243 色々とドン引きです
2019. 9. 2
ファナによってバルドの体に付いていたそれが抜き取られ、瓶に閉じ込められていた。
「うへぇ……何だよこれ……トカゲか? けど、ちっさいドランみたいな羽がある……これが俺の体ん中に……っ」
バルドはどうにも背中が痛いなと思っていたらしいのだが、歳を理由にして諦めていたようだ。だが、ファナによって体を固定され、服をひっぺがされたバルドの背中には、小さな赤黒くなったアザがあった。そこからファナはにゅにゅっとそれを引っ張り出したのだ。
「めちゃくちゃ痛かったし……」
普通に呻いた。それでもファナは容赦せずに抜き切ったのだ。
「あれ? これって尻尾切れてんのかな? う〜ん……残ってる?」
「うげっ」
まだ体の中に一部あるのかと思うとバルドは顔色を悪くした。トカゲの姿を見てしまったから余計に気持ち悪い。
ファナは念のためともう一度、動けるように術を解いていたバルドを固定する。
「お、おい……動かないからこれはもう……」
「ダメだよ。痛い時ってどうしても逃げちゃうでしょ? それに、体の微細な拍動もこれで固定してるんだ」
「……っ、心臓まで止められてる!?」
「それやったら声も出ないよ。あ、なるほど……一時的に仮死状態にした方がやりやすい……」
「これでいいです!!」
怖いから早くしてくれと真っ青になって泣き言を言うバルドを気にせず、ファナはジッと目を凝らしていた。
「あ、あった。えいっ」
「ふげッ」
「抜けた抜けた♪」
「……」
頑固で太めのヒゲを一本抜いたような言いように、バルドは死んだような目をしていた。だいたい、抜く時は抜くと言って欲しい。そうその目は語っていた。とはいえ、気付いたのは部屋の隅にいたシルヴァくらいだ。
「これで完璧! さてさて、こっからが魔女の腕の見せ所だよん♪」
「……」
術から解放したバルドは床に崩れ落ち、下着姿で涙を流している。それは放置だ。今は要らない。用済みだとばかりにファナは瓶を持って作業台へ向かった。
《おい……生きておるか?》
《シャ……シャ〜……》
「うぅ……っ」
しばらくバルドには同情の眼差しが送られた。
一時間後。
黒い小さな飾りのような皮膜の羽のあるトカゲは、禍々しいまでの紫色になってファナを真っ直ぐ見つめていた。それも瓶の中ではなく、机の上で大人しくしている。
これをようやく衝撃から立ち直り、服も身に付けたバルドが後ろから覗き込む。
「逃げねえの? ってか、めちゃくちゃ邪悪な感じの色になったな……」
「だって、元が黒だったからね。変えられる色がこれくらいしかなかったんだよ。けど、結果的に絶対あり得ない感が良いよね!」
天然色ではないのがよく分かる色だ。間違いがなくて良さそうだ。
「さ〜てと。保護結界ヨ〜シ。目もオッケー。耳もオッケー。記録術への繋がりも問題なし! それじゃあ、ハネトちゃん。あなたの元主人の住処まで行っといで!」
《(ピシっ、コックリ!)》
器用に片手を上げて敬礼すると、深く頷いて開けた窓から飛び立って行った。かなり早かった。
「……え? いや、え? あれいいのか!?」
「使い魔だもん。大丈夫。その辺で捕まらないように上の方飛ぶようにしてるし、保護の結界も万全。鳥に食われたりもしないって」
「つ、使い魔……」
「普通は黒猫から始めるんだけどね〜。ちっさい頃はこの辺でも見た気がするんだけど、最近全然見ないし。次点で蛇なんだけど、爬虫類系はね〜……使い魔にするより薬にしたいじゃん。だから、トカゲもなかったんだけど……今回は仕方ないよね」
「……俺は聞かなかった」
潔く耳を塞いだバルドは、逃げるんじゃないかとか、もう心配していなかった。
「そろそろ兄さんが帰ってきそうだし、向こうに戻ろうか」
「ああ……そういえば、なんかこの屋敷、少し前より使用人の人数が増えてないか?」
部屋を出て、シルヴァとドランを引き連れ、バルドと並んで歩く。ここは離れの屋敷なのだが、こちらにも結構な人数がいる。屋敷の四分の一がファナの実験部屋として隔離されているので、廊下をしばらく行くとそれがよく分かる。
「あれ? 行ってなかったっけ? ウチの親達を世話してた使用人達が別邸から引き上げてきたんだよ。だから、これが本来の人数なんだって」
追放したファナとラクトの両親。彼らは馬車で一日ほど離れた場所にある別邸にて監禁生活をしていた。
追い出したとはいえ、使用人もいなければ何もできない人達だ。せめてもの温情で世話をする使用人達を送っていた。もちろん、迷惑料込みの最大限の給金を約束してだ。
「いいのか? 使用人が戻って来たら何もできんだろ」
「え? いや。だってもういないし」
「……は?」
《あの問題の二人ならば、二ヶ月ほど前に亡くなったぞ。それに、主の部屋にあっただろう。瓶詰めされた光るものが二つ》
「あ、何で浮いてんのか分からんかったアレか……それが亡くなった先代達に何の関係が……っ、ま、まさか……っ」
ギギギっと無理やり首を曲げ、ファナの方を向く。その先には黒い笑みを浮かべる魔女様がいた。
「未練タラタラなんだもん。あんな汚い形の魂なんて初めて見たよ。あまりにもレア過ぎて瓶詰めしちゃった♪」
「……俺は聞いてない……聞いてない……見てない……っ」
ダラダラと嫌な汗をかきながら、バルドは必死で目をそらすのだった。
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