232 魔女は上手く操作しましょう
2019. 4. 1
ファナは三人の男達へ手を向けた。
気絶している者へは、気付け薬を投げつけて強制的に目を覚まさせている。
「は〜い。じゃあ楽にしてね〜」
「「「っ!!」」」
彼らは動けなかった。
三人の足下に揺らぎが生まれる。それは彼らの影だ。その影が彼らを呑み込む。
グニグニと影でできた丸い玉。それがふっと溶けるように地面に落ちると、そこには幼い五歳頃の子どもが立っていた。
「成功だねっ」
「「「……?」」」
嬉しそうにするファナは、そのまま彼らに近付いていく。
「「「!?」」」
近付くことで、彼らは混乱していた。
五歳の子どもにとって、背の低いファナでもとても大きく見えることだろう。その表情は驚きから恐怖、絶望へと変化していく。
屈み込んむようにして目線を合わせようとするファナにようやく自分たちの身に起きたことが分かったらしい。
「なっ、なに……っ」
「……え……」
「……は?」
小さな手を見て呆然とし、ダブダブになった服を掴んで首を傾げる。声も可愛らしかった。
「ふふふっ、これくらいの子なら、まあまあ誰でも可愛いよねっ」
「「「……っ」」」
泣きそうだ。
「あ、もう逃げても良いよ?」
「「「……!」」」
ここで解放されても、どうすればいいのか分からないというのは、考えなくても分かることだ。
だが、ファナはただ実験したかっただけだ。
成功したということが分かれば、後はどうでもいい。
彼らが途方に暮れようと構わない。
「も、もとにっ」
「ん? ああ、戻し方? どうかな?」
「え……」
ファナは本気で考え込む。
その様を見て、男達は地面にへたり込んだ。
「でも心配ないよ。これは影が持つ記憶を世界記憶に同機させたことで、過去の姿へ戻す術なんだ。ちゃんと今まで正しく、太陽の下で生きてきたのなら、影も元の姿へ戻ろうとするからね?」
「「「……」」」
「あれ? 分かんなかった?」
全く意味が分からないという顔をされた。仕方がないのでもう少し分かりやすくしてやる。
「だからね。ここ最近、後ろめたいこともなく、正しい行いをして堂々と日の下に出ていたなら、すぐに戻れるの♪」
「「「っ、」
それは、彼らにとって絶望的な答えだった。
「じゃあね〜」
子どもの姿になった三人を放置し、ファナはテリアを回収する。
飛んだ時に、取り残された三人は泣いていた。しかし、それをファナが確認するはずもない。
「お待たせ」
「……アレはない」
「一言目がソレ?」
ものすごく責められた。
男達にした説明を受けて、余計にテリアは呆れた表情で諭した。
「あれでは死んだようなものだろう? 教会が、魔女に子どもにされた者を受け入れると思うか?」
「あ、やっぱり? さっすが教会!」
「褒めるところでも、感心するところでもないからな!? あれで教会に助けを求めたら殺されるんだぞ?」
「かわいそうだね?」
「……」
ファナにとっては他人事だ。
未だに三人は泣きながらへたり込んだままだ。路地を覗いた人々も見なかったふりで通り過ぎていく。
明らかに事情がありそうな者達に関わっては面倒だ。それが例え子どもであっても、それは兵や騎士の仕事とでも思っているのだろう。
「はあ……実験なのだろう? なら、どうなるか近くで見てみないか?」
このテリアの提案を、ファナはよくよく考えてみた。それはとっても面白そうだ。
「あ〜……うん! そうだねっ。本当に戻るのか戻らないか知りたいかも!」
「じゃあ、連れて行こう」
「は〜い」
この後は王宮に戻るのではなく、宿を取ろうととしていたので、三人子どもが増えたところで問題はない。
ファナとテリアは下に降りると、泣き崩れている子ども達を連れて宿に向かって歩きだした。
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次回、15日の予定です。
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