239 それぞれの行方
2019. 7. 8
ニヤニヤと笑っていたファナはここでやっととある人のことを思い出した。
「そういえば、イ……なんだっけ。教会の内情とか知ってそうなお兄さんをこっちに送ったはずだったんだけど、失敗した?」
すっかり忘れていたファナだ。シルヴァの所へ転送したはずだと確認する。
《うむ。あの男ならばすぐに兄殿がどこかへやっていたぞ》
「兄さん? 要らなくても変な所捨てちゃダメだよ?」
顔を向けて注意すると、ラクトが心外だと表情を曇らせた。
「かなり頑固だったのでな。少し聞き分けが良くなるように、昔の知り合いの所に送ったのだ」
「へえ。なんなら、私が薬用意したんだけど?」
「大丈夫だ。あちらも薬は得意だからな」
「そう?」
「ああ。色々分かったら教えよう」
「分かった」
一体どんな知り合いか気になるが、この言い方は前世絡みだと予想する。その場合は追及しないことにしていた。言いたくなったら言うだろうと、とりあえずは任せておく。
ラクトも教会には思うところがあるようなので、そちらはそちらでやってもらった方が良さそうだと思ったのだ。
「それじゃあ、クリスタ。またね」
《うむ。またな》
ファナはラクト達と共に王達を連れて山を後にした。
因みに、王弟と来た教会の魔術師三人と子ども姿のままになってしまった三人はクリスタが引き取った。
既に戻って来た時には魔術師の三人はクリスタを神のように崇めており、すっかり人が変わっていたのだ。しかし、やはりファナは怖いらしく、しっかり距離をとっていた。
そして、子を守る母のように、連れてきた三人には尋問することをクリスタが許してくれなかった。ならば、ゆっくり聞き取りしてくれと頼んだのだ。
三人も、自分達を子どもの姿にした魔女よりも、少々変わった容姿をしているが、間違いなく自分達を庇護しようとしてくれているクリスタの方を選んだらしい。
クリスタがドラゴンだと言っても実感のなさそうな顔をしていたので、本来の姿を見た時が見ものだ。
とはいえ、人好きなクリスタの住処に一気に六人も住人が増えた。これでクリスタも寂しくないだろう。大切な友人が喜んでいるのは良く分かった。
そんなことを考えていると、あっと言う間に国境を越えて城が見えてきた。
「王様、城の中に降りるけどいい?」
「民達には見えないのだろう? ならば構わない」
ドランに乗っているのはファナと王、テリアとイシュラだ。ラクトとバルド、それとシルヴァは黒霧に乗っており、城には降りない。
「降りたらすぐに見えるようにするから、イシュラ、騎士とかに騒がないように言ってね」
「はい」
行きは馬だったので、まさかドランに乗って帰って来るとは思わないだろう。ファナの肩に小さいドランが乗っているのは、文官以外は見ていたが、これは予想できないはずだ。
ちなみに、乗って行った馬はあちらの騎士が国境まで届けてくれるらしい。どこまでも親切な騎士達だった。
城の中庭に降り、ドランやファナ達の姿を見えないようにしていた術を解く。しかし、王弟の姿だけはまだ見えないようにしていた。
「王弟さんは死んだことにしておいてね」
「それは、教会にこちらが彼らの策略があったと知らずにいると思わせるためだな」
「そうそう。王様も死んだことにとも思ったんだけど、私が関わってるのはバレたはずだから隠す必要ないと思って」
ドランがあちらの城と山の間を飛んで行く所は見せていた。そこから推測されるのは仕方がない。
「あくまでも、ここの国と王様が教会の策略を知ったってことを知られないようにしてほしいだけなの」
「わかった。教会は気にせず、国の復興に全力を注ごう」
「そうして。文官さん達が必死過ぎて笑えるから」
「……そのようだな……」
城に入ってすぐに、幽鬼のようにフラフラと書類を持って彷徨う文官達を見てしまった。本気で幽霊の類いかと思った。
王宮の奥に入ってから、ようやく王弟を見えるようにする。全ての元凶であった王弟が突然現れたのだ。近衛騎士達や王妃などが、王の無事を喜ぶ間もなく説明を求めていた。
すっかり大人しくなった王弟は正直に自供し、王やイシュラが間に入って話が進む。
その間、ファナはテリアとドランを供に城内の最終点検をして回っていた。
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