234 完全に他人事なので
2019. 4. 29
まさか、これほどあっさりと重大なことを話されるとは王も思わなかった。
驚きながらも肯定する。そして、自身の息子であるテリアへ目を向けた。
「子どもができたかもしれないと言われた気はしていたんだが……」
「逃げたの?」
ファナはズバっと尋ねた。王も流石に言葉に詰まる。だが、言い訳も何も通用しないというのは分かっていたようだ。
「っ……そ、そうかもしれん。聞かなかった振りをしていた……」
「うわあ、サイテイっ。男ってこれだから」
「……面目ない……」
近くにあった椅子を持ってきて世間話をするようにファナは足をぶらぶらと振りながら相づちを打つ。
「それから会ってないとか?」
「……ああ……」
その頃から真面目に国のことを知ろうとしていた王は、執務にも真剣に取り組むようになった。
「仕事を理由にしたでしょう」
「……お見通しか……」
「まあね〜。お約束だよ。テンプレってやつ。こんな父親のためにテリアってば健気にも兵になってるんだよ? そこんとこどうよ」
「む……っ」
いつの間にか、テリアもイシュラもファナと王の会話を聞いていた。
テリアの説明が終わっていたらしい。
しかし、注目されているということに王は気付いていない。自身の父親としてのダメさ加減に落ち込み、先ほどから俯いてしまっているのだ。自身の祈るように組んだ無骨な手にその視線は注がれていた。
王は絞り出すように告げた。
「こんな俺のために……すまんと思う」
「今の今まで忘れてたし?」
「っ…….すまん……」
「まあ、あの文官さんの状態とか見ればそれどころじゃないのは分かるけどね〜」
あれは結構修羅場っていた。あの状態がずっと続いていたとなると、忘れても仕方がない。きっと、そんな人が居たから変わろうと思ったのだから。
「王様みたいな人ってさあ、落ち着いたら迎えに行こうとか思ってたんじゃない?」
「っ……そ、そうだ……妃にも話していた。迎えたい女が市井に居ると……」
「あ、あの王妃様ならOKしたよね」
「ああ。良いと言ってくれた」
テリアが息をのむのが分かった。だから、ファナは気楽な様子のまま確認する。
「もしかして、テリアのお母さんが死んじゃったこと知らないの?」
「っ、な、なに!?」
言い方はデリカシーの欠片もない。だが、これだけ思っていた人ならば、先送りにする情報ではないと思った。
これはファナの最大限配慮したものだ。
王はテリアを真っ直ぐに見つめた。嘘であって欲しいと、その瞳は語っていた。だが、テリアも隠すものではないと思ったのだろう。
「はい……母は亡くなりました」
「っ……」
放心するが王。その時、ドアがノックされた。
「王が魔女様にお会いになりたいと…….あの……」
重苦しい雰囲気に、騎士がどうしようかと顔をしかめる。
「あ、気にしないで。こっちの問題だから。今いくよ。あんた達、大人しくしてなね」
「はい……」
「い、いってらっしゃい……」
「おきをつけて……」
三人の子ども達に見送られ、ファナは落ち込む王や戸惑うテリアを放ったまま部屋を出て行く。
「戻ってくるまでにちゃんと話ししときなよね〜。国に帰ったら忙しくなるからさ」
「「「っ……」」」
完全に他人事な様子に、誰もが気まずい状態のまま肩を落とすのだった。
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