236 良い伝手を手に入れました
2019. 5. 27
王は三つの報告書の束をファナに差し出した。
テーブルに置かれたそれを見て、ファナは中央にある報告書を先ず手に取った。
「そちらがこの国の教会によって流されていた噂についての報告書です」
ペラペラと紙をめくる勢いでファナはそれを読み終える。
「これ、よくまとめたね。あれから何年も経ってないよ?」
「教会が情報操作に長けていたのは認めますが、どうやらそちらにばかり気を取られていたようです。調べた者たちの話では、拍子抜けしたと」
報告書を見た限り、調べた者達は優秀だろう。しっかりと押さえるべき所は押さえてある。
「ふふっ。まあ、あっちもまさか疑われるとは思ってなかったんだろうね〜。完全に手懐けたとでも思ってたんでしょ」
教会の方に油断があったのも確かだろう。完全に掌握し、真偽など気にしないように操作していたのだから。
それが長い間維持されていた。疑われることなどあり得ない。そういう驕りがあったのだ。
「ええ。ですが、魔女様には警戒していたようです。とはいえ、警戒していたのは渡りの魔女様の方でしたが」
「当然だね。師匠は何度か目障りだって理由で教会と遊んでたみたいだし。私の方は多分……兄さんが上手く撹乱してたんだろうね」
ファナは教会の計画を何度か邪魔しているが、まだ直接手は出してはいない。だから、要注意人物として認識はされていた。だが、ラクトが上手く隠れ蓑になり、ファナが直接的に教会と敵対しているわけはないと思わせていた節がある。
魔女は自由だ。ただファナが用のあった場所に教会が仕掛けていただけであり、邪魔することになったのもただの偶然であると思わせたのだ。実際、それは間違っていない。
「なるほど。お兄様……ラクトバル・ハークス侯爵ですね」
「あ、ちゃんとこっちも調べ済み?」
抜け目はないようだ。
「申し訳ありません。失礼とは思いましたが……」
王は本当に申し訳なさそうに頭を下げた。
「別に良いよ? それに、兄さんっていうか、国の方にお礼状出してたでしょ? 調べたの分かってたし」
「はい……どうしてもお礼をと思いまして」
「教会のこと調べるより苦労したでしょ」
「それはもう……調べた者たちが、今なら魔族の国へ行って調査もできそうだと胸を張るほど……」
「あははっ。うん。出来ると思うよ」
元魔王相手に調べられたのだから、問題なくやれるだろう。調子に乗っても許される。
ファナは話しながら他の二つの報告書にも目を通す。
「教会は大陸に棲まう三体の神獣様を悪しき神の獣としております。倒さねばならないものだと。それと同時に、魔族から聖なる大陸を取り戻し、そこにいる三体の獣をも倒す必要があると。それを全て倒した時。聖なる大地に真の神が降り立つのだそうです」
なんとなく、ファナが把握していた話と同じだった。ならば間違いないのだろう。
「シルヴァ達が神獣だって事実は消せなかったんだ」
「故意に操作された情報よりも、真実の方が根強いという証拠でしょう」
「バカだねえ。だから悪しきって付けて誤魔化したと」
古くから当たり前になっている呼称を変化させられるだけの操作はできなかったようだ。疑問を生まないためかもしれない。
「魔女様のお連れになっている白銀の王は計画としては保留になっていました」
「まあ、手は出せないだろうね。私に喧嘩を売るようなものだもん」
「はい。そこは慎重に考えているようです」
シルヴァに手を出せば、もれなくファナが敵に回る。ファナの師である魔女と色々とあったので、そこは何とかして避けたい所だったのだ。
「それでボライアークとクリスタにね……でも、仕掛けたのは今になってっていうのは何かあるよね」
「はい。教会は長い間、神獣様達が悪しきものだという噂を流してきました。ですが、直接どうにかしようという動きはこれまでなかったようです」
長い歴史の中で、ようやく今手を下そうとしている。それが気になった。
「ボライアークには一国の軍を差し向けていた……クリスタにもここの軍を当たらせる気だったね……ようやく国を動かせる所まで来た……? 今回は隣の王弟をけしかけてるし……う〜ん……何か焦ってる?」
「なるほど……そこを調べてみましょうか」
「え? 調べてくれるの?」
ここまでやってもらって、更に動いてくれるとでも言うのだろうか。
「ええ。もちろんです。これがお礼になりますでしょうか」
「お礼はいいって言ったのに……でも、うん。頼もうかな」
「はい。お任せください」
良い情報が手に入りそうだ。
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