242 許可は取りました
2019. 8. 19
王の体に入っていた石は、問題視する天魔石ではなかった。けれど、それに類するものだというのはわかっている。
オズライルならば、これを見て何かファナが必要とする情報をくれるのではないか。そう思った。間違いではなかったらしい。
石を怖いほど真剣に眺めていたオズライルは、ふと肩の力を抜いてソファに体を埋めた。
「こんなものまで……それも直接体にねえ……うむ。間違いない。これは天翼族が作ったものだよ」
「作った? 天翼族って……オズじいちゃんの先祖の?」
確認すれば、オズライルは不本意そうな表情をしていた。
「そうだよ。迷惑な種族でねえ。閉鎖的だし、ずっとずっと前のご先祖様の生きていた地に戻りたいって暗躍してるそうだ。そういうのが嫌で、ウチの先祖は人の中で生きることにしたんだよ」
今のオズライルを見れば、それも頷けるというものだ。自分の生き方を他人に左右されるのを嫌う人種だと思う。
「暗躍って? もしかして、教会とかに入ってる?」
「あ、気付いたんだね。教会を作ったのが天翼族だよ。多分、こっちの大陸にいる教会の上の方の人たちは天翼族関係の人だね。表に出てこないし、結界とかしっかりしてるから確認したわけじゃないけど」
用意していたお茶を不貞腐れたような顔で啜る。彼らが気に入らないのだろう。コソコソと暗躍しているというのが嫌なのだ。それもそんな人たちと同じ種族の血が流れているというのも許せないという。
「あいつら根暗でね。それも、自分たちの望む世界を実現させるためなら、周りの人がどうなっても構わないっていう自分勝手な種族。昔ね、冒険者だった頃、協力しろって接触してきたんだけど、そいつらは思いっきり叩き返してやったよ」
「へ〜。オズじいちゃんがそこまで嫌うなら、私も思いっきりやっても良さそうだね」
相手が天翼族なら、同じ血を引いたオズライルも良い顔をしないと思って少し躊躇っていたのだが、そんな心配はいらなかったらしい。
「いいよ? 寧ろ大量虐殺? 抹殺しちゃっても良いからね。キサコさんも、直接手を出して来たら消すって宣言してたんだ。上手いことあっちが避けてたから実現しなかったけど」
「ちょっ、そんなこと言ってはいけませんよっ。ファナが本気になったらどうするんです?」
バルドが慌てて割って入った。だが、もう遅い。
「ふっふっふっ。これぞ魔女の醍醐味ってやつだねっ。任せて! 既にこっちに手を出してんだからね。師匠とは違うよ。条件は満たした!」
《バルド、無駄だ。ここへ来たのはあくまでも確認のためだからな。予想していたものが正しく敵であるかどうか。その確認をしたかったのだろう》
シルヴァは部屋の隅で寝転がり、獣姿を堪能している。だらけきった姿を見るに、人化はやはり少々疲れたようだ。そして、こちらもストレスが溜まっていた。
《ということは、やってもいいのだな》
《シャ〜っ》
「いいんだよね」
「うん。いいよ〜」
「……」
これで決定してしまった。
◆ ◆ ◆
夕食前にはクルトーバの屋敷に戻ったファナ達。
しかし、そこにはラクトの姿がなかった。出迎えたのは、家令のジェイクだ。
「まだ兄さんは王都かな?」
「はい。一度ご連絡はいただきました。夕食までにはお帰りになるそうです」
「そっか。トマ達は帰ってるんだよね?」
「ええ」
「それじゃあ、ちょっとそっちで作業してるから。バルドこっち来て」
そう言い置いて、ファナは離れの屋敷に向かった。
「あ、お帰りなさいませ」
「ただいま、トマ。帰ってきてすぐだけど、ちょっと部屋に籠る。兄さんが帰って来たらドアをノックしてね。入って来ると危ないからよろしく」
「え? あ、はい……」
そのままバルドを伴って部屋へ入った。
「おい。俺は邪魔じゃ……」
「ん? バルドが必要なの。シルヴァ、結界張ってもらえる?」
《うむ》
「……なあ、何を……」
不安がるバルドを気にせずファナは彼を部屋の中央に立たせた。
「えへへ。バルドの体にね〜。すっごく面白いものが付いてるんだ〜。それをね〜」
「っ、な、なに……を……っ」
ニヤニヤと笑いながら、ファナはバルドの足下に魔法陣を出現させたのだった。
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