233 王様って難しい
2019. 4. 15
次の日。
太陽がさんさんと照りつけるようになっても、三人の少年達が元の姿に戻ることはなかった。
「うわぁ。後ろめたさ満載の人生だったんだねっ」
「「「っ……」」」
笑顔を向けるファナ。その前でグズグズと鼻をすすりながら泣く少年達。精神まで姿に引き摺られるのだなとファナは違う意味で感心していた。
「……子どもを泣かせているようにしか見えないぞ」
「勝手に泣いてるのに? それ理不尽って言うんだよ?」
「理不尽な存在がよく言う……」
存在自体が理不尽な魔女というものに、理不尽だと言われても納得できないらしい。
「で、この子達どうしよう」
「連れて行かないのか?」
「え? だって、結果分かったし」
「……そうだったな……」
テリアの提案は、彼らが戻れるかどうかを確認するというもの。
その結果が今出てしまった。
目の前で震えて泣く少年達。これが元はコソコソとファナ達をつけていた大人の男達だとは思えない。
「これ、もう無害っぽいし、放置しても問題ないじゃん」
「……一応は害があると思ってたんだ?」
「だから観察してたんだよ? でも、あれだね。子どもの時から悪い人じゃなかったんだね」
ニコニコと笑みを浮かべながら彼らの前に屈み込んで見つめる。
「ご、ごめんなさい……」
「あ、声も子どもだっ」
「っ……」
喜ぶファナとは対象的に、ものすごく怯えていた。
それを見ていたテリアが呆れたようにため息をつく。
「記憶まで戻ったわけじゃないんだろう? なら、色々とあちらの話も聞けるんじゃないか?」
「テリア、頭いい! なるほど。声も出るし? うん。記憶は弄ってないから大丈夫なはず。ちょっと心は幼児退行してるけど。うんうん。じゃあ連れてく」
こうして、また上手いことテリアはファナを操作し、三人の少年達を連れて城へ向かった。
ファナを待っていたらしい門番にあっさりと中へ通され、案内に来た騎士が昨日の部屋へ連れて行ってくれた。
中にいる王は、体も起こせており動くのも問題なさそうだ。
「食事もできた?」
問いかける先にはイシュラがいた。ファナは昨日、食事についても指示を出していたのだ。
「はい。完食されました」
「それならよかった。あと数日はあんな感じの食事をしてもらうからね」
これに王が口を挟む。
「何から何まで、感謝する」
「いいよ。気にしないで。あと、ここで長居するのは良くなから、昼には国に帰るからね。そのつもりでここの王様にお礼言っておいてくれる?」
「承知しております。ただ一つ。どうしても……その、お会いしたいと……」
「あ、私に? う〜ん。まあ、いいか。なんか悪い人には思えないし」
この国の王はずっとファナに会いたがっていたらしい。強行な手段を取らないようなので、会ってみてもいいかと思う。
これに反応したのは、案内してきた騎士だ。
「っ、ではそのようにお返事して参ります!」
文字通りすっ飛んで行った。
「すごい喜んでたね?」
「本当に、一体何をしたんだ?」
「特には何も」
「……そうか……」
ファナには特別に何かをしたという意識がないだけだなと、テリアは察せられるようになっていた。
「そ、それでその……子ども達はどうされたのです?」
イシュラはぶかぶかの黒いローブを着ている少年達へ目を向けていた。
腰や胸の辺りで紐で縛り、何とか着ているという状態なのだ。
「ああ。なんか、教会から指示されて私をつけて来てたから、捕まえて実験体にしたの!」
「……テリア、説明頼みます」
「はい」
「あれ?」
なんだかイシュラも色々と慣れてきたようだ。
放置されたファナは、とりあえずと王の診察を始めた。
「痛みとか、変な感じがする所はない?」
「今朝起きたらほとんど気になるところがなくなっていた。昨晩は頭が痛かったんだが……」
「ちゃんと寝れた?」
「ああ。自然に起きた感じだ」
「そう。なら大丈夫。頭は、単に使い過ぎ。無理やり体を動かしてたから、その負荷が一気に来たんだと思う。薬を用意しとくんだったね」
予想は出来たので、痛み止めを渡しておいても良かったのだ。
「いや、我慢できないほどではなかった。気にしないでくれ」
「そう? でも、一応は完治するまで面倒見るのが流儀だから、またなんかあったら言って。前例がないやつだから、薬を処方して終わりってわけにはいかないんだ」
毒霧の解毒など、確実にこれで治るという確証のないものだ。その場合は、薬を飲ませてあとは放っておけばいいという訳にはいかない。
「面倒をかける……」
「ははっ、なんか聞いてた印象と違うね」
「そうなのか?」
「うん。暴れん坊で、二言目には戦争! って言う脳筋だって聞いてたから」
「……」
王に対して言う言葉ではないが、それがファナらしいところでもある。王も特に気分を害した様子はなかった。ただ、微妙な表情にはなった。
「若い頃はそうだな……だが、一度言われたことがあってな……」
「ん?」
続きを促しながら、ファナは薬湯を淹れる。
「『戦争とはなんのためにするのか。その理由を持って本当にそれが今の国に必要なことなのかを一度市井に下りて考えるべきだ』と」
「良いこと言うね。現状を見ずにただ政策だけ考えて、仕事してる気になってる独りよがりな人って多いから」
「う……うむ……」
数字や結果だけを見て納得し、その結果を出すためにどれほどの犠牲があったのかを知らない為政者は多い。
現状を、現場を見ずに進めるから、下の者たちの不満は募るばかり。どんな表情で国を支えているのか。それを知らずに上で踏ん反り返っているのだから困る。
傾いていく兆候にさえ気付かないのだ。
「国土を広げれば、それだけ豊かな国になると思ってきた……だが、市井を見てそうではないのだと知った……」
戦争が、戦いが民達にとって、どれほどの犠牲を強いることなのか考えたことがなかったのだ。
「先ずは国を豊かにする。戦いによってではなく、考えることが必要なのだと……今更知ったのだ」
「知れて良かったじゃん。だいたい、豊かにしてやろうって思い上がっちゃだめだよ。王はもっと謙虚じゃなきゃ。王様ってのはね。国民の生活を守る裏方さんなんだよ? 他国に向けては王様だぞって、キラキラも見せつけて良いんだけど、普段は黒子さんじゃないとダメなの」
「……」
ファナの話は独特だ。意味不明な言葉も多い。けれど、聴こうと思うなら、その真意は汲み取れる。
「自然に『ありがとう』って国民に言ってもらえることをしなきゃダメなの。『感謝しろ!』って見せつける王様は嫌われるよ。名前も覚えてもらえないかも」
「……そうか……そうだな……」
力だけではいけないと彼は理解したのだ。
「それで、その時にテリアのお母さんと会ったんだ?」
「っ…….ああ……」
その話をテリアとイシュラは聞いていたのだ。
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