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240 貸しにしとくから

2019. 7. 22

ファナは、テリアをお供に王宮の奥から外に向かって異常がないか調べていた。


「この辺も大丈夫そう。変な気配もなし」

「そうか……」


良かったとほっとしながらも、テリアは幽鬼のようにフラフラと書類を抱えて彷徨う文官達へ目を向けていた。当然、ファナも気になっている。


「文官さん達、あの調子で夜も動いてフラついてないよね? 間違って切り捨てられてたりしないよね?」

「……確認しておくよ……」


目の下のクマは深く刻まれており、数日は軽く寝ていないだろうことを証明していた。テリアも心配していたようだ。


「後で文官さん達用に薬作っておくよ。あれはちゃんと食事も出来てなさそうだから」

「いいのか? なんか、食事だったり薬だったり、もらってばかりなんだが……」


どんな薬でもタダでは手に入らない。それなのに、魔女の最高級の薬をホイホイと受け取っていいはずがなかった。


「王の治療もしてもらった……お礼はどうすればいい?」


王を助けて欲しいと最初に言ったのはテリアだ。結果的に国を上げての依頼となったが、気になっていたようだ。


「ん? 別にお金とかは要らないよ? 臨床実験できたし? お料理とか楽しかったし?」

「いや、だが、そういうわけには……」


ファナとしては、お金が欲しい時はちゃんと払えそうな人からもらうし、寧ろ気に入らない人からは存分にぼったくる。しかし、今回はそうではない。


「薬とか料理って消耗品でしょ? 欲しい時にしか作れないんだよ。作り置き出来ないし。難しい薬ほど作っただけ売れるって物じゃないからね。それ考えると、機会をもらっただけでこっちは満足なんだよね〜」


これが紛れも無い本音だ。困っている人、本当に助けが必要な人からは対価をもらわない。師である魔女もそうだった。薬は必要とされてこそだと思うからだ。


「まあ、でも気になるっていうなら、貸しにしとくよ。今はいっぱいいっぱいだろうし、いつか余裕ができたら何か頼むかも」

「……それはそれで怖いんだが……分かった。王にもそう伝える」

「うん」


城内にはもう異常は見られないと確認すると、言った通り文官達用の栄養調整薬を作って渡す。


「ほんの一口でいいからね。一日一回」


小さなお猪口サイズのコップを五つほど付け、薬は一升瓶で三本作った。どれも師である魔女に教えられた容れ物だ。これが意外と使い勝手が良い。


後は王に任せるからと言って、テリアへ別れを告げる。


きっとこの場にラクトがいたら、こんな別れの言葉も告げられなかっただろう。主に嫉妬で。


「それじゃあ、テリア、これから大変かもしれないけど、倒れない程度に頑張ってね」

「ああ……ありがとう。ファナには……本当に世話になったよ。俺にできることは少ないかもしれないけど、もしも何かあったら、力になるから」

「そういうの、本当に別にいいんだけど。でも、うん。短い間だったけど、テリアといるのは楽しかったし、また会えたらいいな」

「っ……そうだな。また会おう」

「うんっ」


名残惜しそうなテリアと別れ、ファナはラクト達と合流した。


「お待たせ〜。帰って天魔石に対応できる結界の研究を始めるつもりなんだけど、その前にオズじいちゃんに会ってくるね」

「それなら私もっ……」

「先に帰って王様に報告でしょ」


何のためにファナと別れて町を見て回っていたのかラクトは忘れているようだ。


「この国の現状報告。兄さんがしてくれるって言ったじゃん。王宮であったことはコレね」

《なんだ、主よ。しっかりと報告書が出来ているではないか》

「王宮と王様のことはね。ついでに文官さんがいかに頑張ってるかをしっかり書いといた。おんなじものを複写してテリアにも渡してあるよ」

《いつの間に》

「寝る前の内職がてらちょちょっとね〜」


ファナは文献などを好むだけあり、こういった報告書を作成するのは得意だった。


「て、テリアとはあの青年か……あの王の庶子だそうだな……」

「うん。真面目でいい人だったよ」

「……」

「兄さん、変なこと考えないでよね。テリアはこれから大変なんだからさ」

「……仕方ないか……」


案の定、ロクなことを考えていなかったらしい。


「それじゃあ、とりあえずオズじいちゃんのとこ行ってくるね」

「ま、まて……っ、バルド、お前にファナの護衛の任を与える!」

「マジか……まあ、良いけどよ……」

「え〜、バルドは兄さんのお目付役でしょ?」


ラクトを放っておいていいのかとバルドに確認するファナに、バルドは抜かりなく指摘しておく。


「そうだが、やるべきことを投げ出して追いかけてくるようなおバカではないはずだからな」

「なるほど〜」


二人で意味深な視線を送れば、ラクトも折れた。


「くっ……夕食までには帰ってくるんだぞ」

「は〜い」


渋々だが、ラクトも納得してくれたようだ。


そんなラクトと別れ、ファナはバルドとシルヴァ、ドランを連れて懐かしい町へ向かった。


読んでくださりありがとうございます◎

また一週空きます。

よろしくお願いします◎

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