
「……すげぇな……」
《(コクコクコク♪)》
バルドに褒められて上機嫌になったトカゲは、バルドの左腕の袖に入っていく。
「ちょっ……」
《(スリスリ♪)》
「やっぱ、ママの方が良いみたい」
「……っ」
バルドはうんざりしながらも、ちょっと可愛いと思っているらしかった。
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