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238 破滅への計画を

2019. 6. 24

シルヴァらしき美丈夫は、得意げに胸を張っていた。


《どうだ主よ。我の人化姿は!》

「おおっ。どれだけ保つの?」

《……まだ二時間くらいが限度だな……》

「え〜……」


心底残念だという表情をするファナに、シルヴァも肩を落とした。


「ファナ、そこはもう少し成果を褒めるべきだと思うぞ?」


バルドが注意するが、残念なものは残念でしかない。


「だって、ずっとならご飯とかも一緒に食べれるじゃん」


何が不満かといえば、獣姿のシルヴァを連れていくのが目立つからだ。これでは気軽に町で歩き回れない。せっかく山から降りているのだから、町にしかない楽しみを共有したいのだ。


それをシルヴァも分かったらしい。


《む……そうだな。ならば努力しようではないかっ。見ておれ主よっ。一日中でも保つようになるでな!》

「うんうん! 頑張ってよねっ」


そんな話を、ドランがじっとみつめて聞いていたのだが、不意にクフンと鳴いて発光しだした。


「ん? ドラン?」

《も、もしやコレは!》


そうして光が止むと、そこに三歳くらいの三つ子が手を繋いで立っていた。


「ありゃ。ドランも出来るようになったんだ……」

《《《んっ》》》


笑顔で一斉に駆け寄ってきた。


《《《いっしょー》》》

「喋れるの? すごいねっ」

《《《すごい〜》》》


ご機嫌だ。


「手、離しても大丈夫なんだな」

「あ、本当だ」


興味深げに近付いてきたラクトが、冷静に観察する。ドラン達は繋いだ手を離して、それぞれの手でファナに抱き付いていたのだ。


そんなラクトを一斉に見たドランの一人が両手を上げる。


《にいちゃま、だっこ》

「っ、い、いいだろう」


ラクトはヒョイっとドランの一人を抱き上げた。


《ずるいー》

《ボクもー》

「待て待て。一度に三人は無理だ」


それを聴くと、ドラン達はコテンと揃って首を傾げる。すると、また発光しだした。それがラクトの抱える一人に集約されていく。


光が消えると、一人になっていた。


《これでひとり〜》

「……天才か!」


ラクトが珍しく目を見開いて褒めていた。


《案外、兄殿は子ども好きだな》

「それ、俺も思ってた。なんだかんだで面倒見良いからな」

「ほ〜、ちょっと兄さんを見直したかも」


親子にしか見えなかった。


しばらくして、王が近付いてきた。今まで、クリスタの所にいた王弟と話していたのだ。すっかり大人しくなった王弟の様子を見て、無害だと確認もしていた。身内の問題もあるのだからと、ファナはそっちで話しておいでとあえて放置していたのだ。


話は付いたのか、幾分かスッキリした表情をしていた。


「魔女殿。お待たせいたしました」

「何とか落ち着いた?」

「はい。国を乱した責任は取らせます。何人も死なせていますので……」


そうはいっても弟だ。信頼もしていた。それを裁くというのは難しいだろう。例え、息子を殺されていたとしてもだ。


「王弟さんを唆した奴も悪いんだから、そっちも捕まえなきゃね。こっちの国にも協力者がいたみたいだから、そっちは……」


ラクトに目を向けると、ドランの相手をしながらも聞いていたらしくきちんと答えてくれる。


「セシア妃の叔父であったイスクラ侯爵が、天魔石をそちらの王宮へ運ばせたことは吐いた。既に捕らえてある」

「……兄さん、やる事はやって来たんだね」

「やらずに来たら怒るだろう……」

「うん。役立たずでしかないじゃん」

「っ、なら、役に立つ頼れるお兄様と認めてくれるか!」

「ちょっと成果としては足りないかな」

「そ、そうか……」

「……」


この兄妹のやり取りに、王は呆然としていた。これをフォローするのはバルドの役目だ。


「いつもこうなんで、お気になさらず。ちょっと妹命になってますけど、あれで国では国王も一目置く奴です。味方にしといて損はないですよ」

「そ、そうなのか……いや、対応もしてくれているのならば、疑いはすまいよ」


ファナの前ではこれだが、優秀というのは間違いないので、そこは目を瞑って欲しい所だ。バルド自身は、どうして俺がフォローしているのかと、少し思うところはあるが、そうして周りが助けようと考えて動いてしまうくらいには有能だと認めてもらえるだろう。


「それより、これからの事だけど」


唐突にファナが王へ確認する。


「天魔石とか、その他の術の影響とかをもう一度チェックしたら、天魔石から守る結界を張れるようにするね。それで、とりあえずは教会は気にせずに国の立て直しだけ考えて」

「いや、だが、教会へ抗議だけは入れたいのだが?」

「それを待って欲しいの。まだ、教会が仕掛けたって事をこっちが気付いてないと思わせて欲しいわけ。多分、ここの国の王様が動くから、そっちの国の事まで気は回らないと思うんだ。だから、そのうちにこっちで大元を叩く用意をする」


ファナは、完全に教会を敵と認識した。ニヤリと何かを企むように笑うファナに、王はゴクリと喉を鳴らす。


「ふふっ。誰に喧嘩を売ったのか分からせてやらないとね〜」

「っ……」


そのファナの後ろでも、同じように暗い笑みを浮かべた者がいた。


「今度は逃さん」


小さく呟かれたラクトの言葉は、腕の中のドランも聞こえない。それは、前世からの因縁だ。


教会は最も敵に回してはならない者達に正面から喧嘩を売ったのだ。

読んでくださりありがとうございます◎

また一週空きます。

よろしくお願いします◎

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