241 勘が良いにもほどがある
2019. 8. 5
イクシュバという町の名を、未だ覚えていないファナだが、そんなことは大したことではないというように真っ直ぐギルドへ向かった。
「よく来てたのか?」
「ん? なんで?」
ギルドの建物が見えてきた所で、バルドが不思議そうに尋ねてきた。
「ここ、結構大きな町だろう。それに、ギルドがかなり奥にある。一回や二回じゃ道が覚わらん」
町が出来た初期の頃にここのギルドは置かれており、町が人口の増加で外へ外へと広がったためにギルドが中央寄りになっているのだ。それも、広げ方が急激だったのか道も複雑だった。
「一度通った道は覚えるよ? あとは、一日滞在すれば、こうやって……ほら」
「ん?」
ファナが出して見せた紙。そこには絵が描かれていた。否、しばらく見つめてバルドは気付いた。
『絵だと思っていた』と言っていたオズライルの言葉をふと思い出したのだ。
「っ、これは……地図か……っ」
「そう。自動筆記と気配察知の複合魔術なんだけどさ。これくらいの町の規模なら一時間も集中すれば書き上がるよ。あ、町の地図なんて要らないかもしれないけどそれあげる。複写も問題なくやれたんだ〜」
「そ、そうか……いや、ありがたくもらっておく」
色を使っているわけではない。黒一色で書かれたものだが、細かく道も路地も書かれており、建物には施設の名前も書かれている。
それは本当に絵のようだったのだ。
「今回ので東の方も制覇したんだ。あとは西だね。そうしたらこの大陸の地図がやっと完成できるよ」
ファナはコツコツとその作業を進めていた。
《うむ。そういえば、部屋に大きな紙が用意されていたな。大陸の地図のためか》
「そうっ。先ずは大きいのと思って、書き始めたんだ〜」
《有言実行な主らしい。忘れてはおらなんだか》
「まあね〜」
最近のファナは、通過するだけで殆どを把握できるようになった。ただでさえ記憶力の良いファナだ。道中にちょっとメモを残すだけで問題なかった。
「なら、もう半分はできたってことか」
「うんっ。できたら小さく縮小したのをまた渡すからね」
「い、いいのか? 言っとくが、すごく貴重だぞ?」
この世界の地図といえば、一番詳しいものでも大雑把に『このくらいの範囲』と囲った場所に町や森の名前を書かれたもの。そして、何とか小川や山があるのが分かるといった程度だ。尺も何もない。
だが、魔女がファナに教えた地図はそうではない。国境の線もきっちりしているし、町の中の道まではっきりとしていた。そのため、絵だと言われてもおかしくないものになるのだ。
「いいの、いいの。いつか誰かがそれを見て『なるほど』って思って書けるようになったらいいなって」
「……そうか。なら、遠慮なく予約しておく」
「任せて!」
バルドには日々世話になっているのだ。お礼として、役に立ててくれたらなと思うファナだ。
周りからは微笑ましい旅をしている親娘とも見える二人だった。
ギルドに着くと、すぐにオズライルの元に案内された。
「オズじいちゃん、久しぶり〜」
「うん。久しぶりだねえ。地図作成は順調かな?」
まるで見えていたかのようなタイミングの良い話にバルドは驚いていた。
「あれ? どうしたの?」
「あ、いや。さっきまでまさにその地図の話をファナとしていたので」
「ああ。そういうこと。たまたまだよ」
「そうですか……」
ちょっと信用できなかった。バルドのそれが顔に出ていたのだ。オズライルは笑っていた。
「あはは。ごめんごめん。僕、そういう勘っていうのかな。得意でね。お客さんとか来る前に『あの人、今何してるのかな〜』って思ったりするの。小ちゃい時からそうだからさ」
「なるほど……そういえば、魔獣の氾濫を予知したとか聞いたことが……」
「うん。そういうのも『あ、これ来るかも?』っていうのがあるんだよ」
今回もファナがそろそろ来るかなと思っていたらしい。そして、そういえば地図作成はどうかなと思ったとか。
「師匠に言わせると、オズじいちゃんは『魂の徳が高い』んだってさ」
「トクってなんだ?」
「前世とかで善行を繰り返したり、偉大な何かを為して、世界に良い影響を与えた人が溜め込むことができるエネルギーってやつ? それが高い人は、不意に危ないこととかないように世界が守ろうとするんだってさ。だから、夢とかで危険とか未来のことが分かるようになるんだって」
「「へえ……」」
オズライル自身もびっくりしていた。無自覚だったらしい。
「今回、私に反応したのはこれのせいかもね」
「これっ……っ」
そうして見せたのは、王の体に入っていた石だった。それを見て、オズライルは明らかに顔色を悪くしていたのだ。
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